『NARAYA CAFE』と海岸線 | ダンス・ダンス・ダンス

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『音楽の鳴っている間はとにかく踊り続けるんだ』

〜村上春樹〜『ダンス・ダンス・ダンス』より

箱根登山鉄道の宮ノ下駅の近くにある『NARAYA CAFE』で足湯に浸かりながら、コロナ ビールを飲んでます。

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箱根町からバスで箱根湯本駅に行こうと思ってたんですが、渋滞がひどいので途中で宮ノ下で電車に切り替える予定です。ここはちょうど木陰になっていて、道ゆく人に必ずと言っていいほど一瞥されるロケーションですが、避暑地のムードたっぷりでそんな事は気になりません♫
今日は箱根で小さな発見があって、ここでブログを書いてるんですが、そろそろ電車が来そうです。

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プラットホームから『NARAYA CAFE』が見えました。隣に座ってた二人は次の電車に乗るみたいです。。。

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今、東海道線にのって東京に帰ろうとしています。帰りの電車はすごく混んでいて、グリーン車も窓際を確保出来ませんでした。

昨日、今日と小田原周辺をブラブラしていました。昨日は、なんとなく海を見たくなって東海道線に乗ったんですが、特に予定がある訳でもなく、小田原に前から気になってた『月読』という蕎麦屋さんがあったので小田原まで遠出することにしました。僕は、メールアドレスやTwitter等のアカウント名にはmoon-readerという文字を入れています。『月読』は太陽を意味する天照大御神の兄弟とされているそうですが、以前、不思議な夢を見たことがあって、その夢にでてきた『月読』に縁のようなものを感じています。

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ところが昨日、13時過ぎにお店を訪問すると『今日の蕎麦は売り切れてしまいました』と断られてしまいました。わざわざ東京から、ここまで来たのに。。。^^;

さて、ここで昼食を食べて小田原市内をブラブラするつもりが急にあてが外れて、ふと頭によぎったのは、箱根駅伝ミュージアムの事です。父は昔、箱根駅伝を走ったと話していましたが、どこの区間を走ったとか、それは第何回大会だったのか、詳しい話はまるでしませんでした。過去の話をほとんどしないし、それどころか現在や未来についても、あまり話すことがない人でした。亡くなる間際に2区を走ったことは聞きましたが、僕は毎年、駅伝をテレビ観戦する家庭に育った人間です。2区は花形選手が走ることを知っていたし、父は本当に2区を走ったのか、疑念を抱くようになりました。

箱根駅伝ミュージアムに行けば、父の出走記録を見つける事が出来るかもしれない。
急にそんな事を思いつきました。

箱根湯本から登山バスにのって、箱根駅伝ミュージアムへ。箱根駅伝ミュージアムは、まさに往路のゴール地点の横にあります。途中の山路は何度もテレビで見た景色です。

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箱根駅伝ミュージアムには、その歴史や選手たちの記録やユニフォームやシューズや、沢山の記念品で溢れていました。なんと優勝トロフィーまで。

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箱根の寄木細工のトロフィー、これを目指して選手たちが厳しい練習をしてきたんだと思うと、それはとても美しく荘厳ですらあります。

施設内にあるデータベースコーナーを発見して、父が走ったと思われる年代の出走記録を調べました。

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あった!(◎_◎;) 
でも、4区になってる。。。
しかも1時間32分って、ビリじゃん。。。^^;
とりあえず発見したし、母と姉にも報告しなきゃ。。。こっそり写メ撮ろっと

川口さん『お客さん、館内は写真撮影禁止です。撮影するなら一言言ってもらわないと。。。』
『すみません。それは知ってたんですが、これ、父なんです。母や姉にも見せてあげたいんですけど、何とかなりませんか?』
川口さん『えっ?  そーなんだ。困ったな。ちょっと待ってて』

狭い館内だし、そりゃ怒られるよな。。。^^;

川口さん『これもう絶版なんだけど、この本だったらいいよ。ちゃんとした本も売ってるけど、それは6000円もするからね。僕みたいなマニアだったらいいけど』

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川口さん『この前後も走ってるかもしれないね。調べてみようよ。あ、30回大会も走ってるじゃん。この大会は後にオリンピックに出たすごい選手が沢山走ってるよ。早稲田大学が失神ゴールをしたことで有名だね』

