脂質栄養学会「コレステロール ガイドライン」を改めて読んでみる | 118歳も夢じゃない!抗加齢専門歯科医が教えるアンチエイジングの秘密

118歳も夢じゃない!抗加齢専門歯科医が教えるアンチエイジングの秘密

健康な人生を満喫している人は歯科と上手に付き合っています。歯科医師として日本初のアメリカ抗加齢医学会認定医が、歯科とアンチエイジングの意外な関係について語ります。


皆様こんにちは。
栄養を科学する抗加齢歯科医
森永宏喜です。

※この記事は2015年にFBその他に投稿していますが、やはり重要なのでこちらにも再掲します。


アメリカ政府の「食生活ガイドライン諮問委員会」は今年(2015年)、「コレステロールの摂取制限は必要ない」という報告書を提出しました。また日本の厚労省が4月に発表した「日本人の食事摂取基準2015年版」からも一日あたりの摂取量を定めた「コレステロールの摂取基準」は姿を消しています。

ここに来て一気に「食物のコレステロール」の考え方が変わったようにもみえますが、実はこれを裏付ける研究成果は10年以上前から数多く出てきていて、日本脂質栄養学会は2010年に「長寿のためのコレステロール ガイドライン」を発表しています。

そこには現在主流になりつつあるコレステロールへの考え方がほぼ過不足なくまとめられていて、まさに「時代がようやく追いついた」という感じです。改めてその内容を確認してみたいと思います。

 

1)コレステロール摂取量を増やしても血清コレステロール(TC)値は上がらない

 

これまで、コレステロールは「食べなければ血中濃度を下げることができる」と考えられていたため、それを多く含む食品を避ける指導がされてきました。中でも1個に約250ミリグラムのコレステロールを含む卵は「1日1個まで」という話が「常識」となっていました。

図2

 

しかし、これを否定するデータは2000年にすでに出ていて、「卵を多く食べる人のほうがむしろTC値が低い」という結果です。コレステロールのうち7割は体内で作られ、3割が食物からといわれていて、多く食べるとその分体内での合成を止めてしまいますからトータルでは増えるどころかむしろ減るらいなのです。ですから「コレステロールが心配だから」と優れたタンパク源である卵を食べないのはおススメできません。

図1

 

2)植物性の油は、がんや心疾患を防げない

「植物性の油を多く摂り、動物性脂肪とコレステロールの多い食品を控えれば動脈硬化を防ぐことができる」という栄養指導が長い間されてきました。ところがこのような食生活はむしろ狭心症や心筋梗塞、各種のがんなどを増やす恐れが高いことが2010年時点ですでに明らかになっていました。、1か月程度の短い期間の調査結果を、長い年月の積み重ねである慢性の病気の予防に当てはめようとしたところに問題があったのです。
実際、古い食事指導が正しいことを確かめようとした「ヘルシンキビジネスマン研究」は期間が経つにつれ死亡者が急増し、倫理的問題から中止せざるを得なくなりました。


 

図3

 


3)家族性高コレステロール血症(FH)を一般論にしてはいけない

 「TCが高いと心臓の病気が増える」という報告がありますが、そのような研究では、調査対象に遺伝によりTCが高くなる「家族性高コレステロール血症(FH)」の方が多く含まれていました。そのために「TCが増加するにつれ心臓病による死亡が増える」という結果が出ていましたが、そもそもの調査対象の決め方に問題があったことになります。
 さらに、遺伝に異常のない40歳代以上の方に限っていえば、TC 値が高い方ががんによる死亡率や総死亡率が低いという結果も出ています。死亡率が低い、つまり長寿であるかどうかという意味では「TCが高いほうが長寿」ということになるのです。

図4

 


4)スタチンでは心臓病を減らせない

循環器の学会での治療方針(ガイドライン)ではLDLコレステロール(いわゆる「悪玉」と呼ばれているもの)を減らすスタチン系の薬剤が心臓病予防に有効とされていますが、その根拠になっている論文は2004年以前の古いものです。2010年時点での研究ではスタチンのそのような効果を証明することはできませんでした。

むしろスタチンの重大な副作用である横紋筋融解症や、各種ホルモンやコエンザイムQ10(Co-Q10)などが作られにくくなることが問題となっています。

遺伝的に問題がない調査対象では、LDLや中性脂肪が高いほうがむしろ長寿という調査結果も出ていて、安易にそれらを下げる治療はすすめられません。

 

5)脳卒中はTCが高いほうが予防できる

この50年の間に、日本人の動物性食品の摂取量は大きく増えました。そのためTC値は上昇してきましたが、脳梗塞や脳出血などの脳卒中は逆に減ってきました。コレステロールは血管の強度や柔軟性を保つためにとても大事な栄養素なのです。

脳卒中を起こした人の8 割以上は、TC 値(LDLコレステロール値)あるいは中性脂肪値の低い人です。一方、バターやココナッツオイルなどの飽和脂肪酸やコレステロールの摂取量が多い人のほうが、脳梗塞などの虚血性脳卒中の死亡率は低くなっています。

ですから、これらの数値が高いというだけの理由で投薬治療をするのはおすすめできません。強い酸化ストレスによって「過酸化脂質」が生じて、初めて動脈硬化などの原因となるのです。2015年時点でも「LDLを下げたら心臓病が減った」という信頼性の高い研究データは存在しません。

 

6)オメガ6系脂肪酸を減らしオメガ3系脂肪酸の摂取を増やすことで動脈硬化やその他の病気を防ぐことが出来る

一般的な植物油に多く含まれるリノール酸などのオメガ6系脂肪酸は炎症を促進します。それに対し、魚油のEPAやDHA、植物性のアルファリノレン酸などのオメガ3系脂肪酸は炎症をおさえて動脈硬化などの病気を防げことが分かっています。現代人の摂取バランスは圧倒的にオメガ6が多く、その比率を1:1になるべく近づけることをおすすめします。

また多くの植物油は動物実験で腎障害などが報告されていて、人での安全性は確立していません。これに対し、動物性脂肪(飽和脂肪酸)やコレステロールは長期的には TC 値を上げず、炎症を促進せず有害作用もありません。肥満にならない範囲で、動物性脂肪やコレステロールは安全であるといえます。

 

ガイドラインのうち大事な点だけを補足を入れながらまとめましたが、5年経過した現在でも全く古びていないどころか、正しさが次々と証明されている感じですね。原文を参照されたい方は以下からどうぞ。

http://jsln.umin.jp/pdf/guideline/guideline-abstractPDF.pdf

さて、日本動脈硬化学会も2015年5月、「コレステロール摂取量に関する声明」を発表し、「食事で体内のコレステロール値は変わらない」と認めました。

「意識的に難解に書いたのか」というような文章ですが、コレステロールを抑える医療を認める根拠としてはどうなのかなと思います。

http://www.j-athero.org/outline/cholesterol_150501.html

 

(図表は金城学院大学オープンリサーチセンター「脂質栄養学の新方向とトピックス」より引用)