門前小僧的貨幣論考⑤~貨幣と通貨、現金通貨と預金通貨、そして国債 | 門前小僧、習わぬ今日を読む

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通貨とは

貨幣は、その国や地域で一般的に使用される、つまり貨幣としてメジャーな地位にあり、極めて流通性の高いものになった場合、通貨と呼ばれます。

通貨とは、流通貨幣の略称です。

 

その貨幣がその国や地域で通貨としての流通性を得る具体的な手段として、租税貨幣論という視点から説明がなされます。

 

その国や地域の統治主体が、ある貨幣を通貨として法律で定めたとします。

しかし、これだけでは通貨として流通するかは不明です。

ですので、その通貨による納税を義務付けることによって、その国民や住民にその通貨による納税を強制することで、通貨としての流通性を確保する、というわけです。

納税するのに、毎回毎回両替するのでは面倒くさいですから、みんなその通貨を使うようになる、というわけです。

 

通貨の種類と一生

通貨には、現金通貨と預金通貨があります。

現金通貨は、一万円札や百円玉など、現物としてモノとの交換、あるいはサービスへの決済(支払い)に使われます。

預金通貨は、現物としては存在しませんが、記録、あるいはデータとしてモノ、あるいはサービスへの決済に使われます。

これらの通貨の流通手段を説明する説として、前回記事の信用貨幣論があります。

信用貨幣論では、通貨がどのように流通していくか、つまり既に存在する通貨の移動方法を説明するものですが、では通貨はどのようにして生まれ、どのようにして消えていくのでしょうか。

 

現金通貨の場合

現金通貨は、市中銀行が日本銀行に保有している日銀当座預金を引き出す、という形で発行されます。

日銀当座預金とは、市中銀行が受け入れている預金の一定比率以上の通貨を日本銀行に預けなければならないという準備預金制度に従って、日銀が設けている日銀当座預金口座に市中銀行が預けている預金のことです。

ちなみに、日銀当座預金は、市中銀行が国債を購入する際にも使われます。

日銀当座預金の預金は、直接民間企業や個人に貸し付けられることはありません。

もともと現金通貨は小口決済などのために、預金通貨との交換で預金から引き出されるという形で使われます。

ゆえに、現金通貨は預金通貨との交換券、ということも出来るかもしれません。

 

市中銀行から引き出された現金通貨は、小口の決済、つまり生活用品の買い物や、家庭がさまざまなサービスを利用する際の支払に使われる形で流通し、預金通貨と引き換えに再び市中銀行に戻ってきます。

銀行に戻ってきた現金通貨は、利用者への支払い(借金返済)に当面必要とされなければ、日本銀行の本支店に持ち込まれ、再び日本銀行当座預金に預け入れられます。

 

このことからも、現金通貨はそれ自体に価値があるというワケではなく、借用証書として流通していることが解ります。

 

現金通貨は日銀当座預金を引き出すという形で発行されますが、日銀当座預金自体は通貨として民間の企業や個人に対する決済手段としては利用できないため、市中銀行からすれば、あくまで利用者の預金通貨と引き換え、つまり銀行預金を下ろす(銀行側からすれば借金返済)ために使う以外の使い道はありません。

 

というか、使う必要がない、という方が正しいかもしれません。

なぜなら銀行は“信用創造”という手段で通貨を発行できるからです。

 

預金通貨の場合

①信用創造

銀行は、融資をすることによって通貨を発行できます。これを信用創造といいます。

例えば、A銀行がB社に1000万円融資したとすると、B社がA銀行に持つ口座に1000万円の預金が生まれ、通帳の残高に1000万円が加算されて記載されます。この時点で、世の中の通貨の総量(マネーストック)が増えたことになります。

つまり、預金通貨が生まれたわけです。

信用創造は、民間の市中銀行が企業または個人に融資することによって生まれますが、もちろん制限はあります。

 

市中銀行は取り扱っている預金総額のうち、一定の比率の金額を日銀当座預金に預け入れなければいけないという義務を負います。

 

