本当にあった怖い話 -14ページ目

本当にあった怖い話

本当にあった怖い話と意味がわかると怖い話を解説付きで書いています

535 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/20(土) 00:40:43 ID:VsVHhltb0
検体 1/11

広島までの行程に備えて、車の整備をした。
今回は、なんだか、私がしっかりしないといけない気がする。
教授の、非業の死を遂げた身内に関わることなのだから。
…きっと、いつもみたいに平静な旅にはならないよね…?

出発の声がかかる前に、問題の甕を見せてもらいたくて、兄貴に頼んだ。
でも、「駄目」の一言。
未だに継続中の呪いが、どんなふうに跳ねるか、わからないからなんだって。

2週間ほど経って、鋭い寒さが少し和らいだ頃、教授から連絡があった。出発だ。
新幹線の車内に中国地方の駅名が流れ始めたとき。
私は、やっと、【運転手の自分】が今回の旅に必要なかったことに気づいた。
えー…。教授、今度は私に何をやらせようと…?(汗)


536 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/20(土) 00:41:32 ID:VsVHhltb0
検体 2/11

電車内では教授といろいろな話をした。
いままでの、冒険じみた旅の話。
人間の生への執着と死への恐怖の強大さ。
死後も現世に留まる意識体(霊魂)が存在するのかどうか。
「妹さんが、もし、まだこの世を彷徨っているとしたら、教授は会いたいですか?」と聞くと、「ぜひ会いたいね。飢えて死んでいく気持ちを事細かに聞いてみたい」と言われた。
やっぱり、教授の発想だ(汗)。
「そういうこと言ってると祟られますよ」と忠言するけど、教授は楽しそうに、「僕に降りかかるはずだった祟りは、すべて妹が受けてくれたからね。僕は長生きするよ」と答える。
うちで身の上話をしていたときの神妙な様子は、完全に演技だったらしい…。


537 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/20(土) 00:42:43 ID:VsVHhltb0
検体 3/11

話の後半になって、問題の甕の出所について聞くことができた。

「あれは、元は、爆心地から1キロほど離れた寺院に祭られていたんだ」

教授の説明に、「爆心地って原爆ドーム?」と基本的なことから聞き直さなければならない私(汗)。

「そう」

教授は肯定する。

「ただ、原爆ドームに、直接、落下したわけじゃない。考えてごらん。太陽に匹敵するほどの高熱を発する爆弾が落ちたとしたら、建物の原型が残ると思うかい?」
「…」

そっか。
原爆の熱の威力って太陽並みだったんだ、と、改めて震撼する。

「実際の爆心地は、ドーム傍(そば)の相生橋で、地上に落ちる前に空中で爆発したらしいよ」

教授は補足した。

「その寺院で被爆した甕は、戦後の混乱期に盗難と売買を繰り返され、僕の家の蔵に納まった。いかにも古物だし、価値のあるものだと思われたんだろうね」

教授は甕の写真を見せてくれた。
黒ずんだ表面は気味悪く爛れて、【いわくつき】の雰囲気がありありと見て取れる。
「この溶けたような外見は、原爆で?」と聞くと、「たぶん」との答え。


538 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/20(土) 00:44:42 ID:VsVHhltb0
検体 4/11

「僕の家の者は、誰も甕の出所を知らなかった。我が家には、古物商から説明された【呪い】の話が伝わっていただけだ」
「そんなものを、よく買う気になりましたね」

私は教授一家の【趣味】に呆れた。
教授は笑って言った。

「確かに自虐的な趣味だ」

でも、と続ける。

「僕も、一目見たときから、この甕に惹かれるものがあったんだ。理由はいまでもよくわからない。呪いに引き寄せられたのかもしれないな」
「その興味のおかげか、すぐに甕の破損と原爆を結びつけることができた。そして、広島と長崎の爆心地の、史跡、郷土資料館、寺社を回るうちに、広島のS寺で以前保管されていたという情報を得た」
「郷土史に興味を持ったのもこの頃だな。歴史には、遺しても忘れてもいけない事実が潜んでいるとわかったからね」

余談ながら、私は聞いた。

「歴史研究家になろうとは思わなかったんですか?」

だって、歴史に比べて郷土史の評価は、低いと思わない?

「すぐに、証拠を出せと色めき立つ連中を相手にするほど、時間の無駄はないと思わないかね?」

教授はつまらなさそうに愚痴る。
なんだか笑えてしまった。

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539 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/20(土) 00:46:01 ID:VsVHhltb0
検体 5/11

「情報を得て、すぐにでもS寺に行って話を聞きたかったが、残念ながら、その直後に妹が死んだ。甕は厳重に蔵の奥にしまわれて、見ることさえできなくなってしまったんだ」

肩をすくめる教授。
そ、そんな反応でいいの?妹さん、可哀相じゃない?(汗)

「それから十数年が経って、蔵を仕切っていた僕の父が死んだ。ところが、また残念ながら、僕には甕を取り出せない理由ができてしまったんだ」
「えっと…」

ちょっとややこしくなってきたので、時間をもらって計算してみた。
教授は、いま60代前半。戦後生まれだと言ったから、62、63歳ぐらい。
妹さんが亡くなったのは、教授が20歳前後だから、いまから42、43年前。
それから10数年経って教授のお父さんが亡くなったんだから、これは30年ぐらい前のことなのね。で、教授は30代半ば…ぐらい?

「その理由ってなんですか?」

と聞くと、教授は複雑な顔をして、言った。

「僕に息子ができた。つまり、代替わりしてしまったんだよ。甕の呪いは、今度は息子が被ることになる」
「えっ?!」

私は、いろんな意味で、驚いた。
教授…奥さん、いたんだ…。
私の失礼な感想を、気づいたんだろうけど無視して、教授は続けた。

「僕にも人並みな感情があるんだと、あのときは感心したよ。息子に害が及ばないように、すぐに、住職の寺に甕を預けて供養を頼んだ」

「それで、息子さんは、いま…?」と聞くと、教授は、少し困ったような顔をして、頭を掻いた。

「健在だよ。離婚した妻が連れていったから、何年も顔を見てないけどね」
「………」

…やっぱり…、って言っちゃ、ダメだよね(汗)。


540 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/20(土) 00:47:25 ID:VsVHhltb0
検体 6/11

広島駅を降り立ち、タクシーでS寺に向かう。
運転手さんの話によると、S寺は原爆で完全に焼失し、いまあるのは近年に建て替えられた物らしい。
運転手さん自身は年嵩でもなかったけど、土地柄か、戦前から戦後にかけての情報には明るくて、「あの寺は行者さまが立ち寄られた所だそうで、原爆が落ちる前までは、境内に清水が湧き出る井戸があったんですよ」と案内してくれた。
教授が、「【行者さま】というのは修験道の開祖の役小角(えんのおづぬ)のことだな。彼は竜神の異名も持っていて、水の神としても慕われている」と教えてくれた。

S寺は小さな寺だった。
お手水と本堂と、それから、脇に「御霊水の井戸」と書かれた祠がある。
確かに井戸ぐらいの大きさだけど、扉は締め切られていて、中は見えない。
教授は、すぐ隣にある民家に向かった。こういうこじんまりしたお寺は、住職さんがお隣に住んでいる場合が少なくない。

