富士山 | 東四ヶ一の庄

東四ヶ一の庄

実家を離れて40数年。もう帰ることはないだろうと
思っていたこのまちに戻ってきました。
「東四ヶ一の庄」とは、私の愛読書『ホビットの冒険』
『指輪物語』の主人公の家があるところです。

駅前で買い物をしようと出かけたら、よく晴れて富士山がきれいだったので、つい川の堤防沿いに駅とは正反対の方向に歩き出してしまった。1キロほど川下にある橋からは、遮るものなく富士山が見えるのだ。

 

子どものころ、富士山を特別な山だとは思っていなかった。(だって、たいていそこにあるし)

 

関西に住んでいたころ。実家に帰省する列車の中に7歳くらいの男の子を連れた父親がいた。進行方向に向かって左側の窓に富士山が現れると、その父親が息子に言った。

「ほら、日本一の富士山だぞ」

男の子と父親は、しばらく並んで「日本一の富士山」を見ていた。

 

「日本一の富士山」なのか。

 

その後、茨城県北部に移り住んだ。周囲にはおだやかな低い山があった。ある年の正月明け、山登りが趣味の職場の人が「元旦に近くの山(標高約600m)に登って望遠レンズで写真を撮ろうとしたら、富士山が見えたんですよ」と、撮った写真を見せてくれた。

富士山は、見えると嬉しい山なのだった。

 

退職して実家のまちに引っ越すことが決まり、その準備で茨城と静岡を何度も往復するとき、道の途中で富士山が見えると私は「あ、富士山」と思わず言ってしまうのだった。

富士山は、見えると嬉しい山なのだ。

 

日本一高い富士山と、日本一深い駿河湾との間で、私はこれから暮らしていく。