これは、“金融機関がいつでも預金者の払戻し要求に応じられるように、預金総額の一定割合(支払準備率、または法定準備率)に従って支払準備金(法定準備金)を保有していなければならない”という利用者保護を目的とした制度で、この支払準備金の総額、つまり日銀の当座預金残高を限度として、信用創造による通貨発行(すなわち融資)が可能、というワケです。

 

例えば、A銀行の預金総額が100万円で、支払準備率が1%とすると、1万円を残して残りの99万円を貸し出す(融資する)、つまり通貨を発行することができます。

 

1兆円であれば、100億円を残して、残りの9,900億円を貸し出せるわけで、まぁ銀行の預金総額にもよりますが、結構な額の通貨を市中銀行一行でも発行できることになります。

 

実際の預金総額に応じた支払準備率に関してはコチラをご参照ください。

 

②国債による預金通貨の発行

10)【三橋貴明】国家のお金の発行と国債発行の仕組み 「新」経世済民新聞という記事に、中野剛志氏著『富国と強兵』の引用という形で、以下のようなプロセスが説明されています。

 

(1) 銀行が国債を購入すると、銀行保有の日銀当座預金は、政府の日銀当座預金勘定に振り替えられる
※政府は国債を発行し、現金紙幣ではなく、日銀当座預金残高を「借りる」という話です。

(2) 政府は財政出動の際に、請負企業に政府小切手で代金を支払う
※政府は日銀当座預金を担保に、「政府小切手」を発行するのです。

(3)企業は政府小切手を銀行に持ち込み、(銀行に対して)「政府からの取り立て」を要求する

(4)政府小切手を受け取った銀行は、相当する金額を企業の預金口座に記帳すると同時に、代金の取り立てを日銀に依頼
※この時点で新たな民間預金が増え、マネーストックが拡大します。

(5)日銀は、「政府保有の日銀当座預金」の該当額を、「銀行保有の日銀当座預金」に振り替える

(6)銀行は、戻ってきた日銀当座預金で、再び国債を購入することができる

※部分は三橋氏による註、斜め文字は筆者による補足。

 

要するに、国債発行から、その返済という過程で、民間保有の預金(通貨)が増える、というプロセスを説明しています。

さらに引用を続けると、

『(「富国と強兵」から引用)このように、(1)から(6)までの
過程自体は、少なくとも論理的には無限に続き得る。そして、この過程が示すように、政府の支出は、民間企業の貯蓄になっている。政府の財政赤字は民間貯蓄によってファイナンスされるのではない。その反対に、政府の財政赤字が民間貯蓄を生み出しているのである。したがって、「政府の赤字がそれと同額の民間部門の貯蓄を創造するのであるから、政府が貯蓄の供給不足に直面することなどあり得ない。」』

つまり、通貨を制度として考えると、国の借金問題というものが呆れ返るほどの大嘘であり、そんな大嘘を吹聴する財務省や経済学者、評論家、そしてそれを信じて緊縮財政を是とする政治家の勉強不足加減と職務怠慢加減に対して、日本国民は激怒して叱るべきであろうと思います。

 

<参考リンク>

1)銀行券・貨幣の発行・管理の概要 日本銀行

2)お札はどのようにして日本銀行から世の中に送り出されるのですか? おしえて!にちぎん! 日本銀行

3)準備預金制度とは何ですか? 超過準備とは何ですか? おしえて!にちぎん! 日本銀行

4)準備預金制度における準備率 日本銀行

5)①信用創造とは何か 働く人のためのケインズ革命 零細応援様

6)①信用創造には担保が必要である 働く人のためのケインズ革命 零細応援様

7)信用創造 しんようそうぞうcredit creation コトバンク

8)支払準備率 しはらいじゅんびりつreserve requirement ratio コトバンク

9)通貨 Wikipedia

10)【三橋貴明】国家のお金の発行と国債発行の仕組み 「新」経世済民新聞

11)【三橋貴明】続 国家のお金の発行と国債発行の仕組み 「新」経世済民新聞