私は本堂の前で待った。
すぐに教授と、Tシャツにスラックスという普段着の住職さんが出てきた(笑)。
堂内に通してもらえたので、教授の隣りで、かしこまって話に耳を傾けた。


541 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/20(土) 00:49:01 ID:VsVHhltb0
検体 7/11

教授が甕の写真を見せる。

「こちらについて伺いたいのですが、ご存知ですか?」

住職さんは頷きながら、「この甕は、実物は見たことがありません。戦前までこの寺でご供養差し上げていた物らしいのですが、そのときの住職は原爆で亡くなりましたので」と答えた。
思わぬところで被爆者の末路を聞いて、私は、浮かれた気分が吹き飛んだ。
教授は、「お気の毒さまでした」と悼んで、続ける。

「この甕は、いま、僕が管理して、あるお寺に預けています。幸いにして呪詛の効果は現れていませんが、この寺では、どのようにしてお祭りをしていたんでしょうか?」

その質問に、住職は、「この甕は水を強く欲するので、絶えず御霊水を注いでお慰めしていたようです。その井戸も、原爆でつぶれてしまいましたが」と答えた。
そっか…。祠で覆ってあったのは、すでに井戸の形を成してないからなのね…。

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542 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/20(土) 00:51:04 ID:VsVHhltb0
検体 8/11

教授はさらに踏み込む。

「この寺にあるとき、甕は、なにか災いを起こしましたかな?」

住職は笑って首を振り…。
でも、すぐに思い返して、声を潜めた。
「災いと言っても、戦時中のことでしたので」と注記して、説明する。

「この甕を管理していた先々代の住職は、先ほども言ったように、原爆で一家すべて亡くなりました。寺に縁のあった先代の住職が、その惨状を目にしたのは、投下から3日後のことだったと言います」
「先々代とそのご両親は焼け焦げ、修行中だった息子さんは、身重の奥様を引きずりながら、御霊水の井戸まで辿りついて息絶えていたようです」
「奥様は家の中にいらっしゃったのか、ガラスの破片で背中に大怪我をなされていました。先代の住職の呼びかけには一言、二言、応えられたそうですが、その後は、ただ、『水が欲しい』と言って、事切れました」

………。
私は…。
原爆って、ただの歴史だと思ってた。
遺物だと思ってた。

「『水が欲しい』ですか…」

教授は考え込んでいるようだった。
甕は餓死を誘うらしいけど、関係あるの…?


543 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/20(土) 00:52:32 ID:VsVHhltb0
検体 9/11

「ここからは、あまり話を広げないようにお願いします」

住職はさらに小声になった。
「私自身、この話をどこまで伝えていいものか迷っているのですが、身に納めておくのも心苦しいので」と、本音を吐露し、教授と私に【悪夢】を伝授する。

「先代の住職が、焼け野にご遺体を並べて供養していたとき、米兵が寺に来て、安置してあったご遺体の中から奥様を連れて行ったそうです」
「…それはどういう意味ですかな?」

教授は眉をひそめる。

「よくはわからなかったそうですが、米兵たちは盛んに『サンプル』と言っていた、ということです」

と、住職の返事。
私も意味がわからなくて、教授の顔を見た。
教授は、少し怒っているのかもしれなかった。

「つまり、被爆者の検体として、奥方が選ばれたということですな」

初めて聞く怖い声だった。

「そう思っております。奥様は…いまもこの日本には帰ってきていないのかもしれません」

住職は抑揚のない声で答えた。


544 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/20(土) 00:56:23 ID:VsVHhltb0
検体 10/11

寺を出るときまで把握できていなかった私に、教授は、ゆっくり歩きながら説明してくれた。

「原爆は、なぜ投下されたと思う?」
「えっと…第二次大戦を終わらせるため…ではなかったのですか?」

答えてから、どこかの政治家が同じことを言って非難を浴びたことを思い出した。

「威嚇という説もある。むしろ、米国はそう主張してきた。だが、それだけじゃない」

教授は断言する。

「原爆の技術はドイツからアメリカに渡って来たが、開発計画はずっと秘密裏に行われてきた。マンハッタン計画…と言ってもわからないか」

笑われたけど、わからないものはわからない。首を横に振る。
ただ、「威嚇目的なら、すごい兵器を保有していることは、むしろ公にするのでは?」という私の意見は、的を射たようだ。

「そう。原爆の威力は、すでに日本でもSF的な知識で知れ渡っていたから、敵対国が持っていると知れば、たやすくパニックになっただろう」

教授は肯定して、「でも、アメリカはその手段を取らなかった」と続ける。

「原爆がどんな効果をもたらすのか。それを知るためには、どうしても実戦で使う必要があったからだ。広島の街と人民は、アメリカの興味本位の検体にされたんだよ」

私が教授の怒りの意味を本当に知るのは、この後、広島の街を回って、原爆の実態を知ってからだった。
けれど、筆舌に尽くしがたいので、それは割愛する。


545 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/20(土) 00:58:27 ID:VsVHhltb0
検体 11/11

「でも、教授…」

寺をはるかに後にしてから、私は思い出して、教授に伝えた。

「甕のこと…【呪い】とは、なんとなく関連付けられましたけど、このお寺に来る以前の軌跡は聞いてこなくてよかったんですか?」

暗い表情で考え込んでいた教授は、ぱっと顔を上げて、頭を掻いた。

「忘れてたよ」

そのまま踵を返して、住職の家を再訪問する。
やっぱり、私、ついてきてよかった…(汗)。

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516 :赤緑 ◆kJAS6iN932 :2008/09/17(水) 09:28:37 ID:TUAZD5IU0
[出会い]
1/12

時刻は11:00、目覚ましの音で目が覚める。
今日の講義は3限と4限だ。今から準備して、大学行って、お昼食べて・・・うん、バッチリだ。
古乃羽でも捕まえてお昼を一緒に食べようと思い、携帯を取り出すが、止めておく。
そうだ、今はきっと「大事な時期」ね。
古乃羽はなんと、雨月君と付き合い出した。
デートをした、なんて話は聞かないけど、電話とメールでよく連絡を取っているらしい。
古乃羽を取られたようでなんだか寂しい気もするが、仕方ない。
ここは一歩引いて、付き合い始めのこの時期を大切に過ごしてもらおう、という私。
なんて健気なんだろう。今度古乃羽に言って、何か奢らせよう。
雨月君、これで彼女を振ろうものなら許さないんだから・・・。

結局家でお昼を済ませて、大学へ向かうことにした。


517 :赤緑 ◆kJAS6iN932 :2008/09/17(水) 09:32:04 ID:TUAZD5IU0
2/12

キャンパス内を歩いていると、何人かが挨拶をしてくる。
まだ2年だが、我ながら知り合いが多い。
初対面でも普通に話しかけてしまうので、たまに引かれることもあるが、大抵の人は打ち解けて、親しくしてくれる。
挨拶しつつ歩いていると、普段ここでは見慣れない人がそこにいた。
子供だ。
小さな女の子が道の脇に立っている。なんでこんなところに・・・?

