「…まぁ、いいんじゃない?」
俺がした“報告”に、彼は曖昧に笑ってそう言った。
それから俺の横をするりと通り過ぎ、ソファーの端のいつもの定位置にボスっと座り、所在なげに目を伏せて息をついた。
「ちょ… それだけ?」
口を尖らせて彼を見下ろすと、
「それだけって… 俺に何が言えんの?」
彼は眉間にシワを寄せてこっちを見上げた。
俺はちょっとムカついて、座っている彼の膝に強引に乗り、横座りしてソファーの肘掛けに凭れ、脚を組み、
「もっと他にあるでしょーよ」
腕組みして斜め右にある彼の顔を睨んだ。
「…重っ… もぉ… なんだよ」
文句言いながらも、習慣みたいに、彼の手は俺が落ちないように俺の腰を支える。
「何か言いたい事あるでしょ?」
俺が再び問いかけると、
「……ケジメ、なんだろ? 」
彼はため息と一緒に そう吐き出し、
「だったら何も言えないじゃん」
諦めた口調で言い、蔑むような目で俺を見下ろした。
真っ直ぐに視線が合い、その冷たさに お腹の奥がキュンと疼く。
俺は思わず身を縮めた。
…って俺はヘンタイか
痺れる感覚に俺は自嘲した。
…まぁ…ヘンタイだよな
自分から嫌われる道を選ぶんだもん
ドMじゃね?
でもそれも
後に続くであろう、みんなの為でもあるんだけどな…
俺が一番嫌われていれば
他のみんなに向く目は ゆるくなるだろうから
「にの?」
黙り込んだ俺を彼が真上から覗き込み、
「何が聞ければ満足なの?」
やっぱり冷たい口調で言いうから、
「それは… 」
ますます萎縮する俺が目を逸らすと、彼は少し身体をずらし俺に覆いかぶさるようにしながら、
「言えないんだ? じゃあ言葉じゃなくてもいいよね」
そう言うと、彼は俺の耳にカプっと噛みついた。
「わっ、ちょっ…!」
びっくりして身を捩っても簡単に押さえ込まれ、服の裾から熱い手がするりと侵入してくる。
「待っ… てッ」
「うるさい」
抵抗するほど唇が落ちて来て、俺のそれを塞ぐ。それから噛みつくような激しい直情的なキス。キスしてるのに怒られてるみたいで、それが嬉しい。
絡まる舌と まさぐられる胸への刺激で、急激に熱くなるカラダに涙目になってると、いつの間にか外されたベルトの緩んだデニムのウエストから手が入り込んで来て、上を向きかけてた俺の中心をキュッと握り込んだ。
「…っ」
息を詰めると、彼の手はさっきまでのキスとは裏腹に、俺をからかうように優しく くすぐる。
「ん…」
そうされると自然に腰が浮いてしまう。
あぁ
もっと
俺に触って
それじゃ足んない
「おーのさ…」
名前を呼びかけた時、ふっと頭の奥を何かが掠めた。
こんな風に
当たり前にカラダを重ねる様になったのは
いつからだったかな
誰にも言わない
ふたりだけの秘密
そうだ
もう20年も昔になる
あの時はまだ子供で
刹那的で幼い
恋情と劣情に
意味も分からず
遊びの延長みたく
お互いに手を伸ばしたんだ
あれから
大人になって
それぞれ別の相手がいる
そんな さなかでも
俺たちは溺れるようにお互いを求める事をやめなかった
そして俺は
今もまだ
あの頃の気持ちのまま
成長していない
「…おーちゃん…」
ようやく口から出た言葉は掠れていた。
でもその呼び名に、彼は大きく目を見開いた。
俺はちょっと笑って、彼の頬に触れ、
「…俺、おーちゃんとするのが…一番気持ち…いい」
今までも
これからも
そう目を細めて囁いた。
「うん… 知ってる」
少し間を開けてから、ふふっと彼は鼻にかかった声で笑って顔を傾けた。
それから俺の両脚に触れ、そのままゆっくりと、彼 は俺の中にカラダを沈めた。
「……っ」
ふたりして息を詰め、その先は、痺れた本能が赴くまま淫らに揺れる。
限界が迫った時、
「おー… ちゃ…」
俺は彼を呼んだ。
同じく切羽詰まった瞳が俺を見下ろす。
「…俺、おーちゃんに、色々、酷いこと… したよね… 色々… ごめ…ん…んっ」
快楽と後悔と懺悔とで
もうよく分かんない
でも
「…いいよ」
彼は熱い息を吐き、
「俺、手放す気、ないから」
オトコの顔で笑ってキッパリとそう言った。
その瞬間
色々と全部
白く
弾けた
✳︎
くったりと手足を投げ出し、荒く息をするばかりの俺を彼は強く抱き寄せて、
「これからも変わんないよ」
微かな声で囁いた。
「うん」
目を閉じて頷くと、
「言葉じゃなくてカラダで話す」
アッケラカンとそう言われて、
「そっちかよ!」
俺は思いっきり彼を叩いた。
でもまあ
それもアリだな
これからも
これはずっと
ふたりだけの秘密の言葉
このお話はフィクションです。。