今日も早速お題に行ってみましょう。昨日付日経新聞朝刊3面、「ファスナーから見る消費 世界の衣料、値下がり続く」という、YKK会長・吉田忠裕氏のインタビュー記事を取り上げます。
この中で吉田氏が語る内容を要約すると、
○製造業の脱・中国の動きは続き、中国は『つくる場所』から『売る場所』へ変わる
○その受け皿になるのは東南・南西アジア。中東やアフリカでは縫製業は育たない
○今後も衣料品のデフレは止まらず、メーカーはさらにコストダウンを迫られる
となり、アジアの消費でボリュームゾーンになるのはあくまで低価格帯商品なので、高付加価値化での差別化戦略だけでは通用しないと言っています。そして最後に、ブログタイトルに使った、「(衣料品など)非耐久消費財の製造業は未知の領域に入る」という言葉で締めくくっています。
それでは、YKK社の業績を時系列で見て、吉田会長の分析について考えてみましょう。直近の2013年度と、5期前の2008年度の損益計算書データを比べてみます。
| 単位:百万円 | ||
| 2008年度 | 2013年度 | |
| 売上高 | 76,938 | 84,640 |
| 売上原価 | 54,901 | 56,511 |
| 売上総利益 | 22,036 | 28,129 |
| 販管費 | 26,180 | 35,004 |
| 営業利益 | -4,143 | -6,875 |
| 経常利益 | 5,470 | 4,374 |
| 純利益 | -5,102 | 5,922 |
| 売上原価率 | 71.4% | 66.8% |
| 売上総利益率 | 28.6% | 33.2% |
| 販管費率 | 34.0% | 41.4% |
| 営業利益率 | -5.4% | -8.1% |
| 経常利益率 | 7.1% | 5.2% |
| 純利益率 | -6.6% | 7.0% |
今回の数字は、連結決算書ではなく単体決算書、つまり「ファスナー製造業のYKK」の部分のみを抽出したものです。5年前も今も営業赤字になっていることから、厳しい経営環境に置かれているのが分かります。しかし、経常利益は両年とも黒字になっています。これは営業外利益、具体的に言えば配当金が多く入っているからです。いまや、「YKK」で検索するとトップに表示されるのはファスナーではなく、エクステリア建材等を提供するYKK AP社のホームページです。YKKは親会社として、これら多角化を担う子会社からの配当で黒字を維持しているのです。
つまり、「ファスナー製造業」としてのYKKは、すでに収益力を失っていると言えるでしょう。富士フィルムが写真フィルム事業から医療・化粧品事業に転換して成功したように、YKKもファスナー事業からAP(Architectural Products=建築資材)事業に転換して企業の存続・発展につなげているのです。
そんな中でも、ファスナー事業はこの5年で売上高の増加率約10%に対し、売上原価の増加率はわずか約3%に抑え、必死で粗利を確保している姿が読み取れます。この状況を肌で感じる経営トップとしては、「衣料品のデフレは続く」「人件費が上がる中国にはいられない」と思うのも無理からぬことでしょう。
現在のYKKの経営は、「未知の領域に入る」非耐久消費財(ファスナー)製造業の事業リスクを低下させるため、耐久消費財(建築資材)製造業に進出し、成功している、と言えそうです。
企業も人も、時代に合わせて変わらなければ生きていけないのですね、とベタな感想でまとめさせていただいて、それでは、また!!
※本稿のデータ出所
http://www.ykk.co.jp/japanese/corporate/financial/securities/pdf/yuka79.pdf
http://www.ykk.co.jp/japanese/corporate/financial/securities/pdf/yuka74.pdf