周りを歩いている人も、なんだろう?と首を傾げるが、そのまま通り過ぎて行ってしまう。
まったく・・・。明らかに場違いで、困っているかも知れないのに。
周りの目は無視して、話し掛けてみることにした。

私「ねぇ、どうしたの?誰か探しているの?」

女の子は自分の胸くらいの背の高さ。
中腰になって話し掛けると、女の子が顔を上げ、目が合った。


518 :赤緑 ◆kJAS6iN932 :2008/09/17(水) 09:37:34 ID:TUAZD5IU0
3/12

その瞬間、ハッとした。この子・・・すごく綺麗だ。
ただ可愛いだけじゃなく、美人だ。軽くだがお化粧もしているみたいで、魅力的な顔をしている。

女の子「・・・」

女の子は何も答えず、少し首を傾げ、大きな目でじっとこちらを見つめてくる。
白い肌に真っ白なワンピース。どことなく良い香りもする。
この子は将来、どんな女性になるだろう。末恐ろしいというかなんというか・・・。
今のままでも、そこら辺の男だったらイチコロかもしれない。変な趣味が無くても。

私「私、美加、って言うの。あなたは何ていうお名前?」

しゃがみ込んで女の子より目線を下にする。
女の子は答えてくれた。

女の子「わたし、優理」
私「ゆうりちゃん、ね。可愛いお名前ね」
優理「ありがとう」

ニッコリ微笑んでお礼を言ってくる。
なんて可愛いのだろう。思わず抱きしめたくなる。


519 :赤緑 ◆kJAS6iN932 :2008/09/17(水) 09:46:47 ID:TUAZD5IU0
4/12

私「誰かを探しているのかな?それとも、誰かを待っているの?」
優理「・・・・・・」

答えず、ただじっとこちらを見つめてくる。
困ったな・・・あ、そうだ。

私「ゆうりちゃん、上のお名前は何ていうの?」
優理「・・・・・・源川」

みなかわ、か。知り合いには居ない。後で事務にでも行って探してもらおうかな。
本来なら講義の始まる時間だが、今日はパスだ。今はこの子を一人にしておけない。

私「ゆうりちゃん、ここで誰か待っているんじゃなければ、お姉ちゃんとお茶飲みに行かない?」

言ってから気付いた。お茶って・・・。この子くらいの年齢ならジュースで誘うべきだ。
それに何かこれって・・・誘拐とか思われそう。

優理「うん!行くー」

こちらの思いとは関係なく、いい返事が返ってきた。
ラウンジに行こう、と私が手を伸ばすと、彼女は軽く握り返してくれた。
なぜか冷たいイメージがあったが、普通の暖かい、小さな手だった。

520 :赤緑 ◆kJAS6iN932 :2008/09/17(水) 09:51:24 ID:TUAZD5IU0
5/12

構内のラウンジに着き、オレンジジュースを2つ買って席に座った。
少女は向かい合って座って、嬉しそうにジュースを飲んでおり、カバンに常備しているスナック菓子を出したら喜んで食べてくれた。
名前はどんな字を書くのか聞いてみると、「源川 優理」と綺麗な字で私の手帳に書いてくれ、年齢を聞くと、9歳だと教えてくれた。
私もフルネームを教える。
「神尾美加」。
上から読んでも下から読んでも、カミオミカ、というと、面白そうに笑ってくれた。
どこかの教授の子供かと思い、聞いてみる。

私「優理ちゃん、パパかママと一緒に来たの?」
優理「・・・優理ね、パパもママもいないの」

うわ、しまった。いきなり失敗だ。

私「あぁ・・・ごめんね。変なこと聞いちゃった」
優理「ううん。平気だよ」

じゃあ、ここには何で来たのだろう?兄か姉でもいるのかな?と思ったが、これ以上肉親関係で質問するのはどうも気まずい。

優理「お姉ちゃん、あのね・・・」
私「なぁに?おかわり?」
優理「んーん、だいじょうぶ。ありがとう。あのね、優理のお友達になってくれる?」

うーん、なんて可愛いいのだろう。礼儀正しいし、育ちが良いのだろうか。

私「もちろん。私も優理ちゃんのお友達になりたいな」

と言うと、優理ちゃんの顔がパッと明るくなり、最高の笑顔を見せてくれた。


521 :赤緑 ◆kJAS6iN932 :2008/09/17(水) 09:56:26 ID:TUAZD5IU0
6/12

優理「嬉しい!よろしくね、お姉ちゃん」
私「こちらこそ、優理ちゃん」

こちらまで笑顔になる。いいなぁ、この子。

優理「お姉ちゃんに、私の一番のお友達、紹介するね」

優理ちゃんはそう言うと、手に持っていた熊のヌイグルミを見せてくれ・・・あれ?
手に・・・持っていたっけ?さっきまで手ぶらだったような・・・?

優理「この子ね、ラットって言うの。男の子よ。挨拶しなさい、ラット」

優理ちゃんはヌイグルミの頭をペコリと下げる。
ラット、って確かネズミだったような気もするけど、まぁいいか。
それと、ラットと聞いて頭に浮かんだフレーズは、何故か「解剖」だった。ヤダヤダ・・・。

私「よろしくね、ラット君。優理ちゃん、可愛いお友達がいるのね」
優理「うん。この子ね、ママがくれたの」

今は亡き母親の、形見のヌイグルミ・・・なんだかウルッときた。

私「そうなんだー。すごく可愛いね」

よく見てみると、確かに可愛い。全長30センチくらいの熊のヌイグルミ。
洋服はお手製だろうか?毛並みもきちんとお手入れがされているようだ。


522 :赤緑 ◆kJAS6iN932 :2008/09/17(水) 10:04:43 ID:TUAZD5IU0
7/12

それからしばらく、ラット君のお家のお話や、お国(どこかの王子様らしい)の話となった。
微笑ましい、とはまさにこのことだろうな。
しかしそんな時間を邪魔する2人組がやってきた。

女「きゃーー、なにそれーーーかわいいーーー」

ラウンジに来たカップル。その女性の方がヌイグルミを見つけ、大きな声を出して近づいてきた。
別にそれだけなら構わないのだが、その子はテーブルの上に座ってお菓子を食べていた(設定の)ラット君を勝手に持ち上げ、抱きかかえた。

私「あ、こら、ちょっと・・・」
女「ねぇ~これ、これ欲しいー買って~」

相手の男に向かって謎のおねだりをしている。売り物じゃないっての。

男「んー、熊かぁ、いいね~」

男は優理ちゃんを見つけ、交渉してくる。

男「これ、君のかな?ちょっとさ、売ってくれない?2000円出すよ」
優理「・・・私の大事なお友達なの」
男「じゃ、3000円でどう?子供には大金だろ?あんまりケチるなって、な」
優理「・・・・・・」

先ほどまでニコニコしていた優理ちゃんの顔が曇る。
頭にきた。ガツンと言ってやろうと思い席を立・・・と、そのとき。

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523 :赤緑 ◆kJAS6iN932 :2008/09/17(水) 10:10:46 ID:TUAZD5IU0
8/12

