monroewalk2ndさんのブログ -14ページ目

12月2日


崩していた身体と店の体調が、週末辺りから少しましになってきました。

そんな月末の土曜日に、ある高額のジャケットを求めて一日に三回来店した人がいました。

一度目は、四時ごろ、そのジャケットを見つけて、ずっと探し求めていたものがまさかこんな冴えない店にあるなんてというような驚きの様子でした。「何時までやってますか?」と聞かれたので、「七時ごろまで」と答えると帰っていかれた。二度目はその一時間後くらい、同伴を伴って入ってこられたが、そのジャケットを見て、すぐに帰られた。その後、六時半ごろに電話が二度鳴りましたが無視して出ませんでした。多分その方からだったのでしょう。三度目のご来店はシャッターを半分閉めて散歩に出る準備をしていた七時過ぎ、表のガラスを叩く音がしました。ドアを開けると「閉店後にすみません、買いに来ました」と家族三人でお越しになった。僕は買う前に最後の試着を勧めました。家族も「そんなに欲しいんなら買えばいいじゃない」とおっしやる。しかし、「これを着て子供と遊んだら最高だろうな」と言いながら試着するご本人に、「そんなのジャージでじゅうぶんでしょう」という冷や水をぶっかけるような接客を僕がやりはじめたものですから、結局買わずに帰られました。掴んだはずの札束が手から滑り落ちた。11月の赤字が確定し、僕は店の家賃の不足分をコンビニのATMでおろして家に帰りました。

 話と月が変わって、写真のシャツは今週店に出す予定だったボタンダウンです。

タグが無くテーラーメイドと思われる正体不明の一枚です。手作り感があって、自分で着たいと思うほどおもしろい作りをしてますが、多分誰にも響かず永遠に売れ残るだろうと思ってました。が、昨夜、長谷川さんが来て、いともあっさり買って行きました。『そういやぁ、居たな、こいつが』と思いました。僕は、長谷川さんと自分の店を少々見くびってました。長谷川さん、ありがとう。

ということで、売上は月末に売り逃したジャケットの数十分の一ですが、12月、長谷川さんのお陰で、良い月のスタートが切れました。





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コットンフランネルのボディ、襟部分がおそらくウールの切替になったプルオーバーシャツです。




タグ




襟の切替部分




ボタンはシェルです。




シンプルなワンポケ仕様です。




袖口




ダブルステッチ




コンディション良好です。

size  M     13800円+tax



余談ですが、試着モデルのりゅうきくんから、「せっかく試着モデルになってやってるのに、毎回却下されて、ブログに全然出てこないじゃないか!」と、面と向かって苦情をいただきました。


それはせっかく楽しみにされていたのに、申し訳ありませんでした。


因みに、こちらは却下した写真の一枚です。

わかってないようなので、こちらも正直に言わせて頂くが、

似合わない上に表情までふざけてます。

こんなんじゃあ、売れる物も売れなくなります。

ひどすぎる。

むしろ、売れない物でも売ってやる、もしくは自分がモデルになって、もし売れなければ責任を取って腹を切るくらいの真剣な姿勢で臨んでいただきたいと思います。

今回は65点、合格でした。





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春日井市柏原町2ー81 第一小林ビル1F
(0568)31-8060


11月28日


嵐山光三郎さんの訃報を聞きました。

昔は唐さんの腰キンチャクにしてサンドバッグ、人をけしかけて自分は安全な場所に居てその様を見てよろこぶ人、さらに、出たがり屋の処世術に長けた人などなど、というイメージでした。悪口に聞こえるかもしれませんが、尊敬してます。何より、おもしろいものを見つけて楽しく生きる天才だった、ということは確かです。無駄に生き長らえることもなく、年齢的にも良い亡くなられ方をされたと思います。

