生きていれば誰だって
逃げ込める場所のひとつやふたつ
必要だろ?
そうだろ?
俺にとって
それは
もうここしかない
☆
「…にの、もぉ、勘弁して…?」
息を切らしてる おーのさんが、一回ぎゅっと目を閉じた後、懇願するようにそう言って俺の中から出て行こうとするから、
「ダメ、まだ… 足んない」
俺は彼の腰に足を絡みつかせて締めつけた。
「ちょ… マジ、もぉ、無理…」
「なんでよ、いつもは しつこいクセに」
「にのこそなんだよ… いつもは弱い…クセに…」
あぁって深いため息と一緒に 彼 が無理にズルリと出て行ってしまうから、その衝撃で俺も小さく喘いだ。
「…弱くねぇし」
空っぽになった身体が酷く心許なくて、不安が内側から溢れそうで、でもそれを説明できなくて、俺はソッポ向いて身体を丸めた。
「…にの? するのは もう無理だけど、ほら、くっついててあげるから」
笑い声と共に、俺の裸の背中に彼の汗ばんだ胸が貼りつく。
「恩着せがましい…っすね」
それは熱くて心地良いけれど、俺は素直にならずに悪態をつく。
彼は全部分かっているから、それ以上は何も言わずに両腕で俺を包み込む。
俺は親鳥に守られた雛みたいに、安心して目を閉じた。
…このまま一緒に融けて消えたい
誰にも見つからないように…
もうずっと
抱いている願望
それが叶うなら
他に何もいらない
そう
ずっと
ずっとずっと
そう願っているのに
こんな風に
面倒で嫌な事があった時しか
俺はあなたに逃げ込めない
だって
そんな理由がなくちゃ
あなたは俺を
受け入れてくれないだろうから
「…また、ハロウィンが来るね」
唐突にそう言われて、
「そう… だね」
俺は閉じていた目を開いた。
「ねぇ知ってる? ハロウィンの夜にオバケに捕まると、向こうの世界に連れてかれちゃうんだって」
「向こうの世界って?」
「さぁ…」
「知らねぇのかよ」
「ハロウィンタウンじゃない?」
その言葉を、肩越しに振り向いて、
「適当こいてんじゃねぇ」
小馬鹿にして笑ってやると、
「でも向こうの世界に行けたら、今度こそ逃げ切れるかも」
こっちの世界から、って、彼は ふふふっと鼻で笑った。
その笑顔が あの日の満月と重なる。
手に手を取って、どこまでも逃げた、10月の あの夜。
オバケだって上手く退けた。
でも捕まってさえいれば、2人で遠い世界に行けたのか…
「…あン時、逃げ切れなかったから、今度は独りで逃げたいって、思ったんだろ?」
思わず口を ついて出た言葉に、自分でハッとなって、俺はまた彼から顔を背けて一層背中を丸めた。
黙り込んだ彼の、浅い呼吸が首筋に当たる。
大事にしてきた
俺の居場所
俺の避難所
俺だけのモノにならないと分かっても
離れられずにここまで来た
でも
もう
たぶん
壊れる
またハロウィンが来ても
オバケには捕まらない
俺はこの世界で
独りぼっちになる
例え誰かと一緒でも
それがあなたじゃないのなら
独りと同じ
つづく
まさかの文字数オーバー…
5分後に続きます。。