大事に育ててきた一人息子がいました。
彼は齢16歳でこの世を去ってしまいました。
自ら命を絶ったのです。
彼を死に追いやった人物がいました。
その男は仲間たちと彼を執拗に追い回し辱めこき使いました。
男の年齢も16歳ということもあり、裁かれませんでした。
彼の両親は怒りと悲しみの中で地獄の時を過ごしました。
そして10年の時が経ったある日
目の前にその男が現れたのです。
ここは裁判所。
その男は性懲りもなくまた罪を犯したのです。
次は刑を免れません。
その男を裁くのは、裁判官であった彼の父親でした。
父親はその男を見た瞬間
怒りと憎しみで体中の血が沸騰するかのような
熱が込み上げてきました。
今すぐ彼を極刑にしたい、そんな思いでいっぱいだったのです。
しかし、そんな思いとは裏腹にその男の行いは次のようなものでした。
夜中に1人で歩いていると、大きな音が聞こえてきたので
音の方へ向かうと、数人の男達が1人の少年を執拗に鈍器で殴っていたのです。
男は無我夢中で助けに入り、その数人に重傷を負わせました。
少年は瀕死の重体ですぐさま病院に連れて行き
一命を取り止めました。
その男はあろうことか、虐められていた少年を助けたのです。
被害にあった数人の男達が、暴行罪として起訴していました。
その男は手錠をかけられ大人しく罪を認め、判決を待っています。
彼の父親はやり切れない思いが込み上げてきて、涙が溢れて男に言いました。
「どうして…その優しさを“あの時”向けられなかったんだ…」
急に裁判長が泣き出して、周りはざわめきました。
その男はハッとしてその場で大粒の涙を流し崩れ落ちました。
更に周りはどよめきました。
男はごめんなさい、ごめんなさいとずっと繰り返していました。
彼の父親は血が出るほど歯を食いしばった後
彼の行いを正当防衛とし、無罪を告げました。
後に、その男は彼の両親の元を訪ねて謝罪をしました。
10年前のあの事件があったあと
彼は犯した罪を重く受け止め更生していたのです。
彼の両親はその男の事など一生許せるはずがありません。
ただ、彼の死によって1人の男が道を正しく歩めたことで
彼の生まれた意味を見出しました。