さすがです。

編集長をされた雑誌「太陽」は昔、おもしろく読まさせてもらいました。おもしろいものを見つける天才たる所以です。その才能が欲しいです。

今でも古本屋に行ったら探します。

嵐山さんの本名は貴族みたいで、それを思い出す度、僕は如何してか、鴨長明の「方丈記」を思い出します。

書き出しの冒頭が良いですね。鴨長明は方丈庵と名付けた部屋で執筆したそうで、それがかっこいいという理由だけで、実際はただの隠居部屋みたいなもんなんですけど、自分の店の理想も方丈庵にしてます。話が逸れてるみたいですけど、僕は結構、いろいろと嵐山光三郎さんから影響を受けたんじゃないかと思います。

ありがとうございました。





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冬の普段着として個人的におすすめしたいのはローゲージのボートネックセーターです。

昨シーズンはこのアイテムだけで過ごしましたが、大変暖かかったです。

おすすめしたいと言いましても現在、在庫はこの2着のみですが。



ネックは横に広めでリブが極長のつくりの40年代くらいのものです。

典型的なビンテージボートネックセーターのシルエットです。

腹巻きリブと呼ばれる長過ぎる裾リブのせいで不恰好に見えるかもしれませんが、着てみると意外と違和感無く、締まりが良くて暖かいです。



こちらはネック部分が狭く、リブも上のものに比べると少し短め、50〜60年代のものと思われます。

フエルトのレターも良く、大変着やすいと思います。


どちらもサイズはM程度、価格は16800円+taxです。





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11月26日


今回の京都、人は多いかもしれないけども、清水寺から南禅寺、永観堂まで、たまには有名な観光地で紅葉を楽しむのも良いかなと思いました。

しかし、普段から人のいないところでひっそりと生きているせいか、この状況を観光の醍醐味とは思えませんでした。



清水坂から産寧坂に外れてみたものの、こちらも高台寺まで身動きがとれないほど人で溢れかえってました。

凄まじ過ぎました。よって南禅寺と永観堂は断念することにしました。



ところ変わって、こちらは清水坂から東大路通を跨いだ松原通りの六道珍皇寺。

以前ご紹介したことがあるあの世とこの世の境界、六道の辻にある三大スポットのひとつ、清水さんから程近いのに不思議、人が少なくて、僕としては、ほっとします。

このくらいがのんびり出来てちょうど良いです。


ふらりと寄れば、運良く特別公開中で、中に入れてもらえました。貴重な六道めぐりの絵や、小野篁があの世とこの世を行き来した黄泉がえりの井戸も覗くことが出来ましたし、御本尊と静かに対峙しますと、その表情に引き込まれます。



松原通を六道珍皇寺から西へ少し行くと、みなとや幽霊子育飴本舗、



そして、檀林皇后ゆかりの西福寺と、まさに異界通信。

単に知られてないだけなのか、はたまたマニアック過ぎるのか、不気味なのか、人が少ない。

清水寺を見たせいか、この三箇所がいつも以上につましく写りました。

この松原通は京都五花街のひとつ祇園宮川町にも接しているんですよね。

喧騒と静寂を見て、『人知れず、つましく生きるって良いなぁ』と改めて思った次第です。




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60sレザージャケット


柔らかいディアスキン製で色はクリームに近くソフトなイメージのレザージャケットです。




鹿皮、裏地はサテンです。




メインジッパーは真鍮のタロンです。




左胸にポケット




裾側にフラップ付きのポケットとハンドウォーマーが付きます。






着丈も羽織りやすいハーフ丈で、使い勝手の良いジャケットです。

size  40      19800円+tax





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11月23日



道場は三十畳敷きの広間で、十人程度の男女が下向きで正座しているのに対して、同数の男女が向かい合いながら、その頭に片手を差し出していた。その黄金の手になびきようもなく、顔をハンカチで覆っているのが、元女便利屋のさちこだった。部屋の隅にある神棚には、金屏風が立てかけられ、フットライトの反射で、元女便利屋の握る白いハンカチは、黄色く震えている。仁王立つ僕は、彼女に駆け寄ることも出来ない雰囲気で、彼女も僕に気付かない。元女便利屋の前で片手を出しているのが、土井まさみかと覗き込むが、二十歳を過ぎた小肥りの女だ。別室から僕を迎えた、神経質そうな細身の女が、土井まさみかとも構えるが、短髪の中年女は、副部長の松下きなこと名乗る。入信の旨を告げると、別室に通され、そこに座る男の事務員から手続きの書類を出された。その部屋のドアは開けっ放しにしておいて、さちこの動きをちらちら見ながら、僕は書類に名と昔住んでいた住所を書き込んだ。

