私の愛した詩人 8 室生犀星 | 閑話休題

 私の愛した詩人11 室生犀星

 

      小景異情                   少女ポンタン悼詩                侘しい郊外で

 白魚はさびしからずや              ポンタン実る樹のしたにねむるぺし  まだ宵の内の

 そのくろき瞳はなんといふ        ポンタン思えば涙は流る         山の手の樹がくれにある侘しい小間物屋

 なんというしおらしさぞよ         ポンタン遠い鹿児島で死にました   ほこりにまみれた流行おくれの

 そとひる餉をしたためる         ポンタン九つ                 色も匂いもあせなかった

 わがよそよそしさと            ポンタンは真珠                リボンや櫛半襟をひさいだ店先に

 かなしみと                 ポンタン万人に可愛がられ                そして何ひとつ華やいだもののない

 ききともなやな雀しば啼けり       いろはにほへと らりるれろ       荒れたまづしい商店に、

                          ああ らりるれろ

 ふるさとは遠きにありて思ふもの        可愛いいその手も遠いところへ     私は色の褪めた寒い女を見た

 そしてかなしくうたふもの         天のははびとたづね行かれた      そそけた髪をつかね

 よしや                     あなたのおじさん              膝や足首をあらはにし

 うらぶれて異土のこじきしなるとても   あなたたづねて すずめのお宿           そして赤ん坊を抱きながらあやしながら

 帰るところにあるまじや           ふじこ来ませんか                                  ゐる姿を見た

 ひとり都のゆふぐれに          ふじこ居ませんか              自分でつとめて微笑って見せ

 ふるさとおもひ涙ぐむ                                      赤ん坊をほほえまそうとしている

 そのこころもて                                                       

 遠きみやこにかへらばや                                  そとには人通りもない、

 遠きみやこにかへらばや                                 ただ彼女はくらい電灯の下で

                                                  一心に子供をあやしている

 あんずよ花着け                                       そのみにくい荒い顔立ちが

 地ぞ早やに輝け                                           愛しようとする

 あんずよ花着け                                        柔らかい心持ちにくづれている

 あんずよ燃えよ

 ああ あんずよ花着け                                                                            私はそれを通りすがりに

                                                   わけもなく見て過ぎた

                                                                                                               さういふ私の心に久しぶりで平和が来た。

 

  金沢生れ。父と女中(一説に金沢遊郭の遊女)との、私生児として生まれ、七つの時貧乏寺に養子、小学3年で裁判所の給仕となる。

「故郷は遠きにありて思ふもの」の詩は、少年期の苦い回想を抜きにしては理解できない。差別的な故郷から脱出してから、天性の詩人に成長する。彼の詩や小説を愛するファンが多い。