拙著「すべての病気は口の中から ～歯が痛くなる前に絶対読む本～」
が発売になって２週間が過ぎました。おかげ様でアマゾンでは一時欠品状態になるなど順調に推移しています。
内容にによりご興味を持って頂くために、同書の重要なトピックを順次ご紹介していますが、第５弾は【気軽に買える胃薬に潜むリスク】です。
詳しい目次、読者コメントなど詳細は「書籍ご紹介サイト」でご覧になれます。
【気軽に買える胃薬に潜むリスク】
「吾輩は猫である」や「坊ちゃん」など多くの作品で知られる明治の文豪・夏目漱石は49歳と、現代の平均からすればかなり若くして亡くなりました。度重なる吐血を繰り返し、最後は失血死という壮絶な最期でした。その原因は胃壁に出来た巨大な「胃潰瘍」であったことが確認されています。
ところが今では、胃潰瘍で亡くなる人はもちろん、以前は当たり前だった「胃潰瘍を手術で治した」と言う話もまず聞くことがありません。その理由は、胃酸の分泌を強力に抑制することで潰瘍を治癒に導く非常に優秀な薬が開発されたからでした。それが1982年に登場したH2ブロッカーと、その約10年後に発売されたプロトンポンプ阻害薬（PPI）です。
胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍などの治療は、胃酸の分泌を抑制することが中心となっています。この胃酸の分泌を抑えるのを目的としたH2ブロッカーはいまや広く普及しています。それは１９９７年にH2ブロッカーがスイッチＯＴＣ、つまり医療薬だったものが、市販薬として薬局でも購入できるようになったことも一役買っています。
H2ブロッカーは、胃液の分泌に大きくかかわっている物質・ヒスタミンを抑える薬です。ヒスタミンは、食べ過ぎや疲労、ストレスなどで体内に作られ、胃粘膜にあるヒスタミン受容体を刺激することで胃酸の分泌を促します。 H2 ブロッカーのしくみは、この胃粘膜にあるヒスタミン受容体にヒスタミンが結合するのをブロックして、胃液の分泌を抑制するというものです。
プロトンポンプ阻害薬（PPI）は市販薬ではありませんが、より強力に胃酸の分泌を抑制します。こちらは、胃壁細胞のプロトンポンプに作用し胃酸の分泌を抑える薬です。
プロトンポンプ阻害薬（PPI）は市販薬ではありませんが、より強力に胃酸の分泌を抑制します。こちらは、胃壁細胞のプロトンポンプに作用し胃酸の分泌を抑える薬です。
ですが、ちょっと気になることがあります。 H2ブロッカーもプロトンポンプ阻害薬も、胃や十二指腸など消化器の潰瘍などの治療薬としての効果は素晴らしいものですが、「栄養・腸内環境」の面からみると、必ずしも良いことばかりではないことが分かってきたのです。
胃で分泌される消化酵素「ペプシン」の活性化には胃酸が必要ですし、強酸性の胃酸が減ることで殺菌力が低下し、小腸の病変が増えたという報告もあります。そしてそこに「口腔内の環境」が影響を与えると、問題はさらに複雑になります。
代表的な歯周病原細菌であるジンジバリス菌（Pg菌）をマウスの口腔から投与したところ、腸内細菌バランスを大きく変化させ全身的な炎症を引き起こしたという実験結果があり、歯周病により口腔内の細菌バランスが崩れると腸内環境が悪化し、胃酸の低下がそれに拍車をかける可能性があると考えられるのです。
ということは、H2ブロッカーやプロトンポンプ阻害薬を長期に連用した場合、消化・吸収能力が落ち、栄養不足から未病状態になる懸念もぬぐえない、ということになります。
実際、2015年12月にラスベガスで開催された米国抗加齢医学会総会でも、ＰＰＩの長期連用は
１)カルシウムやマグネシウムなどのミネラルの吸収
２)ビタミン（たとえばB12）の吸収
３)タンパク質の消化吸収
２)ビタミン（たとえばB12）の吸収
３)タンパク質の消化吸収
などを阻害するので問題だとして「不快症状を起こさずに止める方法」の議論がされていました。
それだけでなくＰＰＩについては、これを使用した対象者は、非使用者群に比べて認知症の発症リスクが１・４倍高かったというドイツの研究報告もあります。胃酸の分泌低下で腸内環境が乱れ、神経伝達物質の産生に影響を与える可能性を考えれば、十分に納得できるリスクといえるでしょう。
忙しい時よく効くクスリが手軽に入手できるのは有り難いですが、 いろいろな薬が購入しやすくなっても、気軽に服用する前にこのようなリスクについても理解しておくようにしたいものです。
◆目次
序章 口の中の恐ろしい「もの言わぬ病」
第１章 全ての病気は歯から始まり、腸に至る！
第２章 認知症の原因も口の中にあった
第３章 食べていると確実に死に近づく食べもの
第４章 自分でできる歯と口のケア
第５章 いい歯科医とダメな歯科医
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