女「いたっ!」

ヌイグルミを抱えていた女の子が声を上げて、ラット君を床に落としてしまった。
見ると、女の子の手から少し血が滲んでいる。

女「いったぁ~・・・ちょっとー、針出てたわよ!?」

優理ちゃんは急いで椅子を降り、落ちたラット君を抱きかかえて、また椅子に戻ってくる。

女「検針もしてないの?いらない!そんな不良品」
男「おいおい、これで金取ろうって、信じられねぇな」

ムカッ

私「誰も売るなんて言ってないでしょ?勝手に取り上げて、そんな言い方しないでよ!」
女「何よ、うるさいわね。いいよ、もう、いこ?」
男「ん、あぁ。まったく、詐欺かよ」

一体どういう頭の構造なのか・・・怒りを通り越して、嘆かわしい。
去っていったおバカ2人は放っておいて、優理ちゃんを慰めないと。

私「優理ちゃん、気にしないでね。あんなの・・・」
優理「うん、大丈夫・・・。お姉ちゃん、ありがとう」

優理ちゃんは落とされたラット君の埃を払い、身だしなみを整えていた。
出ていた、という針が気になったが、優理ちゃんは平気みたいだ。

やがて綺麗になったラット君を見つめ、優理ちゃんはしばらく何事か考えているようだったが、突然こう言ってきた。

優理「お姉ちゃん、あのね・・・」
私「なぁに?」
優理「優理のお家に、遊びに来てくれない?」


524 :赤緑 ◆kJAS6iN932 :2008/09/17(水) 10:20:05 ID:TUAZD5IU0
9/12

私「え・・・」

いきなりのお誘い。優理ちゃんは私をじっと見つめてくる。

優理「お家に、来て・・・ね?」

見つめてくる・・・なんて綺麗な目だろう。吸い込まれそうだ・・・。

私「・・・うん」

断る理由なんてあるだろうか。こんな可愛い子の誘いを断るなんて。
優理ちゃんは嬉しそうに微笑んだ。なんて愛くるしい笑顔だろう。

私は席を立ち、手を引かれて歩き出す。手・・・優理ちゃんの手は冷たく、とても大きく感じる。
なんだろうこの感じ・・・。周りの景色が霞んでいき、ぼやけてくる。
子供に手を引かれる女子大生。少しおかしな構図だけど、誰もこちらを見ない。
自分の存在が希薄で、まるでここには居ないかのよう・・・。

ふわふわ、と・・・このまま着いていけば、いいのかな・・・
どこまでも・・・一緒に・・・
・・・・・・
・・・


525 :赤緑 ◆kJAS6iN932 :2008/09/17(水) 10:39:04 ID:TUAZD5IU0
10/12

声「美加!」
私「・・・ん」
声「どこにいくの?美加!」
私「・・・ん?」

ハッと気付く、と・・・そこはラウンジを出たところだった。
声の主は・・・古乃羽だ。

私「あれ、古乃羽・・・おはよう」
古乃羽「おはよう、って・・・今何していたの?一人?」
私「ん?一人じゃないよ?ねぇ、優理ちゃん・・・あれ?」

優理ちゃんが居ない。

古乃羽「ゆうりちゃん、って誰?」
私「今まで中で一緒に・・・」

辺りを見渡しても居ない。と、ラウンジの中を見てみる。
さっきまで座っていたテーブルに、ジュースのグラスが2つ。確かに居たんだ。
お手洗いにでも行ったのかな・・・?

古乃羽「もう・・・大丈夫?寝ぼけてない?また講義サボったでしょ」
私「あー・・・バレタ?」
古乃羽「・・・もう。私、4限あるから行くね。美加もちゃんと出ないとダメだよ?」

そうか、もう4限が始まる時間か。

私「あい、古乃羽の仰るとおり、ちゃんと勉学に励みます」
古乃羽「一緒に進級できないと、イヤだからね・・・?」
私「うん。分かった、ごめん。ちゃんと出るよ」

<a href="http://hb.afl.rakuten.co.jp/hsc/0d3733bb.0ebabe76.0d3733bc.c1986775/_RTaupb10000002" target="_blank"><img src="http://hbb.afl.rakuten.co.jp/hsb/0d3733bb.0ebabe76.0d3733bc.c1986775/709677?_RTaupb10000002" border="0" /></a>

526 :赤緑 ◆kJAS6iN932 :2008/09/17(水) 10:48:20 ID:TUAZD5IU0
11/12

がんばってね、と言って古乃羽は次の教室に向かっていった。
えーっと、私はどこだったっけな・・・?頭が少しボーっとする。

優理「お姉ちゃん」
私「わっ・・・、優理ちゃん。どこ行ってたの?」

突然優理ちゃんが現れた。

優理「今の女の人、お姉ちゃんのお友達?」
私「うん、古乃羽って言うの。とーっても良い子よ」
優理「ふーん・・・」

優理ちゃんは古乃羽の後姿を目で追っている。

優理「変わった人だね」
私「ん?そう、分かる?私の昔からの、大好きなお友達よ」
優理「見えるんだ・・・」
私「見える・・・?」
優理「・・・・・・」

優理ちゃんは何か考えているようだ。

優理「お姉ちゃん、これ、あげる」

そう言うと、私の手に何かを渡してくれた。それは小さい、綺麗な石の付いたキーホルダーだった。

優理「それね、翡翠(ヒスイ)って言うの」
私「へぇ・・・翡翠かぁ。綺麗ね。これ、私にくれるの?」
優理「うん。お友達のしるし」
私「ありがとう、大事にするね」

っと、ただ貰うだけじゃ何なので、私も何かあげることにする。


527 :赤緑 ◆kJAS6iN932 :2008/09/17(水) 10:59:30 ID:TUAZD5IU0
12/12

確か、あれが・・・カバンを探って・・・あった。

私「じゃあ、優理ちゃんにはこれ、あげるね」
優理「?」

彼女の手にそれを渡す。
中学のときに買った、ペンギンの付いた小さなキーホルダー。
お気に入りでずっと使っていたやつだ。大切に持っていたので、目立った汚れも無い。

優理「わぁ・・・可愛い!」
私「ふふーん、そうでしょう。ペンギンさん、可愛がってあげてね」
優理「ありがとう!ペンギンさん、よろしくね」

優理ちゃんはそう言うと、ニッコリ微笑んだ。

優理「優理、もう帰るね。お姉ちゃん、お勉強するんでしょ?」
私「あ、うん。ごめんね、もっと遊んでいたいんだけど」
優理「ううん。楽しかった。ジュースとお菓子、ごちそうさまでした」

ペコリと頭を下げる。

私「いえいえ。じゃあね、優理ちゃん、またね。ラット君もまた会いましょう」

私は優理ちゃんとラット君に手を振る。

優理「うん。また会いにくるね。バイバイ、お姉ちゃん」

そう言って手を振ると、優理ちゃんは大学の正門の方に駆けていった。
あれ?結局、何をしに来たんだろう・・・
ただ構内に入って来ちゃっただけだったのかな?

