本当にあった怖い話 -13ページ目

本当にあった怖い話

本当にあった怖い話と意味がわかると怖い話を解説付きで書いています

769 :赤緑 ◆kJAS6iN932 :2008/10/05(日) 09:10:06 ID:34cNrvA10
[日記]
1/9

●1985年 2月5日
私は知った。
この世界には神も仏もいない。
いるのは人間のみ。なんて残酷な事実だろう。
希望も何もあったものじゃない。
昨夜、妻の容子が亡くなった。34歳という若さで、だ。
彼女と結婚して15年。2人の子供にも恵まれ、幸せな家庭だった。
それが崩れ去った。
この悲しみはどうすればいいのだろう。
娘の優理は昨夜からずっと泣いていたが、今は疲れて寝てしまった。
暁彦は呆然としていた。かなりのショックを受けてしまったようだ。
私も同じで、涙さえ流れない。私と暁彦の分も、優理が泣いてくれているようだ。

●1985年 2月7日
妻の亡骸を葬ってやらねばならないが、優理が母親の元から離れようとしない。困ったものだ。
暁彦は部屋に篭ってしまった。食事を持っていくと、何も言わずそれだけは食べてくれる。
私はどうすればいい?


770 :赤緑 ◆kJAS6iN932 :2008/10/05(日) 09:14:28 ID:34cNrvA10
2/9

●1985年 2月9日
優理が眠っている間に、亡骸を庭に埋めた。
このようなことは本来許されないのだろうが、妻を焼却し骨にするなんて私には出来ない。
あの美しい姿のまま・・・土に還って欲しい。
目を覚ました優理が泣き叫んでいたが、母親は天国に行ったのだと説明する。
いつまでも優理のことを見守っているよ、と言うと分かってくれたようだ。
聞き分けの良い子だ・・・が、まだ幼い。きっとまた泣き出してしまうだろう。
暁彦は相変わらずだ。何とかしなければ。
しかし私も気力がない・・・。

●1985年 2月12日
優理の部屋から話し声がしたので入ってみると、鏡に向かって会話をしていた。
相手は母親、としているようだ。
残酷だが、母親はもうここには居ない、と言うと、やはり泣き出してしまった。
暁彦は部屋から出てくるようになった。・・・が、すっかり無口になってしまった。


771 :赤緑 ◆kJAS6iN932 :2008/10/05(日) 09:22:26 ID:34cNrvA10
3/9

●1985年 2月18日
夜中、優理が突然泣き出すことが多い。
一緒の部屋に寝るようにしているが、父親の私ではやはり母親の代わりは無理だ。
寝不足の日が続く・・・。

●1985年 2月20日
疲れが抜けない。沈んだ気持ちから抜け出せない。
これで自分が倒れたら、子供達が・・・。しっかりしなければ。

●1985年 2月25日
ひたすらに本を読んでいる。
気分を紛らわせなければ、私まで駄目になってしまいそうだ。
優理が人形と遊んでいた。確か妻から貰ったヌイグルミだ。
そんな姿を見ると、私の心は押しつぶされそうになる。

●1985年 3月2日
興味深い本を見つけた。少し没頭してみよう。
無口で愛想の無くなった暁彦を見ると、イライラしてしまう。
自分の責任だろうに、私は駄目な父親だ。


772 :赤緑 ◆kJAS6iN932 :2008/10/05(日) 09:26:31 ID:34cNrvA10
4/9

●1985年 3月8日
この世界には神も仏もいない。
いるのは人間のみ・・・ならば。
人間は、神になれるのではないだろうか。その業を行えるのではないだろうか。
私はこれからの生涯を掛けるべき、目的を見つけた。
子供達のためにも、きっとやり遂げてみせる。

――――――

●1985年 12月5日
あれから8ヶ月。
必要とされるものは、大半揃った。
財産のほとんどをつぎ込んでしまったが、構わない。
計画は、優理に手伝ってもらおう。
まだ幼いながら、母親に似て、優理は美しい。
彼女こそ相応しいだろう・・・。

●1985年 12月25日
世間はクリスマスだ。
去年の幸せな時間を思い出してしまう。
優理は特にそうだろう。今は部屋にいるが、きっと泣いているに違いない・・・。
2人の子供よ。今にきっと、最高のプレゼントをあげるからな。
それまで我慢してくれ・・・。


