★クリスマスストーリー『表参道の女』 | 藤沢あゆみオフィシャルブログ Powered by Ameba

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作家。著書29冊。相談30000件超。ananによる信頼できるカウンセラー20人の1人。NHKEテレハートネットTV出演。2023年4月「バズる!ハマる!売れる!集まる!WEB文章術 プロの仕掛け66」発売9日で増刷、7月18日枚方蔦屋書店で101人講演会開催

「収録には、本番の30分前に来ていただければ大丈夫です。ただ、公開放送になりますので、リスナーも期待しています。それっぽい服装で着ていただければ」


 

シルクのシャンパンゴールドのドレスに、シルバーフォックスのコート。イルミネーション輝くファッションビルをあたしは歩いてゆく。着飾った女たちが行き交うイブの街角。それでもこの装いは目に付くらしく、カップルたちが振り返った。


 

このドレスと、このコートは

あたしが、この一年がんばったことを象徴していた。

 


 

1年前のイブの日。ここでFMの公開放送を見ていた。

 

都内の20代の女性が選ぶ「ネット発で今年一番活躍したセレブ」として呼ばれているゲストは、あたしの憧れの歌手だった。彼女はyoutubeでブレイクして、歌手デビュー。

 

「いつか、あたしもこの番組に出れるかしら?」

彼にもたれかかりながら、夢を語った。

「もちろん、アイならなれるさ!」

そういって、頭をなでてくれた彼。

 

わずか1年の月日が、あたしを変えた。

 

マルキューで買ったワンピに、ダウンジャケットから

シルクのドレスに、シルバーフォックスに変わり

公開録画を見る人から、特別ゲストに変わった。

そして・・・寄り添うとなりは、今はもう・・・

 

「ねぇ、あたし中の人になったんだよ」

彼がもし見てくれたなら少しは驚いてくれるかしら?

 

「アイ、俺とのこと書いてみてよ」

 

フェイスブックのノートに、恋愛小説を書き始めたきっかけは彼のこんな一言からだった。そのうち、毎日200いいね!がつくようになりアイのフェイスブックページを開き

 

いつも、

自分の写真を彼に撮ってもらって、連載小説の最後に載せた。

それを楽しみにしてると若い女の子たちにいわれるようになり

 

iphpneアプリにしませんかと言う話がきて・・・

それからはあっという間だった。

 

誰よりも早くあたしを見つけてくれた人。


たった一人の読者にむけて書き始めた小説で

あたしは、100万人に読まれる恋愛小説家になった。

 

 

「それにしても、アイ先生はオシャレでセクシーですね。

ダーリンさんはおしあわせですね。

でも、イブの日に収録なんて、怒られませんでしたか?」

 

ふふふ・・・

あたしは含み笑いをする。

 

実録恋愛小説でブレイクしたあたしは

今もラブラブなことになっている。

現代のシンデレラストーリーだと言われた。


人生の転落から救ってくれた彼と、表参道で暮らしてる。

そんな恋愛小説家アイは見かけによらず料理が好きで・・・

 

そう・・・人生の転落を救ってくれた男がいた。一躍ミリオンセラー作家になり、ほんとうに表参道に引っ越した。

 

「そうですね。やっぱり外にディナーを食べに行くのもいいけど

ダーリンには、アイの手料理を食べてほしいと思いま~す☆」

 

期待通りの言葉を返す。

 

料理なんて、いつからしてないか思い出せない。

 


 

「それでは、みなさま、すてきなクリスマスをね!」

収録が終わり、満面の笑みでスタジオを後にした。

 

ビルを出てタクシーに手を上げる。

涙がこぼれてしまいそうだったから。

シャンパンゴールドのドレスに、シルバーフォックス。

このいでたちに、涙は似合わない。

 

「表参道まで」

 

「え?結構距離あるよ?まぁその格好じゃ電車に乗る感じじゃないけど」

 

誰にも、会いたくなかった。

誰にも、見られたくなかった。

 

「いや~こんなきれいなお姉さんを乗せるなんて、ついてるね~。彼氏が待ってるのかい。はやく行ってやらなきゃな」

 

ふふふ・・・

あたしはお決まりの含み笑いを引っ込めた。

 

「あたしね、若い子の間では結構有名なんだ。

100万人が読む本を書いたの。

しあわせで、売れっ子で、オシャレなうちにすんで。

 

・・・全部全部嘘なの。

 

もういないのよ!彼氏なんて!