ふと腕時計を見ると、4限開始の時間だった。
私は優理ちゃんに貰ったキーホルダーをカバンに入れ、急いで教室に向かった。

一度、正門の方を振り返ってみたが、優理ちゃんの姿はすでに無かった。

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351 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/07(日) 00:01:03 ID:qVNtFYwZ0
お諏訪さま 前編 1/8

今回は地名も施設名も公表しますね。
説明がうまく伝わるかは、すごく不安だけど(汗)。
あ、そうだ。この話には皇室批判が含まれます。気になる方は読まないでください。


「旨い蕎麦を食べに行くか」

教授が珍しく縁起のいい誘い方をしてくれた。
どうも、前回の鋏供養が後ろめたかったらしい(笑)。二つ返事で同行を引き受けた。
蕎麦といえば信州だ、というから、中央道をひた走って諏訪に向かう。
諏訪は、観光地である諏訪湖のイメージしかなかったので、「もう少し北に上がったほうが、ほんとに信州って感じがする」と提言したけど、却下だった。
要するに、蕎麦で釣って、諏訪に行かせたかっただけなのね…。


352 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/07(日) 00:02:29 ID:qVNtFYwZ0
お諏訪さま 前編 2/8

諏訪インターを下りると、すぐに、「北に上がってくれ」と指示された。
ちょっと意外。まず南下して、諏訪大社の本宮にお参りすると思ってたのに。
諏訪大社っていうのは、竜神さまを祀っている、日本でも屈指の階位を持つ神社なの。それぐらいの知識は事前に仕入れてる。
上社と下社に分かれていて、本宮である上社には男神、下社には女神が祀られている。この2人は夫婦なのだそうだ。
上社と下社は、諏訪湖を挟んでほぼ対岸に位置している。真冬になると、夫婦の神様は、お互いを求めて、諏訪湖に張った氷の上を渡るのだとか。それが、よく 名前を聞く【御神渡(おみわたり)】という現象らしい。
勉強の成果を自慢げに語ると、教授は、「君らしくロマンチックな着眼点だな」と、…たぶん、馬鹿にした。


353 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/07(日) 00:03:02 ID:qVNtFYwZ0
お諏訪さま 前編 3/8

「上社に祭られている男神、タケミナカタは、大国主(おおくにぬし)の息子だ」

20号線を走っている間、教授は、私に【正しい】知識を授けてくれた。

「大国主は知ってるかな?」
「たしか…、【因幡の白兎】の歌に出てきた神様だと…」

大きな袋を肩にかけ だいこくさまが来かかると ここに因幡のしろうさぎ 皮をむかれて赤裸

うろ覚えの歌詞を歌うと、教授は、「そのとおりだよ。島根県の出雲大社の主神で、国譲り神話の主人公でもある神様だ」と誉めてくれた。
記憶が正しかったことに私は喜んだけど、「国譲り神話…が、ピンときません」と、恥も晒した(汗)。


354 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/07(日) 00:03:57 ID:qVNtFYwZ0
お諏訪さま 前編 4/8

教授は、少し笑って説明する。

「日本神話に因ると、日本の国土はイザナギとイザナミという夫婦神によって生み出された。いわゆる国産みの神話だ」
「イザナギたち2神が代替わりした後に現れるのが、彼らの子どもであるアマテラスとスサノオとツクヨミという3神で、いまの天皇家の祖先と位置づけられて いる」
「彼らは、知力や武力を使って、日本のあちこちにはびこっていた【敵対勢力】を平定していくんだが、その最初の強敵が大国主だった」
「はあ…」

つまり、【だいこくさま】は、いまの皇室の敵、もっと広げれば日本人の敵だったってわけ、かな。
ウサギを助けた優しいイメージと合わないと訴えると、教授は補足した。

「大国主は出雲の大豪族だったと思われる。製鉄に秀で、高層建築まで手がけた優秀な技術者だよ。そこへ、アマテラスたちの率いる大軍団が押し寄せ、国を明 け渡すように強制した。それが【国譲り神話】だ」
「…」

なんだかわからなくなってきた。
アマテラスは、それじゃあ侵略者ってこと?

355 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/07(日) 00:05:00 ID:qVNtFYwZ0
お諏訪さま 前編 5/8

教授の説明は続く。

「壮絶な死闘の末、大国主は敗れて、出雲はアマテラス側のものになった。ところが、大国主の息子であるタケミナカタはそれを不服として最後まで抗戦し、つ いには、この諏訪の地まで追いやられた」
「え?じゃあ、諏訪大社って天皇家の敵を祀ってるんですか?」

そんな立場の神社を日本の最高位に認定する日本って、どういう構造をしてるんだろう…。
教授が答えをくれる。

「表向きは、大国主がアマテラスに出雲を献上したことになっているから、敵ではない」
「…なるほど」

合点が行った。
大国主が【喜んで国譲りをした】から、大国主とアマテラスは仲良しのまま、お互いに神様となることができたってわけね。
そして、息子であるタケミナカタもお咎めなし、と。

「でも、もしアマテラス側に負い目がなかったら、そんな裏協定みたいなことをしなくても、堂々と【悪者の大国主をやっつけました】って言えるんですよ ね?」

私が言わんとしていることは、教授にすぐに伝わった。

「そうだね。アマテラスが一方的な侵略者だったからこそ、大国主を悪者として後世に伝え残すことができなかったんだ。悪いのは、むしろアマテラスのほう だったからね」

ほらほら。教授らしい話題になってきたぞ(笑)。


356 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/07(日) 00:05:36 ID:XW2LtUv/0
お諏訪さま 前編 6/8

「アマテラスの子孫がいまの皇室になれたのは、そういう侵略を重ねて、日本を牛耳っていったから?」

私の質問に、教授は躊躇なく頷く。

「じゃあ、いまの日本は、代々の皇族が、武力や権力で抑えつけて統治してきた結果なんですか?」

と聞くと、教授は、「ダイレクトな言い方だ」と苦笑しながらだったけど、肯定した。
私は、さらに重ねた。

「アマテラスたちは、もともと、どのあたりに住んでいた民族だったんでしょうか?」

即答する教授。

「朝鮮半島だ」

………………。
それって……。


357 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/07(日) 00:06:21 ID:XW2LtUv/0
お諏訪さま 前編 7/8

私は教授の知識を信用している。
たとえ、突拍子もないと思えることでも。

「もしかして、ヤバイ話を聞いてます、私?」

声を潜めると、教授は笑った。

「皇族渡来説は、いまや常識だよ。表立ってマスメディアに流れはしないがね」
「…」

ほっとした…。
皇室批判に先陣を切るほど、私の肝は強くない(汗)。

教授は続ける。

「高松塚やキトラ古墳に朝鮮系の壁画が残っているのは知ってるね?」

教科書の復元図を思い出しながら、私は頷いた。

「あの古墳群は宮内庁の管轄だ。天皇家と朝鮮は関わりが深いと、宮内庁自らが認めているんだよ」

改めて安堵の溜息をつくと、教授は大声で笑った。


358 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/07(日) 00:07:23 ID:qVNtFYwZ0
お諏訪さま 前編 8/8

気分を変えるために、話題の方向を転じてみる。

「そういえば、大国主も【だいこくさま】なんですね。兄貴からもらったお守りも【大黒さま】だったような…」
「その2つは、昔はよく混同されたんだ。でも、まったくの別物だよ」