その短い時間のさなか、「いやよっ」と発する彼女の声が聞こえた。振り返ると、向かい合っていた信徒は、それぞれに立ち上がって、柔軟体操をし始めている。その真ん中に座ったままの彼女に、小肥りの女と、黒いスラックスをはいた中年女が、何か話しかけているが、時々、小肥りの若い女が、さちこの顔にかざされたハンカチを取ろうとすると、さちこはがんとして譲らず、首を振っている。

「男子部の部長には後で紹介しますから、ともかく馴れてください」という声を聞き流し、僕はそろりとさちこの方に歩みよった。

「ジンマシンでしょう」

としゃがみ込んだ女に、屈託なく話しかける。その声にも、さちこはまだ僕だと分からないようなので、「鯖か海老ですね」とまた言った。頭を下げて、ハンカチの端からちらっと覗くさちこの目は感じたが、腫れた瞼は見えない。立てたシャツ衿が折れると、耳の裏から首にかけて、赤いまだらのふくらみが繋がっている。その視線を感じて、さちこは、畳にうっ伏し、耳の横を両手で押さえた。

「きゅうりはありませんか」

と思いつきのまま、柔軟体操の手を止めた周囲に尋ねる。「きゅうり?」といぶかしげに見る黒スラックスの女性に、きゅうりの汁が腫れものに効くと告げ、うっ伏したさちこの腕を掴む。しゃにむにきゅうりのある方に連れ出すつもりだ。

「あ、丁度いい。ここに来る途中に、ヘチマが垣根から垂れていた」

と、嘘で笑い、さちこの体を起こして入口の方に向かう。が、何かがやはりうさん臭いのだろう。二十人の信徒が二人を囲むようにしてついてきた。そんなものは無用だと強制的に押し止めない、ぞろりとした張りつき方は、柔らかい力があった。季節は十一月、へちまなど実っていない。しかし、外へ出てしまえば、道に咲いているどくだみでも何でもいいから、それをこすりつけて、追ってくる目をごまかそうと僕は歩む。

入口の前に立った黒スラックスの女性が、観音額に降りかかる長い髪を払って、「介在させるものはいりません」とおだやかに諭す。笑ってごまかす余裕なく、黄金の手もまた介在物だと、僕はつい言ってしまった。

「闘っているんですよ、この人は」

と道を開けないその立ち姿に、一瞬ボウとすると、ハンカチをかざしたさちこは、あれが土井まさみさんと耳打ちした。

「闘っているのは分かっています」

「じゃ、闘わせなさい」

「でも、ヘチマも応援させてはまずいでしょうか」

辛うじておだやかな反論だ。

「ヘチマも植物も無用です」

「じゃ、ひとりで闘わせるわけですか?」

「わたしたちがついていますもの。あなたもまた、何を恐がることがありますか」

それがクリーニング現象だと、土井まさみは、笑みを絶やさず、体毒と闘う自然の歴史を語る。本来、人間の体にはなじまないよそものを体内に入れることはないと結ぶのに、入れるのではない、こすりつけるだけと喰らいついても、にべもなく突っ返される。

