今回ご紹介する『神様の御用人』のプロローグにあたる部分に、
『神は人の敬いによって威を増し、人は神の徳によって運を添う』
という御成敗式目の一文が引用されていた。ここに、
著者の浅葉なつさんが本作で最も伝えたい思いが込められているように思う。
日本の神様は「八百万の神」といわれるように、とにかくたくさんいて、
兄弟ゲンカをしたり、暴れ回ったり、引きこもったり、浮気を疑ったり、やけに人間臭い。
いわゆる外国の「全知全能の唯一神」とはかなり性格を異にする。
何しろ御成敗式目の言葉によれば、
神と人とは「持ちつ持たれつ」の関係にあるということだ。
そもそも「God」という単語に「神」という訳語をあてたところから間違っていた、
という指摘もある。
不勉強だが、全知全能の唯一神とは、
「この世界を生み出した絶対的な存在」なのであろうと思われる。
これに対して古代の日本人は、
「自然のエネルギーの奥に潜む目に見えない存在」を「神」と考え、
イマジネーションをふくらませて、神話を生み出したのかもしれない。
(※ここからは「ネタばれ」を含む)
物語の舞台は、京都を中心とする関西地域で、
主人公はひょんなことから「神様の御用を言いつけられる」ようになる。
現代の日本において、神様の力はかつてより弱まっており、
神様の意向を実現するために、選ばれた人間が手助けを命じられるという設定だ。
神様の力が弱まっているのは、人間が神様を以前ほど敬わなくなったからである。
文明が発達したにもかかわらず、世界は混沌とし、
現代人がどことなく不幸に見えるのは、
神様を敬うことを忘れ、神様の力が落ちたことで、
神様の徳が人に及びにくくなったからではないのか。
軽妙に進む物語の中に、そのような著者の主張が垣間見える。
物語の中では、神様も人間と同じように悩んでいたりするが、
その一方で、決して死なない神様ならではの「物の感じ方」も絶妙に表現され、
主人公の青年の思いとの「食い違い」が面白く表現されている。
必ずしも「依頼通り」の形で解決するわけではないが、
本書に含まれる四編のストーリーは、
いずれも心温まる「納得のエンディング」を迎える。
と同時に、日本の神様や神社、神道の知識も学べる仕組みになっており、
ライトノベルという位置づけではあるが、なかなか奥深いものがあると思った。
恥ずかしながら、すでに第8巻まで発刊されているベストセラーにもかかわらず、
私は最近まで本書の存在を知らなかった。
世の中に知らない本が無数にあることなど、
以前からわかっていたつもりだが、また思い知らされた気がする。
さっそく第2巻も注文したので、今から届くのが楽しみである。