野良犬 | mori17さんのブログ

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「映画大好きおっさん」の映画関連

今回視聴したのは、1949年の「野良犬」で、DVDにて拝見しました。

 

野良犬[東宝DVD名作セレクション]

 

監督は黒澤明、主演は三船敏郎、志村喬

 

やっぱり1949年と古い作品なので、画像はともかくセリフがどうしても聞き取りにくかったです。

 

そこは脳内変換しながら観たのですが、戦後4年目の映画ですから、今の映画感覚とは少し違います。

 

序盤は演出的に間延びしたシーンが多く、現代のスピーディーなカット割りになれた我々からするとどうしても退屈になってしまいます。

 

ただ、暫くするとそこは改善されて、それよりもどこかで観たことのあるシーンが登場し始めます。

 

これは、マンガにおける手塚治みたいなもので、当時は今まで観たこともないことを次々作品に入れていく黒澤監督の映画ですが、いま観るとあれもこれもどれもそれも観たことあるシーンばっかりで、この辺はレジェンドって真似されるという事であり、逆に言うと本作は全ての刑事作品の原点であるということであります。

 

商品説明欄にも、「刑事物のジャンルを確立した記念すべき作品であり、サスペンス映画の傑作」と言っています。

 

話の方は、戦後すぐのまだ闇市などが存在し、皆が貧しかった時代で、つい最近まで戦争で人が人を殺していた、それどころか無差別爆撃で一般市民まで殺されまくっていた時代の出来事です。

 

さすがに戦争が終わってもまだ殺伐とはしているものの、平和な世界に戻りつつあり、秩序も回復しつつある時代背景ですから、警察機構もそれなりにしっかりしてきており、ただ若手は戦争に取られ死んでいったので、ベテランばかりが多く、ややゆっくりと言うか落ち着いた捜査方針で警察機構が運営されていました。

 

そんな中で復員してきた主人公は20代の若手で、拳銃の射撃訓練の帰り道の満員電車中で、拳銃を掏られてしまいます。

 

直ぐに気が付き、掏った男を追いかけますが、めちゃくちゃ逃げ足が速く逃げられてしまいます。

 

慌てて上司に報告しお伺いを立てますが、ベテランばかりの署内では、みな慌てず騒がずな感じで、「あ、そうなの?」ってな感じで、騒いでいるのは主人公1人だけでした。

 

ほんで上司に、裁定が下るまでにスリを担当するスリ係に行ってその犯人に関する情報を調べておいでと言われ、その部署に行って相談すると、どうもスリは掏って逃げたのが男で、もう一人女性のスリがいたことが判明します。

 

取り合えずベテランの市川刑事と女性スリのところへ出向き、事情聴取をすることにしました。

 

ところが主人公のすることは、自分の拳銃が取られているため何とか取り返したいとの思いから焦って空回りするばかりで、ベテラン刑事は余裕の対応をします。

 

この作品、こんな感じで空回って焦る主人公と、焦らず腰を据えて仕事をこなすベテラン刑事の仕草がこれでもかと描かれます。

 

事情聴取からは何も得られず、とりあえず主人公はベテラン刑事のアドバイスに従ってその女スリに張り付いて、女スリからは嫌がられますが、やがて若い年下の男にまとわりつかれた女スリが根負けし、あるヒントをくれます。

 

それは盗まれた拳銃は集められて銃器売買に使われるというものでした。

 

そこからは主人公の銃器密売ルート探索が始まります。

 

とにかく根気よく密売ルートを探っていくと、やっとそのルートに接触することに成功し、そうこうしていると掏られた拳銃で強盗事件が発生してしまいます。

 

拳銃でケガ人も出たためショックな主人公は、その強盗事件を担当する部署に入れられ、ベテラン刑事の佐藤とバディを組むことになり、犯人の手がかりを捜しまわりますが、ここでも空回りしまくってベテラン刑事のフォローを受けまくります。

 

この辺のやり取りを観ていると、若い頃の自分にも心当たりがあり、何か昔を思い出し恥ずかしさがこみ上げてきました。

 

最近は何かやらかすと直ぐに感情的になって怒る社会になりましたが、この頃は生き残った者同士がこれからの社会をしょって立つ若者を後押しする社会であったようです。

 

そして貧乏から抜け出すためにその拳銃を使って犯行を重ねる犯人を、徐々に追い詰めていく警察機構がなかなか優秀で、っていうか佐藤刑事が過去に何回も表彰されるくらい優秀で、しかも犯人側にも事情があってそんな犯罪をしている事すらも見抜いた上での捜査をしており、何か理詰めで追い詰める様は今でも通じる演出手法で、どれだけこの映画は真似されてんねんて感じで面白いです。

 

しかも、令和の今と違って町中に監視カメラもなく携帯電話も警察無線すらない時代ですから、それどころか警察車両を使った機動力もない時代の捜査ですから、ひたすら歩いて手がかりを掴む展開は、多少、ゆっくりし過ぎている感がありますが、とにかくよく出来ています。

 

やがて犯人に女がいたことが分かり、その女からも嫌がられる刑事たちですが、ここで一つの演出が入ります。

 

犯人達だって好きでやっているというよりも、貧乏から脱するためにやって、それが徐々に大げさになっているという事。

 

さらに主人公と犯人がかつて同じ状況に置かれていたことがあり、それに対して主人公は警官に、犯人は犯罪にといった真逆の行動をしているという演出です。

 

どんな理由があろうと悪は悪、こればかりは償ってもらわなければなりません。

 

犯人の彼女も、判ってはいても貧乏から這い上がれない現状に苛立ち、最初は刑事を煙たがっていましたが、やがて増える犠牲者に考え方を変えていきます。

 

この辺の観客誘導はさすが黒澤監督だと感心します。

 

そして最後の花畑での一件でケリが付くのですが、強盗殺人をするくらいだからどんな凶悪な奴なのかという見せ方からの花畑というのが、まるで最近の学生に蔓延した大麻の話しみたいで、ほんのちょっとしたきっかけで坂道を転がり落ちる普通の若者像を演出しており、ちょっとしたことで明暗分かれた真逆の若い犯人と若い主人公の違いに、人間生きていく上で何があるのか分からんなとハッとさせられました。

 

また、音楽の使い方も独特で、例えばラストの「蝶々」などといったようにここでこれを使うのかといった、この場面に合わないのでは?といった曲調を使い、逆にその場面にしっくりくるといった方法も入れています。

 

いま思うとこの「蝶々」の使い方は、ペキンパー監督の「戦争のはらわた」や庵野監督の「エヴァンゲリオン」などが影響を受けたやり方かもしれません。

 

この作品ですが、刑事物の原点と言っただけではなく、今の時代でも不変なものを描いており、実は黒澤監督と同期の本多猪四郎が助監督をしています。

 

本多猪四郎はこの5年後に「ゴジラ」を監督し世界的ヒットを飛ばしていますが、「ゴジラ」でも不変的なものを描いており、本作同様にその時代背景がしっかり映像化され、しかも水爆に対するアンチテーゼとした1作目がゴジラシリーズ中で一番面白いという、まさにこのころの日本映画は世界進出し世界的に名声を得た時代なのでした。

 

正直、こういった時代の流れというか空気を、当時にタイムスリップして感じ取りたくなる映画なのでした。

 

こんな感じです。

 

 

・猫のユーリさんの動画

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・猫ユーリ博士の動画

 猫ユーリ博士の「お得コーナー」 - YouTub