773 :赤緑 ◆kJAS6iN932 :2008/10/05(日) 09:29:11 ID:34cNrvA10
5/9

●1985年 12月28日
準備が整った。
しかし、まずは実験をしなければ。優理で失敗するわけにはいかない。
実験の相手は決まっている。暁彦だ。
実の兄妹である訳だし、これ以上の実験体は存在しないだろう。

●1986年 1月5日
・・・失敗だ!
やはり無理なのだろうか?それとも何かが足りなかったのか?
しかしここで止めるわけにはいかない・・・。

●1986年 1月28日
突き止めた。これだ。
媒体に問題があったのだ。
しかしこれは、どうすればいい?
今の時代でこれを大量に手に入れるには・・・?
単純な話だ。そこら辺に居る。
優理なら問題なく連れて来てくれるだろう。

●1986年 2月4日
妻が亡くなってから1年。
待っていろよ、容子。

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774 :赤緑 ◆kJAS6iN932 :2008/10/05(日) 09:33:07 ID:34cNrvA10
6/9

●1986年 3月5日
優理はよくやってくれている。
身なりを整えたその姿は、我が娘ながら心を奪われる。
それに比べて、暁彦の態度が悪くなってきた。
少し頭がおかしくなっているのかもしれないが、まぁ、問題はない。

●1986年 7月16日
頃合だ。明日だ。明日決行する!

●1986年 7月17日
優理は気付いているだろうか。
自分が、誰もが望んで止まないものを手に入れたということを。
しかし、しばらくは様子を見ることにする。
もし本当に成功なら、この応用で妻を蘇らせるのだ。
暁彦も治してやらなければならない。


775 :赤緑 ◆kJAS6iN932 :2008/10/05(日) 09:36:52 ID:34cNrvA10
7/9

●1987年 7月21日
1年振りか。
優理は美しい姿のまま、1年前と何の変化も見られない。
容子が亡くなってから2年以上経ってしまったが、ついに彼女に会える日がきた。

●1987年 7月22日
なぜだ?
なぜ?なぜだ?なぜなんだ?
あれは容子じゃない。あんなもの、容子じゃない!

●1987年 7月29日
祖父が死んでからずっと空き家になっていた家に、あれを隔離した。
あれをどうやって連れて行くか悩んでいたが、どうやってか、優理が連れて行ってくれた。
しかし、あれは一体なんだったのだろう・・・。

●1987念 7月30日
優理が嬉しいことを言ってくれた。
容子は、その魂は、まだここに居るというのだ。
どうやら私のやり方が間違っていたようだ。
優理は全てを知っているのだろう。
あとは優理に任せるべきか?


776 :赤緑 ◆kJAS6iN932 :2008/10/05(日) 09:39:22 ID:34cNrvA10
8/9

●1987年 8月2日
ここに居るというのに、私は容子に会えない。
優理はその存在を感じているようだが、私にはさっぱり分からない。
会いたい・・・美しかった彼女に、会いたい。

●1987年 8月3日
優理に何とかできないかと頼んでみたが、今はまだ何ともならないと言う。
時間が必要だと言い、それも何年掛かるか分からないと言われた。
頭にきて、思わず優理を叩いてしまった。優理は悲しそうな顔をしていた。
しかし分かって欲しい。
私は今、41だ。容子は34で亡くなった。
今後何年掛かるか知らないが、私はどんどん老いていく。
年齢差は開く一方・・・これには耐えられない。
死人は年を取らないし、優理もまた年を取らない。
暁彦の成長もかなり遅くなっているが、暁彦はいずれ、姿かたちが崩れてしまうだろう。
私もまた優理のようになることを考えたが、暁彦と容子の失敗を見てみると、その勇気はない。暁彦のようにいずれ崩れる運命になるのは最悪だ。
一番良いのは・・・私も死んでしまうことだろうか?


