角石が一郎の父に会ったとき、一郎の父は機嫌がよかった。
機嫌が良かったっということは運が良い。
角石は夢中で話をしたが、話の内容はともかく、しっかり伝わったのかということもともかく、終始にこやかに聞いてくれたことが重要だった。
その日から角石は一生懸命勉強し、やがて東大を受験したが合格はできなかった。結果的に各椎は明治大学に進学した。ところで角石の高校の頃に親が離婚し、母親についていったことで苗字は変わった。今後は名前でつづろう。敏夫だ。
また、一郎も敏夫(角石)に感化されて東大を受験したが二年浪人したあと、結果的に慶応大学に進学した。
「親父の仕事のことよくわからないんだ」と一郎はぼそっと答えた。
「わかってる、わかってる。今度の日曜、君の家に遊びに行っていいかな。親父さんに一度会わしてもらえないか」
自分のペースで角石は言葉を続ける。
断る理由を探すの面倒くさそうに、わかったと一郎は答えた。
それから角石はなんだかいろんなことをしゃべっていたが一郎の耳には入っていなかった。