予想通り ―。

ヤツはいきなり乗り込んできた。普通は赴任前に電話で挨拶の一つもあるのだが…

それすらない。まあ、棚橋の非常識は想定内だ。コイツに当たり前の社会常識を期待してはいけない。棚橋は警察のガサ入れか何かのようにズカズカと事務所に踏み込んできた。そして開口一番、

 

『童子オぉぉぉナぁぁぁ!先月のあの数字なんなんですう?

 ヤル気あんですかぁ!?』 

 

ときた。ああ、あるさ。あるに決まってる。サラリーマンのお前と違って、こっちはなんの保証もない零細自営業者だ。毎月容赦なく迫ってくる様々な支払い期限を落とさず決済しないとならんからな。てゆーか、お前、赴任日まだ先じゃねーか。何、

勝手に来て勝手なことほざいてんだよクソが!と、腹の中で毒づく。棚橋はさらに

続ける。

 

 『何なんですかぁ、あの在庫はぁ!棚、スカスカじゃねーですか!』

 『棚卸の数字オカシくねーですかぁ!?』

 

こんな感じでタップリ30分。さんざん私と我が歓喜店に罵詈雑言をまき散らすと、

ようやくスッキリしたらしい。

 

『じゃ、童子オーナー、来月から宜しくお願いしますね!』

 

と、捨てゼリフを残し、仕事もせずに帰っていった。ただただ立場の弱いオーナーを言葉で嬲りたい。反撃できないヤツを痛めつけたい。そういう心の内が透けて見える。相変わらずの異常者ぶりである。思いっきり殴ってやりたい!それどころか、

殺意すら芽生えた。しかしそれをやってしまっては身の破滅である。原因がたとえ

棚橋側にあったとしてもだ。こういう異常な人間に目を付けられてしまったわが身の不運を嘆いた。次の契約更新をせずに辞めてしまう、という選択肢もあるが、それではキャリア形成上いかにも中途半端である。少なくとも10年は経営者として頑張った、という証が欲しい。ひたすら面従腹背で耐えるしかないか…絶望で目の前が真っ暗になった。これが何年も続くかもしれないのである。私は頭を抱えた。(つづく)