『アリス・イン・ワンダーランド』 | リュウセイグン

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不思議の国のティム・バートン





不思議の国の独特なビジュアルとキャラクタを楽しむ映画と言うところだろうか。
バートン映画常連のジョニデ扮するマッドハッターはユニークで素敵なキャラクターになってる。
この映画では男の主人公格と言っても過言ではない。

僕は吹き替えで観たんだが、殆ど全てをベテラン勢が固めていてなかなか豪華。
声優たちを楽しむ映画としても充分機能出来る。
特に赤の女王は朴王路美さん、側近のハートのジャックは藤原啓治さんがやっている。

赤の女王は結構なロクデナシなのだが、ヘレナ・ボトム=カーターの芝居と朴さんのお陰でとてもキュートに見えて憎めない。

アリス演じるミア・ワシコウスカもかなりの器量よしなので、そういう部分を楽しむのもアリか(声優は舞台俳優がやっているようなので、微妙かも)



転じて考えるに、お話は微妙というか凡庸で御都合主義的風采が強い。
よくある異世界勇者物という奴で、予言の書に記された勇者が悪を撃つ……みたいなアレだ。
途中で妙な方向に曲がったりする部分はあってそれは楽しかったけれども、やはり結局この異世界勇者譚から外れずに予言の通りのことをして終わってしまう辺りは残念至極。

それは子供も含めて観る映画としてまだ良いと考えたにせよ、赤の女王の対抗勢力でアリスの後ろ盾となる白の女王がマジで終わってるのは戴けない。

赤の女王は姉、白の女王は妹であり、両親の寵愛は頭でっかちでヒステリックな赤よりも穏和な白が受けていたようだ。そのせいか本来の領主は白だったんだけど、赤がジャバウォックで襲撃を仕掛けクーデターを起こして政権奪取したという訳。
赤は強権で押さえつけるような政治をしている。
だからみんなは白を推戴して実験を取り戻そうとする。
で、敵勢力の隠し球・ジャバウォックを倒せると予言されたのがアリスだったのだ。

ここら辺は王道展開なのでなにも言わない。
ところがアリスはジャバウォックと戦う決意が持てずに、戦の寸前で白へ問い掛ける。

「何故貴方がジャバウォックと戦わないの? その力があるのに」



白は答える



「生き物を傷付けないと誓ったの」



えぇ~!?


お前、人には戦わせようとしてるだろ!?
自分が傷付けなきゃそれでいいのかよ!!
生き物を傷付けないとかいう誓いはご立派だけどさ、だからって厭なこと他人にやらせんなよ。

お前のワガママだろソレ!

「力が及びません」

って方が千倍はマシだぞ。
戦いに勝った後に白の女王の厭らしさはより明確になる。

「貴女の罪は死に値します、が、誓いがあるのでこの世界が終わるまで辺境に追放します」

この台詞だけならまぁむべなるかなという部分もあるんだが、戦いの中で白の女王はマジで何もしない。
何もしないにも関わらず、ちゃっかり王冠は頂いて、頂いた瞬間命令し始めるのだ(一応開戦前に赤へ戦う必要は無い……と忠告はしてるけど)

彼女は赤を評してこういう。
「私はあの人の頭の中で何かが育っていると思うの」
これが赤の頭部が普通より肥大していることを言っているのか、それともヒステリックな面を言っているのかは分からない。
ただ、素で赤を異形だと捉え、おかしい存在だと考えて(恐らく見下して)いるのは確かだ。

白は多分恵まれていたのだろう、美しくて、如才なくて、簡単に人望を集められる立場に居た。
だから苦労しなくても他人が厭なことを請け負ってくれて、自らの手を汚さずにその結果だけを手に入れるなんて行為は、彼女の中では当然。逆に醜くて癇癪持ちで、臍曲がりの姉は何かに寄生された生き物としか思えなかったのかもしれない。

でも本当は、そうじゃない人間のが多い。
白はそれに気付かない。
無垢なままに他人を踏みにじって、他人にもそれを当たり前だとさせる容姿と力を持っていたのだから。

パンフレットなどでは白の女王の危うさが書かれてはいる。
「遺伝子的には赤の女王と同じで、ただ違うのは行き過ぎない分別を持っているからだ」というように。
映画の中で表現出来ていなかったのか、僕がスルーしてしまったのかは分からないが、観て感じたのは

「コイツは無垢な顔のままにっこり笑って他人を利用しながら、それすら自覚出来ない女だ」

という事だった。
赤の女王も困った女ではある。
でも彼女の方がずっと人間的だと思う。
容姿に優れ、人望があり何から何まで手に入れられる妹。
自分はどんなに望んでも、決して彼女と同じにはなれない。
そのコンプレックスが武力蜂起を起こさせ、また他者を信用出来ず(つまり他者を惹き付けられると信じるほど自分を信用出来ず)に「打ち首!」と極刑ばかり下してしまう。

こっちの方が、ずっと共感出来る。

そして決定的だったのはやはり声優。
何故かアリスは舞台俳優、白の女王は深田恭子が担当している。
他はみんな大御所レベルなのに。
僕は演技に関してあまり神経質ではないが、朴さんの生き生きした演技と赤の女王のエキセントリックなキャラの前に深田恭子と白の女王みたいな一見穏和だけど腹黒い奴が出てきても太刀打ち出来る訳がない。
まぁ、これは仕方のないところでもあるとは思うのだが。

ともあれ、この白の女王さえ居なければダークな色彩の王道ファンタジーとして観ることが出来たかもなぁ。
原作では確か白・赤ではなく「ハートの女王」というのが居るだけなので、ここら辺はイラン改変だったかなぁと思わないではない。