と教授は言う。

「前にも言ったと思うけど、住職のお守りの【大黒天】は、インド神話の神の変化した姿だ。一方で大国主は、日本土着の民族だった」
「そっかあ…。でも、興味深い一致ですね…」

私はポケットに入れているお守りに手を添えながら答えた。
古代の出雲で土地を守ろうと闘った大国主。破壊の神と恐れられながら、私を守ってくれた大黒さま。
「魔には魔を、かあ…」と呟くと、教授は、「現代人にこそ、その発想は必要だな。いまの人間は毒を抜かれすぎていて、些細な悪意にすら対抗できない」と返 した。
いじめなんか、その典型かもしれない。
と、自己反省してみたりする。

367 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/07(日) 22:41:39 ID:XW2LtUv/0
お諏訪さま 中編 1/12

諏訪湖畔を北上していると、左手に【諏訪湖間欠泉センター】の看板が見えてきた。
教授はそこに入れという。
半円形の近代的な建物は、教授のシュミとしては違和感がありすぎる。
「ここの3Fの展望室は、間欠泉が噴き出すと面白い空間になるよ」と誘われたけど…。
なんか…今回の旅は、いつもと違う。
教授よりも私が主体になって考えられてるような気がする。


368 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/07(日) 22:42:28 ID:XW2LtUv/0
お諏訪さま 中編 2/12

展望室はガラス張りの明るい空間になっていた。
一角に小さなお土産屋さんがあって、全体にベンチが置かれている。
建物自体は高くないから、眺望は諏訪湖と温泉街の一角だけ。
でも、冬の風に叩きつけられた青い湖面が靄を漂わせている光景は、幻想的で、いろんな想像力をかきたてられた。

出雲を追われたタケミナカタは、この地でどんな生涯を過ごしたのかな。
下社に祀られた奥さんとは、よっぽど仲がよかったんだろうな。だって、神様になってからも会いに行くぐらいだもの。
窓に張りついて、そんなことを考えていた私は、ふと気づいた。

夫婦の神は、なぜ一緒に上社に祀られなかったのだろう?
毎年、この広い諏訪湖を渡らなくては会えないような配置にされたのは、なぜなの?


369 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/07(日) 22:43:11 ID:XW2LtUv/0
お諏訪さま 中編 3/12

「教授…」

私は、後ろのベンチで休憩をしていた教授を振り返った。

「タケミナカタは、アマテラスたちに追われて、ここまで来たんだよね?」

いまさら確認をする私に、教授は好奇の目を向けながら、頷く。

「そうだよ。正確に言えば、追ってきたのはアマテラスの配下の軍神で、タケミカヅチという神だけどね」
「じゃあ、そのタケミカヅチは、最後はタケミナカタを…どうしたの?」

そうだよ。
諏訪まで来たら終わり、じゃなかったんだ、タケミナカタの逃避行は。
追っ手は、彼を幽閉ないし殺害して、完全に抵抗を封じるはず。


370 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/07(日) 22:44:11 ID:XW2LtUv/0
お諏訪さま 中編 4/12

教授は、私の隣まで来て、窓の外の諏訪湖を眺めながら、言った。

「タケミカヅチは当然ながらタケミナカタを葬っただろう。日本神話では【相撲】で負かした、となっているが」
「…」

笑うところなんだろうか(汗)?
でも、笑えない。あえて和やかな話で決着をつけるのは、陰惨な裏事情を隠すためだと、私は、ずっと教授に教わってきたのだから。

「じゃあ、諏訪大社は、殺してしまったタケミナカタの魂を鎮めるために建てられたの?」

祖国の出雲が侵略に屈した後さえ、1人で抵抗を続けていた強靭な精神力を持つタケミナカタ。鎮めるのも大変だっただろうな、と私でも推測できた。

「いや」

教授は首を振った。

「鎮めるためではなく、封じるために造られたんだ。社殿の四隅に【御柱】を立てたのは、タケミナカタの怨霊を中に閉じ込める結界の意味があるんだよ」


371 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/07(日) 22:45:28 ID:XW2LtUv/0
お諏訪さま 中編 5/12

「御柱(おんばしら)…」

その名前で記憶を辿ってみる。
諏訪大社は、7年に1度、御柱祭りという盛大なお祭りを行う。
山から切り出した樅の大木を、人力で諏訪大社の本宮まで運び入れ、先端を三角錐に削って四方に建てるという神事だ。
勇壮さが売りのこのお祭りの起源は、でも、どこのガイドブックでも見ることができなかった。

「あのお祭りが、タケミナカタから、未だに自由を奪ってるんだ…」

私の言い方に落胆の色が濃かったからか、教授は慌てた様子で訂正した。

「これは僕の推論だよ。事実とは断言できない。信じてもらうのは勝手だけどね」
「…」

私は教授の知識だけでなく、妄想力も信用している。
あとから考えれば、なぜ自分がここまで気鬱になったのか、不思議な限りだ。
このときの私は、タケミナカタ…と、彼につき従って夫婦になった女神が可哀相に思えて仕方がなかったんだ。

372 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/07(日) 22:46:47 ID:XW2LtUv/0
お諏訪さま 中編 6/12

「下社に祀られた女神、タケミナカタの伴侶は、ヤサカトメと言う」

私が何も聞かないうちに、教授は女神のことを語りだした。

「ヤサカトメは出雲の神じゃない。この諏訪の土地神だ。タケミナカタとは、この地に逃れてから出会ったんだろうね」

神様とはいえ、馴れ初めの話はほほえましい。私は少し笑う。

「タケミナカタが倒されたあと、タケミカヅチは、当然ながらヤサカトメも放ってはおかなかっただろう」
「うん…」

寒気がする。
夫婦を別々に安置したのは、やっぱりタケミカヅチという神なんだろうな。

「ヤサカトメについては、僕もまったくの無知に近い。どのように粛清され、どういう意味で下社に祀られたのか」

教授は淡々と話す。

「まあ、妥当に考えれば、朝廷側にとって、タケミナカタとヤサカトメは、死んでからでも引き離したいほど憎い相手だったんだろう」

突然、館内にアナウンスが流れた。

「ただいまから間欠泉が噴き出します。お近くの方は離れてください」


373 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/07(日) 22:47:48 ID:XW2LtUv/0
お諏訪さま 中編 7/12

窓越しに地上を見下ろすと、小さな噴出孔から白い煙が上がり始めていた。

「間欠泉って、温泉が地面から噴き上がる現象ですよね」

隣りの教授に尋ねると、教授は楽しそうな顔をして、答える。

「そう。ここの水柱は日本一だね」

アナウンスが何度か繰り返され、屋外の客が避難している様子が見えた。
やがて噴出孔から熱湯が溢れる。
と思ったら、すぐに3Fの窓を飛び越えた。
同時に窓の外が湯気で真っ白に覆われ、展望室は、前後不覚の空間になった。

「…何も見えない」

私は、さっきまでの外の光景の片鱗を見ようと、白い闇に目を凝らした。

「そうでしょう。僕はこの圧迫感が好きなんだ。きっと、結界の中はこんな感じなんだろうね」

教授は悪趣味なことを言う(笑)。

「私には、少し怖い気がします」

この闇が何かを連れてきそうだ。


374 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/07(日) 22:49:23 ID:XW2LtUv/0
お諏訪さま 中編 8/12