777 :赤緑 ◆kJAS6iN932 :2008/10/05(日) 09:43:02 ID:34cNrvA10
9/9

●1987年 8月6日
先日考えたことが、まさに正しい道に思えてきた。
私が死んでも、いずれ優理が目覚めさせてくれる。
しかも、死ねばきっと容子に会えるだろう。
死ぬことにした、と優理に話すと、泣き出してしまった。
寂しいから嫌だというが、暁彦がいるだろう。
変わってしまったが、あれでも兄だ。それに私も、ずっとここに居る。
そう言って抱きしめ、頭を撫でてあげると、やっと泣き止んでくれた。
そして優理は諦めたような顔をすると、ヌイグルミを抱えて部屋に戻っていった。
甘えたいのが痛いほど分かる。しかし私はもう限界だった。
いつか、また家族4人で会えたときには、きっと・・・。
死に方は決めている。
また優理が泣いてしまうだろうから、死体は見せる訳にはいかない。
私は毒を飲み、家の焼却炉でこの身を焼こう。

それでは一時の別れだ。
愛する2人の子供、暁彦、優理。

また会う日まで。

――――――――――
〆寺坂 三矢

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653 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/28(日) 23:29:45 ID:F7jXgblw0
羅漢の門 1/8

広島のS寺で聞いた甕の情報は、奈良県のある遺構に関係していた。
1日で訪問するには移動距離があったので、この日は広島に泊まり、翌日、奈良まで戻ることにした。
飛び込みのビジネスホテルに個室を取ってもらった私は、「少し疲れたかな。具合が悪い」と、隣室で早々に寝てしまった教授を気にしつつ、兄貴に電話をした。

「お疲れ」

兄貴の労う声が、広島の街で抱え込んできた戦争の重さと、明日への不安を軽くしてくれる。
「うん。疲れた」と、素直に泣き言を伝えた。
今日の行動を簡単に伝え、明日の予定を告げると、兄貴は、「藤原京?」と、ことさらに興味を惹かれた様子で食いついてきた。
そう。明日の訪問先は橿原市にある藤原京の発掘現場。
藤原京っていうのは、教科書では馴染みのない名前かもしれない。
実際、教授に詳しく説明してもらうまで、私も、どの時代に当たるのかがわからなかった。


654 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/28(日) 23:31:45 ID:F7jXgblw0
羅漢の門 2/8

「藤原京って、大化の改新時に飛鳥から遷都された都だろ?中大兄皇子(なかのおおえのおうじ)と中臣鎌足(なかとみのかまたり)が建てたんだっけ?」

ほらほらほら。兄貴も勘違いしてるぞ(笑)。

「それが違うんだってば。中大兄皇子は後に天智天皇になってるよね。遷都は、その娘の持統天皇の時代だよ。30年後ね」

聖徳太子や蘇我氏が活躍した飛鳥時代。政治、宗教、文化ともに大きく花開いた時代だったようだけど、途中で【乙巳の変(いっしのへん)】という暗殺事件が起こって、様相が一変する。
中大兄皇子と中臣鎌足が、当時の最高権力者だった蘇我入鹿を殺し、世代交代を図ったのだ。
その後に行われたのが、有名な大化の改新。
私は、暗殺事件そのものが大化の改新って言うのかと思ってたけど、正確には、税金の納め方などを法で整備した政治改革のことらしい。
大化の改新を経て、都を手中にした中大兄皇子(天智天皇)と中臣鎌足(藤原氏の始祖)は、さらに大きな力を得るために都を移した。
藤原京は、中国の風水の思想を取り入れた造りになっていたそうだ。
南の入り口に当たる門は【朱雀門】、北は【玄武門】、東には【青龍門】、西には【白虎門】。
都の道路は碁盤の目で区切られ、中央の門から順に数字が割り当てられている。
その後に作られた平城京も平安京もこの造りを真似ているから、京都の通りは今でも、一条通、二条通、という名称なんだって。


655 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/28(日) 23:32:50 ID:F7jXgblw0
羅漢の門 3/8

「その構造を強く勧めたのが藤原氏だったらしいよ」

と、私は、教授の受け売りを説明し続けた。

「藤原氏はもともと神官の能力を持った家系だったの。だから、藤原京を造るときにも、自然の気の力を重んじたんだって」
「神官…ねえ…」

兄貴は、意味ありげに繰り返す
「なあに?おかしなこと言った?」と聞くと、「陰陽師って知ってる?」と、逆に聞き返された。
…えっと…。安倍晴明みたいな人のこと…?

