大竹文雄『行動経済学の使い方』 | 翡翠のブログ

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大竹文雄『行動経済学の使い方』

 

行動経済学の本は以前にも読んだことがありました。事例の部分が多いことで、わかりやすく感じながらも、一方で、読んだだけになってしまい、今、身になっているか、活かしているとはいえない感じ。

 

今回、新たに行動経済学の本、大竹文雄『行動経済学の使い方』が読書会の課題本になったので、こちらも読んでみることにしました。今回のこちらは、ページ数も薄く、初めての人にわかりやすい程度に絞られている感じ。導入部分で伝統的経済学との違いが3点あげられているところは、説明がわかりやすかった。
理論より実際を測定し、測定結果から理由を考えるものが行動経済学というものか。しかし、それは結論からの理由の後付けとはどこが違うのか、後付け感が強いとは思う。一方で従来の経済学では理論を全ての条件を整えるなど実際にはありえない場面の想定が必要なので、より実際に役立つだろうとも思います。
事例もあってイメージしやすかったが、企業側はもっと研究しているはずなので、自分で選択しているつもりのことも、本当は企業に誘導されているのだろうなとも強く思った。

ダイエットの部分は、実際、ちょうどやっていたことで非常に納得できた。長期目標に加えて、日々の目標と達成(例えば3か月後に3kg減より、日に7000歩)というのは実感できたし、アプリ導入後の計測、歩きの習慣化も確かにあったなと思えます。

このアプリ利用の効果は他の場面、他のアプリでも使えそう。可視化による効果が。加えて、オンラインなどのコミュニティでの相互報告、相互認証の促進効果、継続効果もあるだろうし。

事例で一番印象深かったのは、メッセージの威力と恐ろしさ。
災害発生時に、残りたいという人の説得として「残留する人は身体にマジックで社会保障番号を書いて」と言うことで、残って生きている自分でなく死ぬ(かもしれない)自分が参照点になるというのは、すごく効果的であると思いつつ。
生命に関わること、医療現場でのメッセージによる行動の違いは、驚きを超えて恐ろしさがある。たとえば終末期医療を延命か緩和か選ぶ選択で、あらかじめ入れたデフォルトに選択が影響される、その後、研究意図を説明され、再度選択する機会を設けても多くの人は選択を変更しなかったという結果が紹介されていましたが、これ、倫理的に問題になりそうな実験にも思えました。後から再選択の余地があるとはいえ、選択結果が実験のデフォルトのグループに明らかに依っているわけなので。もちろん、誤った医療方針や治療を選択させたわけではないので、不法ではないのでしょうけれど、自分が当事者であったら、自分の終末医療という重い選択を研究対象で操作され観察されたら、つらいと感じそうだ。
さらに医療方針の決定についてもメッセージにより選択するか否かが変わるようで、こちらは実際ではなく仮の実験のようだけれど、医師の説明、言い方で大きく選択が変わる可能性がある。とすると、自分が実際にその場面になったら、医者が本心で進めたいものでないものを、間違ったメッセージを受け取って選んでしまうかもという恐ろしさがありました。

 

今回、読んでただちに行動経済学を使い活用できるとは思えないのですが、人の行動は操れるし、操られていないと思っている自分の行動が操られている可能性は大と知ったことで、自分の行動や自分への働きかけを、疑ったり立ち止まったりすることはできるかもしれません。面白い1冊でした。

 

以前に読んだ本、リチャード・セイラー 「実践 行動経済学」を調べていたら完全版が新たに出版されていました。現在に即した新しい事例など追加されている模様。今回の課題本で、だいぶ頭に残っている間に、完全版を読んでみようかな。