 

毎日ね、写真を撮ってもらった。

 

でも、撮る人がいなくなって・・・男が撮ってるようにって、フェイスブックをしてないカメラマンさんに頼んだ・・・

 

だってバレたらみじめじゃない?

 

うちの中がむちゃくちゃなの。

料理もあれから出来なくなって・・・」

 

次から次へと、何かがこみ上げ止まらない。

 

「最近読んだ本にね、書いてあったの。

部屋をときめくものだけにしなさいって。

 

あたしはね。

ときめくモノに囲まれて暮らしてるよ。

女の子が見たらうらやましがるようなものばかりに。

 

でも・・・

もうそこには、イノチがないの。

 

しあわせだったときに使ってたものだから。

 

あたし、みんなに嘘をついてるの。今日も嘘ばっかり話してきたの。あたし・・・しあわせなセレブなんかじゃない!」

 

もしかしたら、ずっと誰かに聞いてほしかったのかもしれない。

おじさんは、驚く様子もなく、まくし立てるあたしの話しを聞いている。

 

「そうかい、道理で普通と雰囲気が違うと思ったよ。

 

お姉さん、がんばったんだね。

最近そうじがどうのこうのという本、はやってるよね。

うちのかみさんも読んでるけど、一向にうちはきれいにならないね~ははははは。


うちが汚い?今日、帰ったら部屋にお礼を言うんだね」

 

「部屋に・・・お礼?」

 

「そうだよ。汚させてくれて、ありがとうってね。

外ではいつも笑ってるお姉さんの本音が、その部屋なんだよ。

がんばれるのもその部屋のおかげだよ。

 

部屋なんか男が出来てから片付ければいいじゃないか。

吐き出す場がないと弱ってしまうよ。


ただ、その部屋が嫌だと思ってるのなら、

もう立ち直りかけてる証拠だね」

 

 

汚させてくれて、ありがとう・・・

汚させてくれて、ありがとう・・・

汚させてくれて、ありがとう・・・

 

張り詰めていたものが、はらはらと崩れた気がした。

 

「おじさん・・・何者なの?」

 

「ははは。会社つぶしてな。

かみさんが、うちをきれいにしたいと思ってくれるくらい

しあわせな生活に戻らなきゃな」

 

「だいじょうぶだよ。おじさん、かっこいいもん」

 

「お姉さんもだよ。今年はたくさんの子達をしあわせにしたんだから来年は、しあわせになれるさ。

 

世の中にはしあわせの法則というのがあってね。

 

やせ我慢してでも人をしあわせにしてる人がいたら

周りの人はあの人をしあわせにしたいと思うんだよ

 

だからしあわせが足らないときは誰かが気づいてくれるまで

周りをしあわせにしとけばいいんだ」

 

「ありがとう・・・

おじさん、本が書けるよ。知り合いの編集さん、紹介しようか?」

 

「いいねぇ、そしたらうちが片付くかな?あ、そろそろつくよ」

 

 

オートロックが開くのももどかしくマンションに駆け込んだ。

 

ただいま・・・

汚させてくれて、ありがとう・・・

 

誰もが憧れたこの空間を、あたしは一生懸命汚していた。


あたしが、外で輝けるように

部屋が、あたしの心の闇を吸い取ってくれていたんだ。

 

あたしは、ひとりなんかじゃなかったんだね。


汚させてくれて、ありがとう・・・

こんなにしてしまって、ごめんなさい・・・

 

止まった時計の針を動かすように

あたしは広すぎるベッドに散乱した服を、一枚一枚たたんでいた。服は細かくたたみなさいと書いてあったことを思い出した。

 

書類で埋まったデスクを、一心に拭いていた。

 

 

ドレスを脱ぎすて、あたしはマックを立ち上げた。

 

ここで、いっぱい悲しんで

このパソコンで、いっぱいみんなをしあわせにしたんだ。


あたしは、かわいそうな女じゃなかったんだ。

ただただ、次のしあわせの準備をしていただけなんだ。

 

来年のクリスマスは、今年の分もしあわせになれる!

あたしの本の中に住む、アイのようにね。

 

いまからケーキでも作ろうかな?

また、料理の腕でも上げとかなきゃ。

 


 

「メリークリスマス、アイ!」

 

あたしをみつめ、囁いてくれるまだみぬ誰かのために。