数分で晴れるというので、そのまま窓際で待っていると、かすかに水の音が聞こえた。
湖に何かが落ちたような。
窓ガラスは厚い。それに、湖までは100m以上の距離がある。
聞こえるわけがない。
でも、私の耳に届くそれは、だんだん、はっきりと、人の声すら混じった現実の音になりつつあった。

『しぶといな』

男の野太い声。

『こうやって溺れてると、普通の女のようだ』

嘲笑の混じった別の声。
湯気の幕が薄まって、湖の真ん中が視界に現れる。一艘の小船が湖面に留まっていて、3人の人影が乗り込んでいるのが見えた。
その脇で、激しく水しぶきが上がっている。
もっと目を凝らした。
白装束を着た、黒髪の女性がもがいているのだと、わかった。


375 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/07(日) 22:50:38 ID:XW2LtUv/0
お諏訪さま 中編 9/12

見えるはずのない光景だと、頭では理解している。
だから教授を呼ばなかった。声も出さなかった。

溺れているのは若い女性のように見えた。
ヤサカトメだ。確信がある。
彼女は、なんとか顔だけを水面から出して、溺死を防いでいる。すぐ真横には船の縁があって容易に手が届くのに、助かろうとしない。
船の男たちも彼女に手を貸そうとしない。むしろ、溺れ死ぬのを待っている。

『叩き殺したほうが早いのに』
『体に傷をつけちゃいけねえんだから、しょうがない』

物騒な会話が船上で交わされる。
ヤサカトメはなかなか沈まなかった。
諏訪生まれの女神は、水に強い性質を持っているのかもしれなかった。
男の1人が業を煮やし、彼女の体を引き上げた。
女神の細い腕は後ろ手に拘束されていた。自分の力で船に這い上がることはできなかったんだ…。
女神の足は、長く長く伸びる白蛇の尾に変化していた。

376 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/07(日) 22:51:50 ID:XW2LtUv/0
お諏訪さま 中編 10/12

船に上げられた女神は、蛇の尾をくねらせて暴れた。
船は大きく揺れ、男たちが動揺する。
1人が櫓を女神の鳩尾に突き込んだ。女神はグッタリと動かなくなった。
そのとき、ずっと舳先に座って様子を見ていた3人目が、ゆっくりと船内を動き始めた。
体から稲妻が走り、右手は巨きな剣に化けている。
タケミカヅチだ、とわかった。
鬼神は、ヤサカトメの尾に向かって剣を振り下した。
絶叫が聞こえ、女神から半身が切り取られた。
蛇の尾は、それ自体が生き物であるかのように、諏訪湖の底に揺らめきながら消えていく。
タケミカヅチはヤサカトメを湖に放り投げた。
瀕死の女神は、それでも生き延びようと浮き上がったが、頭を押さえつけられて沈められ、断末魔を迎えた。


377 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/07(日) 22:55:16 ID:XW2LtUv/0
お諏訪さま 中編 11/12

女神の遺体は下社の近くの湖岸に運ばれた。
簡素な祭壇には、供物ではなく、女神自身が乗せられた。
神官のような装束を着た老人が、長く細い、先端の尖った木槍を持って、やって来た。
サイズは小さいけど、写真で見た【御柱】の形にそっくりだ。

神官は女神から服を剥ぎ、切り取られた腿から下の傷口に躊躇することなく股を開き、性器を露出させた。
木槍をあてがい、力を込めて体内に押し入れる。
槍が体内を進むたびに、女神の体が苦しげに蠢いた。もう死んでいるはずなのに…。
神官は、細い喉元を通すときに、ことさらに慎重になった。
槍の切っ先が女神の脳に達すると、辺りから賞賛の声が上がった。

周囲の男たちは、勝ち誇ったように、槍を地面に突き立てた。
地上高く掲げられた女神の哀れな姿は、対岸のタケミナカタからもよく見えただろうね…。


378 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/07(日) 22:55:50 ID:XW2LtUv/0
お諏訪さま 中編 12/12

気がつくと、私は教授の隣りで、ベンチに横になっていた。
教授の話に因ると、外を見ているときに、突然ふらふらとやってきて寝転んだのだという。
「イヤな夢を見ました」と告げた。
「君にはそういうことがよくあるね。神降ろしの能力を持っているのかもしれない」と、教授は答えた。


410 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/10(水) 00:14:34 ID:r4RP7Qy80
お諏訪さま 後編 1/10

おなか空いた。
あんな光景を見たあとなのに、健康な胃袋だ(汗)。

「蕎麦屋さんに直行していいですか?」

車を発進させながら教授に聞くと、「もちろんいいよ。それが目的で来たんだから」と答える。
うーん…。メインの目的は蕎麦じゃなかった、よね?
どうも居心地が悪い。神社巡りも史跡巡りもなしで、諏訪湖だけ見て、この旅は終わり?
私には衝撃的だったけど、教授には何のメリットもなかったはず。

「教授は、今回、本当は何がしたかったの?」

聞いたほうが早いから、聞いた。
教授は悪びれる様子もなく、「君を連れてくれば、資料や妄想で埋められなかった真実を、もしかしたら知ることができるかもしれないと思ってね」と言った。

神降ろし、ねえ…。
私の【見る】ものも、多分に妄想だと思うけど…。


411 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/10(水) 00:15:30 ID:r4RP7Qy80
お諏訪さま 後編 2/10

「神降ろしや霊媒という現象は、本当に神霊が下りてくるのではなく、強いヒステリー状態で心の制御が外れることなんだよ」 教授には意外に現実主義な一面がある。その視点から解説すると、私の精神状態はこういうことになっていたらしい。

「ふだんの生活の中で、僕らはやりたいことをやってはいないだろう?法や良心といった無形の制約が行動を規制しているはずだ」
「行動に出せない本能的な欲求は、けれど、なくなるわけじゃなく、奥底に溜まり込んで、ストレスという抑圧感を生み出している」
「何かのきっかけで、その本能は表に現れる。傍目から見ると、理性のタガが外れた異常な状態に映るはずだ。それはトランスと呼ばれる」

トランス状態…。
よくは知らないけど、奇声を発したり、踊り狂ったりするイメージがある。
あれも、今回の私のような幻覚を見たために起こす行動なのだろうか。

「私って、ヒステリーな体質なんですかあ…。気をつけないと…」

自嘲すると、教授は、少し考え込んで、言った。

「そこはよくわからない。君は、僕が情報を与える前から、【正しいモノ】を見ることが多々あったね。だから、本当に神が降りて教えたのかもしれない」

そのほうが僕としては面白いからね、と、無責任なことを付け加えて、教授は話をくくる。

412 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/10(水) 00:17:09 ID:r4RP7Qy80
お諏訪さま 後編 3/10

