借金は膨れ上がり首が回らなくなっています。彼はその会社の社長さんに、返済を待ってくださいと申し入れに行ったのでした。
「いやぁ、貧乏で冬物の背広が買われへんのですわ」彼は取引先の人にそう言って笑いました。
でも実は・・・冬物の背広は彼の肩には重すぎたのです。彼は難病を患っていました。筋ジストロフィー。首から下の筋肉がどんどん動かなくなり最後は寝たきりになりなにもできなくなる、そう宣告されていました。
そして確実に症状は進んでいました。だけどもちろん病気のことは誰にも話していません。
ビルには階段がありませんでした。彼はその日もここで右足を出して、ここで左足を出してと計算して階段を上っていました。少しでもふらついたら階段から転倒してしまいます。
4階に着いたときは汗だくでした。だけど、精いっぱいの笑顔を作り扉を開けます。体が悪いからこそ笑顔でいないと運は逃げてゆく、彼はそう思っていました。
社長は彼を見るなりこう言いました。
「なんやその汗は!姑息な真似をするな!」
彼にはいきなり怒鳴られる意味がわかりませんでした。
「借金が払えんとは言えずにこのビル中を走り回ってがんばったけどだめでしたとそういうポーズを付けとるんやろ!」
彼は頭が真っ白になりました。言い訳する気なんて全くなかったのです。
「病院でもなんでも入って養生しとけや。お前みたいなもんはが一人いなくなろうが二人いなくなろうが世の中は痛くもかゆくもないんじゃ!」
彼はありがとうございました!といってその会社を後にしました。体は悪くなる、借金は増えるばかり、その日彼は人生で初めて自殺したいと思ったそうです。
もう、これで借金に追われることもない、婚約者の彼女からは結婚資金にためていたお金をすべて借り、彼女の父親にも借金をしていました。これでやっと楽になる。そう思うとホッとしました。
そうして彼は彼女や彼女の父親、自分にお金を貸してくれた人たちに遺書をしたためました。そしてそのあとのことを考えたのです。3日くらいはみんな同情してくれるだろう。
「あいつ体が悪いのによう頑張ったな。難病だったんか・・・かわいそうやな」
でも4日たったら・・・
そのとき彼は言いようのない恐怖に襲われたといいます。自分が忘れ去られてしまうことが本当に怖くなったのです、
今思うとその日、運命に試されたと彼は言います。
僕にはまだ生きていく道がある。
借金をしたまま死ぬのは恥ずかしい・・・まだ恥ずかしいと思える心があるんだ、そう思うと力がわいてきたそうです。
すると運もついてきて、借金のもととなっていた裁判に勝訴、彼は5億円ともいわれる借金を完済したそうです。
このお話は、春山満さんのご著書からお届けしました。ご紹介したいのですがもうアマゾンで扱っていないのです。「僕にできないこと。僕にしかできないこと。」という本です。
さて、自殺のお話。
わたしは、すべてを失ったと思ったとき、死んだら楽になれるなと思ったことがあります。
ただ、その一ヶ月前、手術をしないと即死だという病気から生還したばかりでした。半日がかりの大手術だったのです。
で、ふと思ったのです。そんな思いまで生き残ったのにわざわざ死ぬのも・・・。医療費が1カ月63200円以上かかったら還付されるとかでそれを目いっぱい使ったし国にも申し訳ないかなぁと。
本当にそのことを考えた人間が思いとどまる時って案外こんな感じです。
よくある「あなたがぼーっと生きた今日の1日はどうしてもいきたかった人が生きられなかった1日なのですよ!」とか言われて刺さる人は本当にそこまで追い詰められてません(笑)
その話に感動できるあなた、あなたは全然だいじょうぶです(^^)自分ごとになった人間は人と比べる発想になりません。
春山さんも、別に死ぬのは今日じゃなくてもええやんと思ったそうです(by 関西人)
まじめな理由を言えば、死ぬ寸前までいって生還したってことは今は生きる意味がわからないけど、生きるべき人なのかなー自分と思ったのでした。そう思ったのは冷静になってからですよー。
生きていたので作家になれました。あなたに会えました。そしてブログを書いています。
そうそう。
死ぬ気になれば何でもできる、はほんとうです。
夜なので、ちょっとハードボイルドなお話をお届けしました。読んでくれてありがとう、お仕事に戻ります
394回目のモテゾーは