人は一人で生きのさばれるか6 | 注文の多い蕎麦店

注文の多い蕎麦店

人間は何を食べて命を繋いできたのか?
純粋に生きるための料理を実践し
自然に回帰することで
人間本来の生活を取り戻します。

虎跳峡。なんとも勇ましい地名です。
剣仙からはもちろん小さなバスしかありません。
怖いもので、この定員という言語を無くした世界にも
いつのまにか慣れてしまいました。


順調に行けば虎跳峡まで約5時間。
順調に行けばの話しです。
順調という言葉もここには存在しないのですが。


走り始めて1時間。
バスは急峻な山道へ。
ガードレール。
そんな気の利いた代物があるわけもなく。
窓から見下ろせばそこは奈落の底。
路肩と崖の境さえ分からぬ道路際。
ぞんざいな手つきでハンドルを操る運転手。


これはやばい。もしかしたら死ぬ。

そう思った矢先。バスは急ブレーキ。

前方で立ち往生する2台のバス。
崖崩れ。があああああん。
どうするのだ。救援を待つのか?引き返すのか?


慣れた顔つきで席を立つ乗客達。
もしかしてここから歩き?
にしては荷物置きっぱなしだしなあ。


目の前に繰り広げられる光景。


人海戦術。


ああここは中国だった。
崩れた石を手に取り谷に放り込む乗客達。
ああ逞しい。ああ潔い。


3台合わせて50人くらい。
このペースで崩していけば1時間くらいで何とかなりそうか。


4時間かかりました。

彼らの勤労スピードをなめてはいけません。
何せ急ごうが急ぐまいが報酬は同じ。
そらスローなブギにしてくれとなるのは必然。


結局虎跳峡に到着した頃はもう真っ暗。
開いてる食べもん屋さえ見当たらず。
さあ今日の飯はどうしよう。


すると見かねたゲストハウスのおばちゃん。
差し出されたその手にはスニッカーズとウエハース。
おお有難い。この街はなんかいいことありそうだ。

しかも隣の部屋は白人カップル。
やはり何かいいことありそうだ(笑)


隣室で繰り広げられる英会話。
ウエハースをむさぼりながらガイドブックを広げ。
いつの間にか深い眠りの中へ。


何か痛い。
微かな痛みで目を覚ますと口腔内に広がる違和感。
何となく鏡を見てびっくり。


歯茎がぱんぱんじゃないか。


そういえばこの旅行前。
歯周病の治療途中だったっけ。
歯茎に挟まったウエハースとの一夜の末。
見事に再発した歯周病。


とにかく痛い。
虎跳峡は50kmに及ぶ山岳トレッキングコース。
しかも海抜3000m弱の高気圧が体を締め付ける。
この痛みを伴って果たして虎跳峡を越えられるのか。


のるかそるか。
じっとしてても痛いだけ。とにかく行ってみよう。
何とかなるさ。死にやしない。
入念な歯茎マッサージの後、いざ虎跳峡へ。

結局この強行が文字通り今旅行最大の山場となるわけですが。
この時点では知る由もなく。


僕の先を歩く二つの人影。
ああ昨夜の白人カップルだ。


続く。