ラッキーなことに晴天だった。雨だったら中止だったから、どっちがラッキーかわからないが。

慎重なわたしは、深呼吸をし、ゆっくり足をかけながら、下を見ず、空めがけてひたすら昇った。
まるで青空にのびるジャックと豆の木のように。

私は、頂上まできた。そこへどうやって足をのっけたらいいのやら頭で考えていた。なんとかバランス良くまっすぐ立てた。すぐに空中ブランコに飛び移るのは、もったいないと思い、タイタニックのように、しばらく両手を大空に広げ目の前に広がる青い海をながめた。こんな絶景いままでみたことない。

なんという美しさだ。

壮大な海をみることで視点が変わり、すっかりそのときには、恐怖をすっかり忘れていた。

右を見れば富士山がある。欲張って富士山を見ようとしたら危うく足を滑らしそうになった。これは潮時と思い、空中ブランコへ飛び移る覚悟を決めた。

大声で「ヒェー!」と絶叫しながら、ブランコへ飛んだ。

というよりも、落ちた。ブランコまでは手が届かず、命綱にひっぱられヘルメットをかぶったまどかは宙ぶらりんだ。

あれほど近所迷惑だから声はだすなと注意されていたにもかかわらず、風雲たけし城ゲームオーバーである。


でも不思議と、しばらく宙ぶらりんの状態で浮いているのが心地よかった。

ほかにも面白い授業はわんさかある。
禁煙プログラム(絶対タバコやめられると自信を持ってお進めするプログラム)や男と女が入れ替わる授業。
10メートルの柱に上り、そこから空中ブランコへジャンプ。などなど。。。

これらは想像するよりもやってみると大変ショックなこともあったり、感動があったり、いろんな思いがそれぞれの頭の中をよぎる。

 例えば、空中ブランコの授業について。
10メートルの電柱のような柱がホテルの敷地内の外れた方に設置されてある。海に向かって立っているのだが、意外に10メートルって結構高い。この授業のためにここに建てられているのだ。

木でできたこの柱には、電柱のように昇降用の足場がついている。足場といっても、棒のようなものが柱にうってあるだけで、足を滑らせばすぐさまおちてしまいそうなくらい頼りない。一本の木でできた電柱のようなものなので、てっぺんなんて足をおくスペースでやっとだ。

なんとその柱に一人ずつ昇れというのだ。もちろん危険が伴うのでヘルメットと命綱はつける。その命綱は下で同じ班の仲間たちが数人で持っているという、かなりあぶなっかしい授業だ。だって人が手を緩めれば、命綱はするするとぬけ、昇っている本人は真っ逆さまに落ちるのだから。

班のみんなを信じていないと昇れない。

上まで昇ったらとりあえず柱の頂上に立ち上がる、そして一息ついたら目の前にぶらさがっているちいさな空中ブランコをつかむというもの。命綱一本、つかめなかったら宙ぶらりんだ。下には、防御ネットなどはまったくない。

想像してほしい、頂上についたら、捕まるものがないのに、そんな不安定な場所に両足でたってみろというのだ。

まるで「風雲たけし城」である。

30人くらいの班になって順番に昇る。人が昇っている間は、下からやはり応援する。でも、近所は住宅街で応援エールがうるさいと再三苦情になっているらしく、応援は音無しでおこなえという無謀な指示が出ていた。

つまり、ハンカチを振り回したり、手を振ったり、声はださないけど口はパクパク開けて必死で応援しているのだ。

下からこんな応援がまっていたら、とりあえず昇らざるを得ない。

私は高所恐怖症でこのときもどうしてもこの授業だけは恐怖で逃げ出したかった。
セミナー参加前からそれだけが憂鬱だったのだもの。
こんなのにくらべれば火渡りなんてなんのその。
人によっては、昇っている途中で恐ろしくなって、おりてくる人もいた。

そしてとうとう私の番がやってきた。

ヒロシの顔は真剣そのもの。

たいまつに照らされた顔が少し赤い。
和太鼓のリズムにのって、ヒロシは足を大きく上げ、急いで渡りたいのか、かなり大またで火の上を歩いていく。

よく聞くと大きな声で「ヒヤムギ! ヒヤムギ!」 と言っているではないか。

本来「ヒエグサ」 のはずが緊張の余り、 「ヒヤムギ」に変わっていた。

ひとまず無事に完歩し、ヒロシはすっかりご満悦。プールサイドの冷えた水でニコニコしながら足を冷ましている。
勢いで渡ったようなものだ。

ヒヤムギでヒエグサでもどっちでもヒロシには効いたらしい。

こんな経験やりたくてもなかなか無理だ。そもそも松明(たいまつ)や太鼓の準備が大変だ。また、応援なしで一人で歩けるわけがない。

この授業を終えて、なんだか胸がすっきりしたのは300人全員ではなかっただろうか。恐怖にうちかって5メートル先の新しい世界へ足を踏み入れたのだから。

こうして恐るべし火渡りはヒヤムギと共に一生わすれられない記憶となった。