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父は30回大会では確かに2区を走ってた。1時間14分、当時としては恥ずかしいタイムでもない。
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『実は父は2区を走ったとは言ってたんですけど、4区の事は何も話してなかったんで、何でだろ? って思ってたんです』
川口さん『4区のタイム見てごらん。いわゆるブレーキってやつだよね。お父さんは、この大会の事をすごく後悔してたんじゃないかなぁ。今頃、天国でバレたか!って思ってるかもしれないね  笑!』
『でも、このコースを練習してた事は話してました。何度も練習で走ったけど湘南が大好きで、将来ここで暮らしたいって言ってましたから』
川口さん『ちょうどお彼岸だから、お父さんが君をここに連れて来たのかもしれないね。そして知って欲しかったんじゃないかな』
『確かにあれよあれよで、ここまで来た感じがします。この本、国会図書館にもありますかね。今度、コピーとってもらおうかな』
川口さん『僕は副館長の川口です。今度はお姉さんと来てください。その時は僕を呼んでください』

人の縁とは時に不思議だ。川口さんに出会わなければ、僕は2区の件を生涯知ることはなかったかもしれない。そして、本音を打ち明ける事が出来たら、助けてくれる人がいることを知った。

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箱根駅伝は10人の選手が襷をつなぐ。テレビを見ていると、ブレーキといって普段の実力を出せない選手もいて、それを全員でカバーするのが面白い。10人は運命共同体であると同時に、どんなに仲間を助けたいと願っても見守ることしか出来ない。父は31回大会に出走しブレーキになった。その後のレースでも父のブレーキは挽回されることなく、父の母校は翌年シード落ちになっていた。

どれほど父は落ち込んだ事だろう。どれほど自分を責め、どれほど後悔しただろう。今の僕には想像も出来ないくらい苦しかったはずだ。息子である僕に父が四区の話をしなかったのもわかるような気がする。息子に自分の失敗を話すのは、父の威厳に関わるかもしれないし、それ以上に傷はそれからずっと癒えなかったのかもしれない。

でも、川口さんが言うように父が僕を箱根の駅伝ミュージアムにいざなったのは何故だろう。僕は昨日の夜、ぼんやりその理由を考えていた。川口さんが言った『お彼岸だから、、、』は僕にはとても説得力があって。。。

ひょっとしたら、父は今の自分を心配しているのかもしれない。自分の挫折を僕に伝える事で何かを気付いて欲しいのかもしれない。その日、僕は明日も小田原に行こうと思った。箱根駅伝の4区は平塚→小田原だ。父の軌跡を感じられるかもしれない。

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海を見たいと思ったのは、上司に言われた言葉もあったからだ。『今日も休ませて欲しい』と言った僕に、『無理するなよ。海でも見て来たら』と言われた。

相模湾の先には伊豆大島があって、その先には青ヶ島がある。今日の空は透き通るほど青くて、緩やかな螺旋階段を登るような風が吹いていた。青ヶ島にいる山田さんは、やはりこの青い空や海が嫌いなんだろうか、ぼんやりそんな事を考えながら海を見ていた。この海岸線から見える海や空を当時の父も見ていたはずだ。苦しさと悔しさの中で小田原中継所に辿りついた父は、この風を感じる余裕はなかったかもしれない。父が挫折やその対処法について、もっと僕に話してくれてたらと思う。それは貴重なアドバイスになったはずだ。

ただ今となっては、それは出来ない。
『結局は自分で考えて自分で生きるしかないだろ。男だろ!!』
父の声が聞こえた気がした。確かにそうだ。何のために、父は自分の失敗を僕に伝えてくれたんだろう。。。

『親父、あなたの母校の後輩たちは、2015年のシード権を守りました。彼らも見守ってあげて下さい』
そう、僕は応えた。

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そうして、僕のお彼岸は終わった。そして僕の空白は、何か表現の難しい感情でいっぱいになった。僕は一人ではない、そう思った。

LET IT BE ☆彡