『第9地区』(原題・District9) | リュウセイグン

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長文多し。

かつて暗黒大陸と呼ばれた大地の端にある寤(うつつ)の場所
荒野に難民、街に犯罪が溢れる……鬼畜とカオスの理想郷
……人呼んで「ヨハネスブルグ」はそんな街
(CV・銀河万丈)



そんな訳ですげえ映画でした。
正直、そこまで期待していなかった。
設定とストーリーには結構穴があるという事も耳にしていたし、ある意味よくある話かな、とも思っていました。

いや、必ずしもその見解は間違いじゃなかった。
でもヨハネスブルグというこの街が、映画のカラー全てを握って塗り替えるほどの力を持っていたんじゃないかという気にさせられる。

日本(の一部)ではヨハネスブルグコピペ で知られる場所だが、本当にアレを否定出来ない……というかこの場所で無ければ映画も全然違う話になっていた気がする。

物語としては
難民宇宙人(通称・エビ)を第9地区から更に郊外の第10地区に移す仕事を命じられた主人公・ヴィカスが、ひょんな事から宇宙人に変貌する液体を浴びてしまい、第9地区へ逃げ込み、そこの宇宙人と協力して……
というもの。

『アバター』の主客を転倒させた感じだと言えるかもしれない。
『アバター』では原住民が弱者であり、主人公は原住民のフリをしている内に感化される。

『第9地区』では原住民によって、やってきた宇宙人が虐げられ、主人公は嫌々ながら彼らの内に入ってしまうと言う訳。

この宇宙人の設定というのがやや分かり難い。
この映画はどうやらモッキュメンタリー(疑似ドキュメンタリ)として作られているらしく、当時手持ちカメラで撮影したであろう映像、専門家や関係者の証言と、ヴィカス自身が普通の映画の主人公のように登場する映像が交互に出てくる構成になっている。
宇宙人については未だ不明な点も多いようで最後までハッキリしない部分もかなりある。

ただ朧気ながら見えてくる部分を繋げると

・宇宙人は優れたテクノロジーを有しており、それを扱うには宇宙人のDNAを有している個体が必要
・但し社会性昆虫に近い部分があり下層種(働きアリみたいなもん)は頭が良くない。
・理由は不明だが上位種(女王蟻や指令蟻)が死亡
・これまた理由は不明だが地球のヨハネスブルグ上空を浮遊
・その際にコアとなる司令船が脱落
・司令船がないと帰れない
・けど頭の悪い奴ばっかり残ってしまったので計画的な行動もしないでズルズルと時間が過ぎた
・頭が悪くトラブルも多いので第9地区に隔離
・それでも困るので第10地区へ移送
・同時にアイツらの貯め込んだ武器は押収しよう

こんな感じ(ちなみに第10地区は明らかにジンバブエ難民キャンプへの皮肉だ)
そして

宇宙人は技術が発達しているのに、それを運用出来ず頭が悪く共存しづらい、
人間は技術が欲しいのに直接武器などを扱えない。


こういうジレンマが存在すると言うこと。だからこそ半宇宙人になった主人公が重要になる。
当然、宇宙人は黒人など人種差別的なものの暗喩として用いられている。
しかし本編はそんな真面目で社会派なドラマとは一線を画している

というか、マトモな奴が殆どいない。
人間も宇宙人も、この映画の中ではヨハネスブルジアン(ヨハネスブルグっ子)という同一の存在に見えてしまう。
それくらいカオスなのだ。

主人公のヴィカスは立ち退きに際して「相手のサインを貰わなきゃいけない」という事から、これを押し進める立場にある。キャラとしてはスタッフからも「平凡な小市民」とか「小役人」などと語られている。

しかし僕らが脳裏に描くのは「日本の」小役人である。
ヴィカスもやはりヨハネスブルジアンである以上は「ヨハネスブルグの小役人」なのだ。
だから宇宙人の卵を見つけると嬉々としてチューブ(臍の緒みたいなものだろう)を外す。

