「バイバイ!元気でな。」

「……」

彼は何も言わず、僕の方に寄ってきて
弱っちい右フックで殴った。

電車のドアが閉まろうとした時
もう一度、外の彼に向かって「じゃあな。」と言った。

彼はまた何も言わず、
今度は左手を強く挙げた。
その表情には強い意志が見えた。

僕は少し鳥肌が立っていた。

走り出す電車の中で
ここでの思い出を振り返り出した。

2年前の春だった。
この街に来たのは。

派遣の仕事で来た僕は
当初3ヶ月の滞在の予定だったが、
結局8倍長く留まっていた。
始めは仕事にも慣れず、1ヶ月で辞めてやろうかなと思っていた。

そんな時、彼は同じ派遣社員としてやって来た。彼は勤務初日から遅刻という大暴挙に出たのだが、館長の不安をかき消してしまうほど仕事は慣れた手付きだった。
1ヶ月先輩の僕も多少、肩身が狭かったのは否めない。

「仕事慣れるの早いな。どっかでやってたの?」

「少しだけ…やってました。」

「すごいじゃん。羨ましいよ。」

「たかが派遣なんで、、
何のスキルにもならないですよ。」

下から褒めてやったのにこのザマだ。
第2印象も良くはなかった。

ある仕事終わり
僕の部屋に彼がやってきた。
冷蔵庫に置いてあった
コンビニオリジナルブランドの缶チューハイを
2人で飲んでいると

「この職場の人達はみんな優しい人ばっかりですね。」といきなり言い出した。

「あぁ、そうだな。」

「俺、2ヶ月だけの予定だったけど、延長しようと思います。」

「たかが派遣、、じゃなかったのか?」
僕は嫌味っぽく少し笑いながら言うと

「嫌な言い方しますね。
でも、そうですね。そう思ってたけど
結局、何して働くかじゃなくて
誰と働くかのような気がしてきました。」

そこからだろうか、
毎日こうやって仕事終わりに缶チューハイを
飲むようになったのは。
第3印象にして彼は僕の中で"良い奴"という称号が付いた。

そして昨日の夜、僕と彼は1つの約束をした。

「1年後…。1年後に一緒にまた働きましょう。」

「ああ。会社でもやるか?」

「分からない。けどなんか面白いことやりましょう。」

「楽しみにしてるよ。」

おそらく昨日の二人は
ただの夢物語であると分かりきってはいながら
どこか実現可能であることを信じていた。


僕は電車の座席に深く座り直して
1年後の僕たちの夢をひと足早く見ようと
まぶたを閉じた。