「私の今回の妄想は、何か【正しいモノ】の痕跡があったんでしょうか?」

現実であってほしくはないけれど、もしヤサカトメが本当にあんな目に遭ったのなら、せめてお参りぐらいはしてあげたいと思う。

「こじつけだが、こんな一致はある」

教授は数点の情報を教えてくれた。

一つ目。
タケミナカタが逃げ込む前から、諏訪には固有の土地神がいた。その代表的なものはソソウ神(類似のミシャグチ神と同一視されている場合もある)。白蛇の姿 をした神様なのだそうだ。
同じく土地神であるヤサカトメが、蛇の化身だという説はありうる、らしい。

二つ目。
タケミナカタにはコトシロヌシという兄がいて、国譲り後の出雲の平定に一役買った。
出雲に残ったはずのこの兄神は、なぜか諏訪大社にも祀られている。
コトシロヌシは七福神の恵比寿と同一視されることの非常に多い神様だ。恵比寿は、水死体を愛でる神である。

三つ目。
諏訪大社には御頭祭という神事がある。
現在は剥製の頭を使うが、昔は鹿の五臓を贄に捧げる儀式だった。史書に因れば、【脳和え】という代物もあったらしい。

四つ目。
タケミカヅチは手を剣に変化させることができる。


413 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/10(水) 00:18:13 ID:r4RP7Qy80
お諏訪さま 後編 4/10

「お蕎麦食べたら、やっぱりタケミナカタとヤサカトメのお参りに行ってもいいですか?」

私は、自分の幻覚を信じることにした(笑)。
でも、教授は渋い顔をした。

「僕は、以前、諏訪の地に張られた結界を体験したことがあった。帰り道が見当たらずに、20号線を行ったり来たりさせられたよ。感受性の強い君を連れて 行ったりしたら、帰れなくなるかも知れない」

真面目な口調だったので、思わず吹き出した。
その問題の20号線を少し南下し、M町という交差点を左に折れるように指示されたので、素直に従う。
少し進むと道が細くなって、学校の脇を通った。
教授は、「あと10分ぐらい進んでくれ」と、目的地が近いことを告げる。

さらに走ると。
なぜか、上社の鳥居が見えてきた。


414 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/10(水) 00:18:54 ID:r4RP7Qy80
お諏訪さま 後編 5/10

「諏訪大社に着いちゃいました…けど…」

私には、まだ事態がよくわかってなかった。

「M町で曲がったはずだな?」

教授が念を押すので、頷く。

「やっぱりやられたか」

教授は、苦笑を浮かべながら、Uターンをするように言った。
駐車場の手前の交差点でハンドルを切り、元の道を引き返す。

「え?え?上社の方向に向かってたわけじゃ…なかったんですよね…?」

手が震えてきた。

「むしろ離れるように進路を取ったんだけどね」

教授は、諦めたように笑う。そして、「無事に着けたら起こしてくれ」と目を瞑った。
ええええっ。そんな~!


415 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/10(水) 00:19:54 ID:r4RP7Qy80
お諏訪さま 後編 6/10

アクセルを踏む足に力が入らなくなってきた。
教授は本当に寝てる。
前方には、また上社の手前の駐車場が待ち構えてる。

なんで?絶対に反対に走ったはずだよ。なんで?!
タケミナカタを封じた結界は、社だけじゃなくて、諏訪全体にも張り巡らされていたんだろうか?
もしかして、町中に御柱が建ってたりするんだろうか?
馬鹿な想像をしながら、もう一度Uターンする。
あの鳥居をくぐったら絶対にダメだ。取り込まれる。

416 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/10(水) 00:20:45 ID:r4RP7Qy80
お諏訪さま 後編 7/10

何度もの交差点を、ひたすら直進した。
こうすれば、もう上社に近づくことはないはず。
前方の信号が赤に変わった。車を停止線で停め、辺りを確認する。
大丈夫。遠ざかってる。
細い支柱に支えられたLEDが青に変わるのを、焦りながらひたすら待った。長い。早く。

……………。
長いってば、この信号。
それに、支柱が木製って、絶対に変…。

交差点を囲む信号は、すべて御柱でできていた。
細く尖った先端が、空に向かって、悪意のある黒い空気を吐いている。

信号が青に変わった。
どうすればいいかわからなかった。
私は、ゆっくりとブレーキから足を離し、アクセルに置いた。
車は交差点に進入した。


417 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/10(水) 00:21:32 ID:r4RP7Qy80
お諏訪さま 後編 8/10

御柱が、4つとも、スローモーションで倒れてくる。
鋭い切っ先は、すべて私に向いていた。
ねえ、ちょっと待って。停まったほうがいいの?

「教授…」

頼みの綱を呼んでみるけど、声が上ずっているせいか、教授は気づかない。
このまま進んだら刺さる。しかも、狙われてるのは、頭、だよね。
ハンドルを大きく切りたい衝動に駆られた。汗ばんだ手に力が入る。
だけど、ハンドルは動かなかった。何かが軸を抑えているかのように、まったく回らなかった。

長い長い数mが、終わる。
交差点を無事に抜けた私の目に、諏訪インターの入り口が飛び込んできた。
迷わず車を入れ、高速に向かった。


418 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/10(水) 00:22:19 ID:r4RP7Qy80
お諏訪さま 後編 9/10

「でね、教授ってば、高速を下りるまで起きなかったんだよ」

帰ってきてすぐに、私は兄貴に電話で行程を説明した。
「蕎麦、食べそびれたし…。もう教授には絶対に付き合わない!」と断言するも、兄貴は笑ってるだけだ。
兄貴に連絡したのは、あの交差点を無事に渡れたのが、もしかしたら兄貴のお守りのおかげかな、と思ったから。
でも兄貴には何も兆候はなかったらしい。

「今回の守護神は【大黒天】じゃなくて、【だいこくさま】だったのかもよ」

兄貴の発言は冗談めかしていたけど、私は、なんとなく、ほんとにそうだったんじゃないかと思ってる。
息子が封印されてる諏訪を、父親である大国主は、ずっと見守ってたような気がするんだ…。


419 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/10(水) 00:26:12 ID:r4RP7Qy80
お諏訪さま 後編 10/10

兄貴と話をして数時間後、今度は兄貴から電話が来た。

「諏訪大社の上社ね、1回丸焼けしてるわ」
「は?」

わけがわからない。
兄貴の話は、つまり、こういうこと。
諏訪大社の上社は、1582年に戦火で全焼してしまったらしい。
当然、封印の社も御柱もなくなったから、タケミナカタの御霊は天に上ることができただろう、と。
「ヤサカトメは?」と聞くと、下社には焼失の事実はないとのこと。
「でもさ」と兄貴は続ける。

「お姫さんの御霊は、いま、上社本宮のすぐ近くにある前宮ってとこに祀られてるんだ。諏訪湖を隔てて夫婦を祀るのは可哀相だってことでね。諏訪の人、粋な 計らいをすると思わねえ?」
「………」

電話口で、私は、嗚咽を聞かれまいと必死だった。
怨霊とか悲劇なんて結末より、ずっとずっと。
2人がそばにいられる結末のほうが、心に響くと思わない?

心なしか、兄貴も嬉しそうにはしゃいでいる。

よかったね、ヤサカトメ。
優しい土地に祀られて、本当によかったね。


見ちゃダメ