誰もいなくなった
昼の町を歩く私の袖を掴んで呼び止めた女に見覚えはない
息を切らした女の眼には
悲しさとは違うものが見える
そんな帽子を被っているのはあの人ぐらいだったと
笑いながら話す
帽子だけ頼りにして捜してきたのにと
悔しそうに話す
捜す男は指名手配犯の濡れ衣を着せられてどこかへ消えたらしい
濡れ衣を脱ぎ捨てるため二人で貯金をしていたらしい
張り紙の似顔絵は彼とは似ても似つかぬと
懸命に話す
私は共に捜した 彼女の幸せを捜した
捜し続けて半年が経つ頃に私たちのところへ強盗が押し入った
夜の町に警報がけたたましく響く
寝巻しか纏わない私たちに刃物を向けて
消えてくれと襲い掛かる男たち
その時 強盗の一人が飛び出して女の代わりに血を流した
倒れる男の挙げた声を聞いて女の顔が変わる
私は女の手を取って窓から飛び出した
間も無く警察が強盗を取り押さえ
倒れた男は担架で運ばれていく
女の体は話も聞けぬほど震えていた
あの倒れた男が今まで捜していた彼だ
唇は震えていた
私は共に捜した 彼女の幸せを捜した
指名手配されていた凶悪犯が逮捕されました
速報が夜明けの町へ行き渡る
刺された男性が近くの病院で亡くなりました
速報が夜明けの町へ行き渡る
刺された経緯(いきさつ)を事細かに話すテレビ
何も知らぬ町には
飛び出した男の心などわかりはしないだろう
愛されていたんだね その日私は女に言った
泣いている女
次に女を見たのは夜が明けてから
芯まで冷たくなってからだった
息の切れた女の眼には
何も映ってなどいなかった
遺書の隣には保険金の束があった
強盗をした上に四人を殺した罪は重いと
風格のある髭の男が語った
凶悪犯の最期は全員が死刑
私は共に捜した 彼女の幸せを捜した
誰も正しくなかったのか
誰も正しくなかったのか
誰もいなくなった
誰も正しくなかったのか
誰もいなくなった
誰もいなくなった
誰もいなくなった