皆さんもご存知の通り
俺は粋がっている
もう30歳になって
少し勢いも衰えたけど
それでも
肩で風を切って歩くほどではないけれど
今まで粋がって生きていた
アメリカに来て
以前にも増して
自分が日本人であることを誇るようになり
アメリカ人には絶対に負けたくない!
と思いながら
日々アメリカで戦ってきた
一時は
「大和魂」
って刺青を
首に彫ろうとさえしていた
しかし無常にも
そんな男の最後は
とてもダサくて
情けなくて
格好悪いものだった
「強い男になりたい」
そんな思いを胸に
強がって生きてきた男は
実はとても弱虫で
ビビリで
チキンで
怖がりだったんだ
絶対に言いたくなかった言葉
「死ぬのが怖い」
しかし俺は
母親の腕を掴みながら
何度もそう口にしていた
「死ぬのが怖いよ…」
そして俺は無意識に靴を脱いだ
飛び降り自殺をする人は
遺書と一緒に
靴を並べて置いてあるというが
あれと同じようなことなのか?
今考えてみても
何であそこで靴を脱いだのか分からないが
俺は
かぶっていた帽子を取り
靴を脱いで…
そこで息を吸うことを止めたんだ
しかしその時
病院に着いたんだ
母親が車から飛び降り
救急用の扉を必死に叩く
「誰かここを開けてー!!」
その言葉を聞いた俺は
閉じた目を開け
動かないはずの体を起こし
必死で車の扉を開けた
そして必死に扉のほうに歩く…
全身は痙攣している
たった10メートルの距離が
今はひたすら長い
顔も麻痺し
洋服も乱れ
靴も履いていない自分の姿は
日々、オシャレして
自分を着飾ることに必死だった俺には
とても絶えられない姿だった
扉を開けると
一斉に
中にいた人たちが
俺を見る
「こんな姿、見ないでくれ…」
死ぬ間際でさえ
そんなことを思っていた俺は
それでも誰かに必死で助けを求めた
「息ができないんだ、誰か助けて…」
うまく英語で言えたかどうか分からないが
誰かがすぐに車椅子を持ってきてくれた
それに座り
どこかに運ばれる
その間も
俺は必死に叫んでいた
「息ができないんだ…」
そしてどこかの部屋に連れて行かれ
そこにいた
恰幅の良いナースが
俺に名前を聞いてきた
「あなたのラストネームは?ファーストネームは?」
「誰がここに連れてきたの?」
「どこに住んでるの?」
ちょっと待ってよ…
なんでそんなどうでもいいことを
今俺に聞くんだ…?
それより早く
酸素ボンベかなんかを
持ってきてくれよ…
このままじゃ
死んじゃうよ…
そう思いながらも
何度も同じ事を聞いてくるナースに
俺は仕方なく
答えていった
俺が今にも死にそうなのに
平然としているナースに
少し腹が立ったが
さらに質問を繰り返し
それに答えているうちに
さっきまで感覚もなく
動かなかったはずの手足が
不思議と
少しずつ動くようになってきたんだ
ひたすら俺に
意味のない質問を繰り返すナース
それに必死に答える俺
そんな状態が5分も続いた後
気付くと俺の体からはしびれがなくなり
すっかり動くようになっていたんだ
「パニックアタックね」
さっきまで無表情で
俺に質問を繰り返していたナースの顔は
不思議と
笑顔に変わっていた