「でも、やらしてみちゃくれませんか」と百姓の気分で卑屈に言う。

「闘っているんです」の決まり文句が返ってくる。それに苛立って、闘いたくないと僕はさちこの気持ちを代弁した。

「闘いたくない?」

「ええ、ジンマシンなんかと闘いたくないのです」

「どういうことです」

「もっと別のものなら闘いたいですが、ジンマシンなんかと取っ組み合いたくないんです」

「分かりません」

「逃げたいんです。ヘチマに任して」

「すると体毒をヘチマに任せてしまうんですか」

「駄目でしょうか」

「本人は、そんなことで、これからも生きてゆけると思いますか。この世にあまたある不幸現象と。そんなこっちゃ、人間として生きてゆけませんよ」

「この人は、人間じゃないかもしれないんです」

と、つい、思いつきで言ってしまった。この発言に、周りがムムムと寄ってくる。もっとまずいことに、あの学生が入ってきた。なんの騒ぎだと聞く学生に、信徒は部長と口々に打ち明けた。七人の話を同時に聞く仏よろしく、学生部長は、まあまあと手を広げて静め、おもむろに、「友よ、やっと来られましたね」と僕を見た。が、唇の笑みは誘いでなく、皮肉っぽかった。それから、信徒を振り返り、先ほどのとんちき問答を確認すると、「冷やかしですか」と僕を見詰めた。

「僕は、ただジンマシンで困っているこの方に、ヘチマのエキスをかけようと…」

「ヘチマなんか、なってない!」

その一喝は、黄金の手よりも迫力あった。学生部長は、扉の前に立ち、僕らを冷やかすのは良いが、初代聖凰を冷やかすことは許さんと、立派な額に入った神の使者を指さした。

万事休すという言葉が、その使者の周りで回っていた。

僕とさちこは、帰れと道開けた学生部長の横をすり抜けかけた。そして、依頼主の土井さんの顔を思い出し、二、三日で中座したこの仕事を何と報告すべきか考えた。

ドアのノブを掴んで、僕はもう一度振り返り、『闘わせるのです』と何度も言った土井まさみの唇をぼんやりと見て、「まだ闘い続けるのですか」と言ってみた。

「勿論です」

「でも、たまには休んで下さい」

「え?」

「闘わずに遊んで下さい」

なんのことか分からず、土井まさみは小首を傾ける。その下っ腹が出たセーターが、沈黙の中で息づいている。その瞬間、僕は、土井の腰を抱き抱え、片手で、セーターの上から乳房を掴んだ。

救出を頭に置かない発作のアプローチだった。

学生部長の黄金の拳が、僕の眉間を突き、開いたドアから階段の方へ僕はもんどり打った。

結局、救出どころか研修にすら馴染めなかった我ら二人は、ちょこちょこ走りで、夕方の道を病院に向かったのであります。





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60s スウェット


オール四本針、ラグランスリーブ、カレッジプリントの60年代のスウェットです。




オハイオステイトユニバーシティのプリント、




脇マチ付きのラグランスリーブ、





リブ


たま数は少なくなりましたが、定番のビンテージスウェットといった感じです。

size  M程度  24800円+tax





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11月20日



翌日の午後、商店街のベンチに、サンダル履いて座っている元女便利屋のさちこに「最近何してんだ?」と声をかけた。

「ずっと寝てた。映画でも見にゆこうか」と元女便利屋は言ったが、「馬鹿言え、入信するんだ!」と僕はおどした。僕が入信するのかと、彼女は情けないものを見るように、目尻が下がる。どうしてそんな気になったのかという問いに、仕事上と短く答えたが、まだ自分が〈タマビカリ〉に差し出されるとは気付かない。土井さんから頼まれた一件を述べ、自分の不甲斐なさを白状して、故にこそ君に探索して欲しいのだと、僕はパンフレットを手渡した。

「こういうもんに、あたし興味ないのよ」

と、ペラリとめくっただけでベンチに放り出す。

「そりゃ、僕だって興にのらないよ」

「あたしの場合、こんな説教聞いたって、馬の耳に念仏よ。だから、一発で偽の信心て見破られるわ」

「僕だって、蛙の顔に小便さ」

「嘘」

嘘と言われれば、巻き込まれてしまう要素は確かに自分の方にあるかもしれないと思い、「自分の弱点は知ってるつもりだ。だから頼む」

と拝むように元女便利屋の手を掴む。

「参ったなあ」

「馬の耳に念仏なら参ることはないよ」

相手に背負い込ませるために、うまく行ったら、いっぱい報酬を貰えるように土井さんにかけ合ってやるとも付け足した。

「三日間よ。その間、不真面目な研修生だって追い返されても責任持てないわよ」

「でも、せめてノートを取れよ」

「やれるかなあ」

「やれるよっ」

と僕は立ち上がり、元女便利屋の肩をしっかりと掴んだ。〈タマビカリ〉の黄金の手が、三日の研修の中で、この元女便利屋の肩を掴むことがあるだろうが、きっと僕のところに帰ってくるんだぞと、その手は言っているようだった。なにが「やれる」のかについては、あまり頭をひねらなかった。女子部長土井まさみをあまくみて、作戦はたかをくくり、無手勝流で説得できると思うこそが、もろい。