「陰陽師は、風水と同じく中国から渡ってきた陰陽道っていう思想を実践する人のことね。清明もその1人だけど、その以前の有名人が藤原不比等(ふじわらのふひと)」

兄貴が出した名前に、思わず、「その人!藤原不比等が当時の実権を握ってたんだよ」と大声で賛同してしまった(汗)。
そっかあ。歴史的にも有名人だったんだ。


656 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/28(日) 23:34:16 ID:F7jXgblw0
羅漢の門 4/8

私の反応に笑いながら、兄貴は続ける。

「陰陽道っていうのは、正しい気の流れを司る目的があったから、しばしば、怨霊…つまり、負の気ね、それを抑える呪法も行ったんだ」
「うんうん」

兄貴の話は教授の話と合致する。

「俺も方法は詳しく知らん。護摩壇や祈祷は陰陽道でも行われていたらしいけど。さっき、お前が言った【四神の門】は結界の一種だな。魔を都に入れないための手法だ」

そうだよ、兄貴。さすが、破戒僧でもお坊さんだ。

「教授が言うには、藤原京は、門の他にも、大和三山を結界にしてるらしいよ。だから、3つの山に囲まれた土地に建てる必要があったんだって」

と補足すると、兄貴は、「なるほどねえ」と感心する。

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658 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/28(日) 23:36:27 ID:F7jXgblw0
羅漢の門 5/8

「そこで甕の話に戻るけど」

長い前置きに区切りをつけて、私は話題を変えた。

「あの甕は、藤原京の朱雀門のさらに南で、飛鳥から怨霊が入り込むのを防ぐ役割をしていた、と、S寺の和尚さんが言ってたの」
「怨霊って…蘇我入鹿か?」

兄貴の察しが格段によくなったので、話が早い。

「そう。藤原氏にとっては、自分の一族が直接手にかけた入鹿を、ことさらに怖がる理由があったみたいなんだ」
「入鹿は祟ったって言うしな」

兄貴も笑いながら賛同する。
実際、入鹿の霊を慰めるための首塚が、いまでも飛鳥寺に残されている。

「甕が怨霊を防いだってことは、結界を張るのに使われたってこと?」

兄貴の質問に、私は答える。

「藤原京には飛鳥からの直通道路があって、怨霊もその道を通って都に侵入する可能性があったわけ。だから、その道路、【中つ道】の途中に霊力のある甕を埋めて、人は通れるけど魔は通れないって意味づけをしたみたいだよ」
「甕の霊力って…あの厄介な祟りのこと?」

電話口で兄貴が苦笑する。


659 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/28(日) 23:38:25 ID:F7jXgblw0
羅漢の門 6/8

ここからは、S寺の住職の話から、教授が導き出した甕のいきさつになる。
藤原京の安泰のために施された中つ道の結界には、多数の修験者が関わったらしい。
修験者というのは、山岳などの厳しい自然の中で苦行を積んだ僧侶たちのこと。
彼らは、寺院を持たないことから、一般の僧侶よりも下の階級に見られ、後の時代には羅漢(らかん)とも呼ばれた。
五百羅漢など、屋外に野ざらしにされている仏様を、現在でも見ることがあるでしょ?ああいう待遇。
藤原氏は、修行で高次の霊力を得た羅漢たちを強制的に集め、中つ道のどこかに拘束して、藤原京のために祈らせたのだろう。
たぶん、寝食すらまともに与えずに。
呪具として、羅漢たちと一緒に置かれた甕は、彼らの飢えの苦しさを受け入れた。何人もの餓死者の無念を。
それが祟りの正体だ。
と、教授は推察している。

「ありえるな。あの甕の呪力は、一人二人の恨みじゃ追いつかないからね」

と、兄貴。

「いまでも、声が聞こえる?」

と私。

「ああ。あれはハッタリ。お前が教授の妹さんを怖がってたから、ああ言えばおとなしく甕に戻ると思って言っただけ」

と、兄貴…。
……ほんっとに、ほんっとに、兄貴って、霊感ないんだね(汗)。


662 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/28(日) 23:42:00 ID:F7jXgblw0
羅漢の門 7/8