「ホラホラ! 変な液体が出てきたぞぉーーー!
このチューブ記念に持っていけよ!」


そして小屋ごと焼き払う

「ヒャッハァーー!
卵の弾ける音がポップコーンみたいだぜぇぇ~!!」


こんな感じ。
明らかに日本のソレとは異質だ。

宇宙人もおかしい。
ゴムとキャットフードが大好物という謎の嗜好もさることながら、それに懸ける情熱も常軌を逸している。
立ち退き隊装甲車のスペアタイヤをそのまま囓り始めるという豪快さ。
人間から武器を向けられればそのまま相手を蹴り飛ばし腕をちぎり、結果撃たれる。
かと思うと、第9地区を仕切るナイジェリア人達の元へパワードスーツを持ち込んで何をするかと思えば

宇「これ(パワードスーツ)と猫缶1万個交換してくれない?」

人「……猫缶百個だな」

宇「オッケー(即答)」

これだ。
なんというか猫缶は麻薬レベルの魅力があるようだ。

そしてナイジェリア人のボス、オバサンジョもおかしすぎる。
宇宙人の武器を引き取って何をするかと思えば、部下がいきなり後ろから宇宙人を襲ってバラバラにする。
そして祈祷師に頼んでまじないを掛けた後、

オバサンジョは宇宙人の腕を生でボリボリ喰い始める!

なんか池のコイをそのまま囓ってる虎眼先生みたいだ。
それでも虎眼先生はまだ料理の材料になりうる物を喰っていたが、エビとか言われてるにせよ相手は宇宙人で見るからに不味そう。ぶっちゃけエビというより虫に近い。

『HEROMAN』のスクラッグを細くして緑色っぽく染め上げたような奴なのだ。

スクラッグ

リュウセイグン-スクラッグ


エビ

リュウセイグン-エビ


その腕を何の躊躇いもなく食い始めるオバサンジョ。

どうやら宇宙人を喰うことで呪術的に相手を取り入れ、宇宙人の武器が使えるんじゃないかと思ったらしい。

なんか色々言いたくなるが、ビジュアルやら動機やらがあまりにも凄すぎて逆にツッコめない

こういう奴等がぞろぞろ出てくる……と言うよりも基本的にこんな奴等ばかりなのがこの映画のヤバ過ぎるところ。

そして主人公も否応なしにこの混沌へ巻き込まれていく。そこで自己言及的になったりする部分もあり、それでもヘタレだったりというバランスがまた面白く、最後の方まで基本ダメ人間なのが素晴らしい。

宇宙人の兵器がまた凄くて、人間が原型を止めないほどに吹っ飛ぶのがデフォ
肉片がカメラにぶつかるという演出もしょっちゅう。
プロデューサーを務めるピーター・ジャクソンの出世作である『アレ』 等とは色々異なるものの、その魂は受け継いでいる感じがする。
最終的に主人公がパワードスーツを着てドンパチを始めるが、さっき触れたようにヘタレ部分が残っているのも面白いし「虫製パワードスーツで人間と戦う」なんて捻った展開は『宇宙の戦士たち』に対するオマージュにも思える。あと『アバター』に出てきた大佐っぽいファシストオヤジが敵のボスみたいな感じなんだけど、なんつーかアバターより確実にみんなイカレてるので、戦法とか含めてマトモじゃない。
やられ方もよく分からない、けど笑える。



こんな感じで鬼畜&カオス&血風怒濤な映画だが、ラストはちょっとしんみりしていて哀愁漂う
客観的にはあまり良い状況じゃないけど必ずしもバッドエンドという訳でもなく、様々な感慨をもたらす良い終わり方だった。

題材的にコレでオスカーは明らかに無理だったと思うが、エンターテイメントとしてはムチャクチャ面白い
評価高いのが不思議だったが、観て納得だった。

確かにお話や設定には色々と不自然だったり無理矢理感があるが、

ヨハネスブルギッシュにパワー溢れる面白さを魅せてくれた。



よ~し、こうなったら次は宇宙人と人間が一緒にサッカーW杯を目指す映画だな!