「じゃ、ちょっと靴に履き替えてくるね」

「いや、そのサンダルこそ、路頭に迷っている姿に似つかわしい」

と言った問答に、お遊びの気分が見てとれる。

二人は電車で研修道場に向かう。

車中で、「現代人は『病気というものがある』と頑固に思い込んで、それを常識にしています。しかし、それはほんとうは錯覚なのです。あるのは、病気ではなく、クリーニング現象なのです」というパンフレットの中の一文が思い出し、これから向かう前方にどんなクリーニング現象があるのかと思った。

目的の駅を降り、潜り込むべき目の前の本殿を見上げる。二階は蛍光灯で明るく、合唱の声も、ホームまで響いてくる。何の歌かと聞き耳立てると、昔キャバレーで聞いた津軽海峡冬景色の歌に似ていた。が、歌詞はすぐに中断されて「ハッ」の気合いがとぶ。ずいぶんと気楽な道場だなと、少し気が楽にもなり、スパスパと音をたてる元女便利屋のサンダルの後を僕は追いかける。追いきれるのは、道場の前までで、門を叩いたその日から泊まり込みの研修が続くと、パンフレットに書いてあるところをみると、功を奏するのを願って、僕は引き上げなければならない。

「じゃあね、電話はこっちからするから、明日」

「土井まさみに目をつけても、目はつけられるな」

「あい、あい」

と軽く背を向け、元女便利屋は〈タマビカリ〉の門にすべり込む。すると、入れ代わって出てきた一人の男が、「友よ、来られましたか」と、僕に向かって両手を広げる。それがホームで会った学生であることに気付くと、逃げるように背を向ける。駅に入って、ホームから、元女便利屋が潜入した〈タマビカリ〉の二階を見上げたが、門の前に立つ学生は小首を傾けて、そんな僕を見守っていた。

 すべり込んだ電車に、僕が乗ると、車内を覗く学生は何か叫びながら片手を突き出す。その手が、よからぬ仕掛けをする僕を追い払おうとするのか、電車はホームから遠ざかった。