「ところで、教授はまだ起きてる?」

兄貴が聞くので、教授の体調がよくないことを伝えた。

「あらら…。もし重篤化したら、お前、病院とか手配できる?」
「病院に連れて行くことぐらいはできるけど…」

正直、心細い…。
「兄貴が来てくれたら嬉しいんだけど…」と伝えると、兄貴は、「うーん」と唸って、考え込んだ。

「俺も行ってやりたいけど、明日、檀家の一人が亡くなる予定だから、待機してないといけないんだよね」
「…」

よ、予定?(汗)
「縁起の悪いこと言わないでよ」と叱ると、兄貴は声を潜めて言う。

「だってさ、いま本堂の横で電話してんだけど、本堂にその爺さんが来て座ってんだよ。あれ、絶対に実体じゃねーぞ」

反射的に時計を見た。午後10時に近い。
足元から寒気が上ってきた。

「私1人で大丈夫だから!兄貴が来ると、教授、余計に弱りそうだから!」

【丁重に】断ると、「その意気だ」と兄貴は笑った。


663 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/28(日) 23:42:58 ID:F7jXgblw0
羅漢の門 8/8

電話を切ってから、教授の部屋を見舞うと、案の定、教授は高熱を出し始めてた。
「救急車、呼んでもらいましょうか?」と聞くと、「明日には引くだろうから、様子見で」と弱々しい答えが返ってきた。
心配だったので、自分の部屋には帰らずに、教授の部屋のソファで転がった。
心細い。
ルーツが知れるにつれ、甕が力を増して、教授を連れて行きそうで。

<a href="http://hb.afl.rakuten.co.jp/hsc/0d37372e.9d8573f4.0d37372f.0fdfdf0c/_RTaupb10007001" target="_blank"><img src="http://hbb.afl.rakuten.co.jp/hsb/0d37372e.9d8573f4.0d37372f.0fdfdf0c/709718?_RTaupb10007001" border="0" /></a>
580 :赤緑 ◆kJAS6iN932 :2008/09/24(水) 09:48:44 ID:8InAxZ8c0
[呪いの業]
1/10

チクチクする。
明美はまた右手首の傷を確認した。
針で刺してしまったところが、ずっとチクチクと痛む。

明美「あの、針・・・変なばい菌でも入ったんじゃないでしょうね」

テレビを消しベッドに座り、一人つぶやく。
傷は小さく、別に深くも無いのに、その周りが痣のように変色している。
そこがチクチクと痛むのだ。

明美「まったく、サイテー・・・」

ラウンジにいたあの女かあのガキか、今度会ったら慰謝料でも請求してやろうか。
どうもイライラしてしょうがない。携帯を取り、彼氏に電話してみる。

明美「あー、幸雄?ちょっと聞いてよー」
幸雄「ん、あぁ、どうした?」

夜も遅い時間だったが、すぐ電話に出てくる。
何でも言うことを聞いてくれるし、何でも買ってくれる。
幸雄は明美にとって自慢の・・・便利な彼氏だった。


581 :赤緑 ◆kJAS6iN932 :2008/09/24(水) 09:52:48 ID:8InAxZ8c0
2/10

明美「ほら、昨日さー、ラウンジで怪我したじゃない?あたし。あの汚いヌイグルミのせいでさー」
幸雄「あ、あぁ、あれな。ひでぇ奴らだったな」
明美「そう。でさぁ、その傷がずっと痛いのよねー。ちょっとさ、明日病院に連れていってくれない?」
幸雄「あ、おう。そんなに痛いのか?」
明美「うん・・・ずっと、すごく痛いの」

ちょっとチクチクする程度だが、すごく痛いといっておこう。

幸雄「そう、か。俺もさ、何かさ、左目がずっと痒いんだよ」
明美「・・・はぁ?」
幸雄「だから、昨日からさ、何か目が痒くてさ」
明美「ちょっと、何?目が痒いのと、針で刺されて酷く痛がってる私と、一緒にしてるわけ?」
幸雄「いや、そんな訳じゃ」
明美「信じらんない。明日、朝早く迎えに来てよね。こっちはすごく痛くて大変なんだから」
幸雄「あ、ああ。うん。分かった。ごめんよ、朝一で行くよ」

明美は携帯を切り、ベッドに横になる。これくらい言っておけばいいか。
そしてそのまま、これをネタに今度何を買って貰おうか、などと考えつつ、寝てしまった。


582 :赤緑 ◆kJAS6iN932 :2008/09/24(水) 09:58:30 ID:8InAxZ8c0
3/10

チクチク・・・じゃない。ウズウズする。
気持ち悪い・・・なにか蠢いているような・・・。
明美は嫌な感じに襲われ、目を覚ました。
体を起こしてベッドに座り、ベッドランプを付け、時計を見る。2:30を過ぎたところだった。
そして眠りを妨げる忌々しい手首を見て、明美は凍りついた。

