『ザ・デイ・アフター』:『スレッズ』には及ばぬものの、ソフトに核の惨状を見せる | 灰色の脳細胞:JAZZよりほかに聴くものもなし

『ザ・デイ・アフター』:『スレッズ』には及ばぬものの、ソフトに核の惨状を見せる

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ザ・デイ・アフター [DVD]

83年に制作放映されたアメリカのテレビ映画。翌年、どれだけグロ耐性があろうとトラウマ必至の核戦争ものの最高傑作『スレッズ』が制作され、時代はリアルに核を戦慄していたといえる。

ちなみにこの80年代初頭はわたしにとって現在の起点であり、連続した過去としてぎりぎり存在しうる地点で、エイズが発見され、『笑っていいとも』が放映開始、宮崎駿の終末への畏れは『風の谷のナウシカ』として結実し、中沢新一は『ゼビウス』に何やら「大きな物語」が隠されているのではないかというプレイヤーの心理を忖度していたのは笑い話にしても、何かと郷愁と想像力で理解の範疇におさまる時代である。──どうでもいいのだが、ドゥルーズの『シネマ』が、こういう時代に上梓された一編であることは覚えておいていいかもしれない。

さて、世はニューヨークや西ドイツで100万人、200万人と桁外れの反核デモが唸りをあげていて、いわゆる相互確証破壊から逃れようというレーガン大統領のSDI構想への反発もあったと思うのだが、よくいわれるように少なくとも現在とは比較にならないほど、核戦争への危機感と予感に満ちていた。

そのさなかでの核戦争映画なのだから、盛り上がらないはずがない。実際テレビで放映されかなりの視聴率をあげているのだが、スタッフロール前のテロップで流れるとおり、全体的に相当控えめな描写である。

身体的な損傷もそうだし、汚染状況の改善がやたらにスムーズなことなど、いくらなんでもソフトに過ぎる。これでは核が落ちても、地下にこもっていればどうにかなるとか錯覚する人間が出てきてもおかしくないレベルである。

とはいえ、このあたりの甘さを差し引いても十分に嫌なテンションのあがる一編ではある。特にソ連から核ミサイルが発射され30分で着弾するという破滅的状況のさなかでの日常の残余を描いたのは評価に価するし、青空をミニットマンが続々とソ連に向けて飛び立ってゆくシーンのシュールさは、核と青空という定型的な結びつきにも関わらずやはり戦慄すべき風景である。見て損はない。

とりあえず核戦争ものの入門編といった位置を出ないとは思うが、どうしても『スレッズ』が見れないというひとは、本作でも十分に用は足りると思う。

★★★★☆

なお核についての動画を集めた「忘却からの帰還 Atomic Age」は必見である。彼の調査及び編集力は賞賛に値する。

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