翌日の昼過ぎ、元女便利屋からの一報が入った。

「あたし。タマビカリのさちこ」

「ああ、タマビカリのさちこだね」

「どうしちゃったの、昨日。サイン送ろうと窓に出たら、もう居ないんじゃないの」

「ちょっと、バレかけたんで」

「それにしても、自分ばっかり安全地帯に居やがんだから」

「そっちは安全じゃないのかい?」

「ううん、為になることばかり」

「為になる?」

「ねえ、自殺する人は、どうして高い所から身投げしようとするのか知ってる?」

「急になんだ、自殺者の話なんかして」

「高い所から自殺しようとするのは、体の辛い部分から上に這い上がろうとするからよ」

このぐらいなら、洗礼を受けたことにはならない、ただの言葉遊びだと思ったが、電話の奥で、クリーニング現象とミソジハラハラなどと暗号に近い言葉がとび出る。

「確かに話を聞いていると、世の中はやはりおかしいよ」

「それほどおかしくないと思うよ」

「おかしいって。たとえば、病院がいっぱいあるのはなぜ?」

「病院があっちゃ、よくないのか?」

「年々、病院が増え続け、しかも、どの病院も満員で、待ち時間三時間、検診三分なんて狂ってるわ!」

「この都市が病院だらけの都になっても、そんなことには馴れろ。その程度の御託宣でコロッと参るな」

と僕は言った。

「それより、土井の奥さんには会ったのかい?」

「本部から明日帰るって」

「そうか」

「あたし昨夜、誰と寝たと思う?」

「誰かと寝るしきたりか?」

「副部長のきなこさんと寝たの」

「枕を並べて?」

「一つの布団に二人で寝るの」

「男と寝かされたりはしないんだろうな」

「女子部だもん」

「男子部は、男同士で?」

「なに心配してんの?それでね、土井部長が帰ってきたら、土井部長と寝るんだって」

「それは都合いいけど、どうして寝るんだ?」

「初心者には、いつもそうして親身になって添い寝するんだって」

「初心者がいっぱいいたらば」

「寝床から寝床へとび歩いて夜が終わるの」

「楽しそうだな」

などと僕は言ってしまった。初日のを通信は、こんなざっくばらんなもので、土井まさみが帰る二日目に照準を合わせて「じゃ、明日のこの時間に」と電話は切れた。

起動は、すべて元女便利屋からの電話からと、その日もベルを待ったが、昼を過ぎ、三時を回っても、電話は鳴らず、四時になりかけ、やっとかかってきたが、その声はなんだか辛そうである。

「どうしたんだ、土井まさみには会ったのか」

のせっつく声に、土井まさみは今日でなく、昨夜、戻ってきたと答えた。添い寝するきなこが布団を抜け出た後、見知らぬ女性が潜り込んできて土井と言ったそうな。目がパッチリ開いてしまうと、眠れないのでしょうと後頭部に片手を広げ、妙に体が温かくなってくると、朝まで目が覚めなかったようだ。

「それで、今日のお昼は、食事も一緒にね。中華丼を一緒に。そうしたら」

「なに」

「海老が入ってたの」

「中華丼には入ってるよ」

「うん」

と言葉が切れる。

「どうした?」

「参ったよ。ここ三年無かったんだけど」

と、顔が熱い、早鐘のように打っていると彼女は言った。そのジンマシンは、髪の奥から現れ、ゆっくりと目尻が腫れてきたと言う。耳の裏にもチリチリとした感じがあって、搔くと、首筋に移った。まさかとトイレに駆け込み、冷水で顔を洗うと、額のあちこちからみみずのような腫れが浮かんで、鼻の横から唇にも、玉を繋げたようなのが出てきた。わあと鳴き声になると、トイレのドアから顔出して、土井まさみが大丈夫かと問いかけ、彼女は顔を見せられずにしゃがみ込んだと言う。

「どうしよう」

「どうしようってお前。今もそのままなのか?」

「倒れたい」

「昼間から四時間、ずっとそのまま退かんのか?」

「どんどん、あたしじゃなくなる。内臓にまで出てるみたい」

その後の言葉で、彼女の声は止まってしまった。あるタブーの単語で、息遣いだけが、ハーハー迷った。

それは「病院」という言葉であった。病院に行けと僕は言ったのだ。横で誰かが聞いているのか、病院へ行く行かないの問答は、彼女の唇の奥へ押し込まれた。少し魔があって、これも「クリーニング現象だから」と彼女はつぶやいた。

「前はどうした。三年前は?」

「注射うった」

「その注射をうってもらえ」

「でも、そんなことしたらバレちゃうよ」

三日間の研修も意味なく、道場から追われるだけだと彼女は言うが、隠れて病院へ走ることは出来ないのかと、僕はまくしたてる。横に誰かが近寄ってきたのか、もう少し退くのを待つと電話は切れた。不幸現象と戦う彼女を指をくわえて待つことはない。

僕は外に飛び出し、道場に向かった。


とりあえず彼女を抱えて病院に駆けつける勢いだったが、電車の中で、この偶然の処理と仕事の進行の両立を算盤はじいた。僕は男子部に入って、こういうことに手馴れた者のように彼女に近付き、任せてくれと外に連れ出そうと考えた。が、この両立の着想が、やはり、まぎらわしいものになった。




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〜60sスタジアムジャンパー


ホワイティングのロング丈のスタジャンです。

ボディーはメルトン、袖はレザーです。




ショールカラー

裏地は中綿なしのサテン貼りです。






胸にチェーンステッチ




size  L

17800円+tax




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