目だ。
手首の傷が横長に開いて・・・そこから目が覗いている。
瞼もまつ毛もない目がそこにあり、キョロキョロと動き・・・明美と目が合った。
明美は理解出来ず、口を開けたまま、声も出なかった。
ゆっくりと手首を裏返し、ベッドに伏せる。いやな汗が出てきた。
夢・・・だ。きっと悪い夢を見てるんだ。
しかし感覚がある。手首で何かが蠢いている感覚が。気持ち悪い・・・!
明美は助けを求めるように、何があるわけでもない暗い部屋を見渡した。
そこで、別のものを見てしまった。

部屋の隅に誰かいる。
ベッドランプの灯だけではよく見えない。幸雄・・・?と思ったが、そんな訳はない。
誰なの?と言おうとしたところで、更なる異常が始まった。

<a href="http://hb.afl.rakuten.co.jp/hsc/0d3734ad.b62123a8.0d3734ae.d6d0610f/_RTaupb10006001" target="_blank"><img src="http://hbb.afl.rakuten.co.jp/hsb/0d3734ad.b62123a8.0d3734ae.d6d0610f/709712?_RTaupb10006001" border="0" /></a>

583 :赤緑 ◆kJAS6iN932 :2008/09/24(水) 10:02:25 ID:8InAxZ8c0
4/10

壁から手が、天井から足が、床から頭が出てきた。
それも少しだけ出てきた、ということではない。
無数の真っ黒な人影が、壁や天井、床から沸いてくるのだ。
大して広くない部屋に、どんどん沸いてくる。
明美は目を見開き、唖然とする。叫び声を上げたいのに、なぜか声が出ない。
何?一体、何?理解できない。頭で、理解が、できない。

人影は増え続け、ベッドの上にも沸いてくる。明美は完全に囲まれてしまった。
しかしそれらは襲い掛かってくる訳でもなく、ただ明美の方を向いて立っている。
顔も黒く、表情は見えない。
明美の頭は混乱し、いよいよその限界を超えそうになったとき、声が聞こえてきた。
クスクスと笑う声。女の子の、笑い声だ。
ふと気付くと、人影の中、明美のすぐ目の前に小さな女の子が立っていた。
真っ白なワンピースを着ている。
ベッドランプだけの薄暗い中でも、その子の姿だけははっきりと見えた。


584 :赤緑 ◆kJAS6iN932 :2008/09/24(水) 10:08:35 ID:8InAxZ8c0
5/10

少女「ねぇ・・・どんな気分?」

少女はクスクスと笑いながら、明美に話しかけてきた。
しかし明美は何も答えることができない。

少女「そっか、もう話せなかったね」

言葉を発せないことを知っているようだ。少女はフフフと妖しく笑う。
それを見て明美は思う・・・なんて・・・綺麗な子だろう。

少女「手首、気持ち悪いでしょ」

少女は明美の手首を持ち、目の前に掲げる。

少女「ほら、これで楽になるよ?」

そう言うと、少女は果物ナイフを明美に差し出した。
確か台所にあった小さな果物ナイフだ。そうだ、これで・・・。
明美は虚ろな表情でそれを受け取り、左手に逆手で持ち、右手首の目に狙いを定める。

ナイフを目に近づけると、明美の頭の中に声が響いた。

「やめてやめてやめてやめて―――――」

明美は思う。いいぞ、こいつ、怖がってる。私に散々嫌な思いをさせて・・・許さない。


585 :赤緑 ◆kJAS6iN932 :2008/09/24(水) 10:14:44 ID:8InAxZ8c0
6/10

明美はナイフを強く握り締めると、手首の目に突き刺した。
その瞬間、頭の中に叫び声が響く。
目から血が噴き出し、涙のように流れていく。
その声を聞いて、明美の口元に笑みが浮かぶ。苦しめ、こいつめ・・・!
さらに力を込め、ナイフを一気に根元まで刺す。
血がますます噴き出すと共に、断末魔の叫び声が頭の中に響いた。
明美の顔に恍惚の笑みが浮かぶ。
やった・・・フフフ、やったんだ・・・アハハ・・・。

