春雷 31 | 背徳的✳︎感情論。


















俺が悪いんです」

しばらくして、大野先生が重い声で そう言った。

「俺が、この学校に戻って来たせいで、二宮に余計な記憶を思い出させて、苦しめてる」 

「余計?」

先生、俺、慎太郎は律がいなくなった後、そりゃ暫くは苦しんだかも知れないけど、きっと忘れて、他の誰かと幸せな人生を送ってくれたんじゃないかってそう思ってて」

うん」

「だから、俺と同じように慎太郎も生まれ変わっていたとして、律のことなんて思い出したりしないだろうって」

そこまで話すと大野先生は一旦黙り、一呼吸置いてから、

「それなら俺が会いに行っても大丈夫だろうってどんな人なのか、会ってみたいって思った。この学校に戻れば、それが叶うって予感があった」

何かを必死抑えているような声で続けた。

「そう

「一目会えたらそれで良かったんだ。慎太郎は俺にとっても初恋だったから。遠くから、少しだけなら、許されるんじゃないかってそんな風に、俺が思ってしまったから

大野先生の声が しやくり上げるようなものに変わり、俺は胸が痛くなって布団を強く握りしめた。


「二宮くんが律さんの事を思い出したのは、大野くんにとって誤算だったんだねその上 彼は前世とリンクして大野くんに恋してしまった」 

「俺にはそんな価値なんてないのに」

「価値?」

とにかく俺は、二宮の気持ちを受け入れてやれない。なのに、」

「それは、結婚を決めた彼女がいるから?」

小林先生の問いに大野先生は黙り、答えない。

俺は布団を握りしめたまま息を詰めた。


大野くんが何を抱え込んでんのか知らないけどさ大野くんにとって二宮くんは、会いたいと願って やっと会えた相手なんでしょ? せっかく会えたんだもん、もっと大事にしたら? 自分の気持ち」

何も言わない大野先生に小林先生がなだめるように言い、

「じゃあ教頭のところに行って来るから、少しの間 二宮くんのことお願い。じきに親御さんが迎えに来るはずだから」

続けてそう言うと足音が遠ざかりドアが開閉する音がした。


小林先生 行っちゃった

大野先生はどうするだろう


息を潜めて様子を伺っていると、ゆっくりと大野先生の靴音が近づいて来るのが分かった。

俺は固く目を瞑り、このまま寝たフリを通す事にした。今更起き上がって、何を話していいのか分からないから。


靴音がベッドのすぐ傍で止まる。

カーテンが少し動く音。

大野先生の気配が隣にあるのが分かり、それだけで不思議な温かみを肌に感じた。



二宮」

微かな声がして、ふわりと前髪を撫でられる感触があった。

その手は優しく何度も俺の髪を撫で、

「ごめんな

泣きたくなるような切ない声が掠れて届く。


なんで謝るの

どうして


「二宮とそんな資格、俺にはないんだ

言葉の意味が分からず、ただひたすらに切ない その響に胸がギリっと痛んだ。


長い沈黙のあと、おもむろに、温かくて柔らかいモノが 唇に押し当てられた。


それは一瞬のような長い時間のような、確かな感触と吐息を残して俺から離れて行った。

























つづく





月魚





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ありがとうございます(о´∀`о)



運動会シーズンですね…