そしてそのまま・・・明美は意識を失った。

その様子をじっと見ていた少女は、満足気な笑みを浮かべると、その姿を消した。
それと同時に、部屋中にいた人影も消えていった。


586 :赤緑 ◆kJAS6iN932 :2008/09/24(水) 10:18:57 ID:8InAxZ8c0
7/10

・・・数日後。

明美の死体が友人によって発見される。
死因は、自ら手首を切っての失血死。
それと時を同じくして、明美の交際相手であった幸雄の死体も発見される。
なんらかの刃物で、左目を奥深くまで突き刺された刺殺体であった。

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587 :赤緑 ◆kJAS6iN932 :2008/09/24(水) 10:25:44 ID:8InAxZ8c0
8/10

都会の雑踏。
12月のこの時期、昼間から人々は忙しそうに行ったり来たりしている。
私はビルの屋上に座り、膝の上にお友達をのせ、何を考えるでもなく下を眺めていた。
寒い季節だが、私には関係ない。いつでも、お気に入りの・・・ママが作ってくれた、お揃いの白いワンピースを着ていられる。
ママのことを思い出すと、いまだに悲しくなる。もうあれから・・・20年以上経っているのに。

誰かが来た。誰か、と言ってもすぐ分かる。

声「優理、こんなとこで何してるんだ?」

私は振り向かずに答える。

私「兄様、お具合はいかがですか?」

兄様・・・暁彦(あつひこ)はそんな私の言葉を笑い飛ばす。

暁彦「にいさま、か。やめろやめろ、そんな気持ち悪い喋り方。もっと自由に話そうぜ?」

私は振り向き、その姿を見る。
長髪に、黒いジャケット。ピアスに指輪・・・。
私は兄様のそんな格好が嫌いだ。昔は違ったのに・・・すっかり変わってしまった。何もかも。


588 :赤緑 ◆kJAS6iN932 :2008/09/24(水) 10:32:50 ID:8InAxZ8c0
9/10

暁彦「なぁ、この前あの大学の学生2人が死んだの・・・おまえだろ」
私「・・・うん」
暁彦「やっぱりなぁ・・・いやいや、怖いねぇ、優理は」

ニヤニヤと笑っている。そんな表情も嫌いだ。
私はラットを抱え、立ち上がる。

暁彦「ん、今度はどこに行くんだ?」
私「・・・パパとママのところ」
暁彦「そうか。親父とお袋も喜ぶよ、うんうん」
私「・・・・・・」

おやじ、おふくろ・・・。昔は兄様もパパ、ママと呼んでいた。
もう、姿かたちだけでなく、言葉使いも変わってしまった。

暁彦「そうだ、優理」

兄様は立ち去ろうとする私を呼び止める。

暁彦「お前さ、なんでお袋の姓を名乗ってるんだ?源川ってさ」
私「・・・別に、意味なんてない」
暁彦「へぇ・・・。ま、いいけどさ。寺坂の名が泣くぜ?」
私「・・・」


589 :赤緑 ◆kJAS6iN932 :2008/09/24(水) 10:38:43 ID:8InAxZ8c0
10/10

私は姿を消し、その場を立ち去る。
ママの姓を名乗っているのは、意味がある。
ママの事、あの頃の事、まだママが生きていた頃のことを、忘れたくないからだ。
パパも兄様も優しく、幸せだった頃のこと。
そう、毎日が楽しく、幸せだった・・・ママが病気で亡くなるまでは。
あれ以来、パパが何だか怖くなり・・・兄様も変わり、いや変えられ、私も変えられてしまった。

あの頃住んでいた洋館に着く。
パパが亡くなってから今はすっかり廃墟だが、ここは誰にも手を出させない。
私が全部守る、と決めたから。私の大切なものを汚す人間は、誰であろうと容赦しない・・・。

ここにはまだパパとママがいるんだ。
ママは・・・ママの一部は人里離れた一軒家で”生活”していたけど、誰かのせいで存在が消えてしまった。
でもここにはまだ残っている。パパとママは一緒にここに・・・いるんだ。
兄様はバランスが崩れかけていて、もうダメかもしれないけど、私にはいくらでも時間がある。
私がきっと、あの頃の幸せな、暖かな時間を取り戻してみせる。
どんな手を使ってでも、きっと取り戻してみせる・・・。

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