「んじゃぁ… 行きますか?」
俺は星野加奈のマネージャーらしく、敬語を使うことにした。
「別に敬語じゃなくていいですよ。 たぶん私の方が年下ですし」
残念! 俺の方が年下です!
まぁ、8ヶ月差だから無視しようとしたら出来るけどね;
「自分16ですよ?」
「そうなの!? なら私がお姉さんだね」
星野加奈が誇らしく笑った。
そんなにうれしいのか?
「なら行こう"弟くん"」
あぁ、ファンが言われたらどんな気分なんだろうな……
俺はちっとも嬉しくない。
「名前でいいですよ」
俺たちは歩きながら話し始めた。

「だって、貴方の名前を知らないんだもん」
そう言えば…… いや、名乗ってる。
警察署前でしっかり名乗った。
「爛崎ですよ… 一度名乗りましたよ?」
俺の口からため息がこぼれた。
誰かため息を出すと不幸になるといったが、俺はため込むのは苦手らしい。
「そうだっけ? 下の方は?」
「錬哉です」
「ん~…… ならレンくんね」
どっかで聞いたことがある名前だったが、断ると変な名前を付けられそうだ。
「いいですよ。 なら俺もあだ名を考えますね」
…… やばい思いつかない…

…………

「思いつかない… もう普通に加奈でいいですか?」
このときは瞬時だったが、後で考えると俺はファンに殺されてもおかしくないかもしれない。
「いいよ。 ……なんか本当に姉弟みたいだね」
加奈は微笑みながら俺を見た。
なんだか何処かであったことのある人に思える……
「そうですね あっ、着きましたよ」
俺たちは話しているうちにボイストレーニング教室に来ていた。
意外に近いんだな……

「こんばんわ~」
時刻はもう7時を回った。
親に言わなきゃ……
「あら、加奈ちゃん。 今日は早かったのね」
加奈の先生は男なのだが、オネエなのか?
「今日は弟がいるからね♪ ねっ、レンくん」
俺はメールを打っていたのにいきなり呼ばれた。
「はっはい!!」
情けない返事だなと自分で思う。
タイミングが悪かった……

「……ちょっと貴方も練習してみない?」
加奈の先生がしばらく考えて言ってきた。
「俺、今日はマネージャーなんで……」
「やろうよレンくん。 歌も上手そうだし」
たぶん本人の勘だと思うが、歌は……
「あぁ……」
これ以上断るのも良くないと思って、やることにした。
「いいでしょう… でも、貴方を人として扱ってくれるか分かりませんよ?」
「構わないですよ ただ、芸能界を見せてくれれば」
「糸川さん…… どうするの?」
星野加奈がマネージャーに聞いた。
この子はどんな気持ちなんだろう……
「うーん…… 今日一日彼女のマネージャーが務められたらいいよ」
「いいんですか? そんな事で……」
「マネージャーを甘く見ちゃいけないよ。 意外にハードだし、芸能界はこの10倍大変だよ」
その話を聞くと心配になる。
俺は星野加奈と視線を合わせた。
「だ、大丈夫だよ!! 今日は特にどこかに行く予定もないし……」
「あるでしょ? ボイストレーニングが」
「そうだった!! 何時からでしたっけ?」
こういう子なのか…… 確かにあてにできない分、大変そうだ。
「それでもやる?」
「いいでしょう!! やってみせますよ!!」
俺は対して意味のない意地を張ってしまった。
できなければ、星野加奈の収入が減る可能性、場合によってはスキャンダルになるかもしれない。
俺はつくづく馬鹿らしい……

「なら…… やってみなさい。 貴方ならできる気がします」
そこから細かな説明を受けた。
その間、星野加奈は別室で着替えをしていた。
「んじゃぁ、なんかあったら連絡するんだよ」
「了解です。 では、行って参ります」
星野加奈の準備もちょうど出来た。
これからテストが始まるのだった……
朝になり、登校する…
いったい何のためにやるんだ? と俺も考えたことがあるが、結局馬鹿にならないためになった。
俺はまだまだ馬鹿らしい……
 
「グフッ!!」
横の曲がり角で何かが腹に直撃した。
俺は後ろへ盛大に飛んだ。
「痛たぁ……  すいません」
角からぶつかってきた人物が出てきた。
あれ? どこかで見たことあるような気が……
「私急いでいるので!!」
そういって走っていった……
「何だったんだ?」
俺は事の有様が理解できないまま、立ち上がった。
 
「あ…」
そこにはヘッドホンが落ちていた。
色は…淡いピンクに星のマーク……
俺はカービィしか思いつかなかった。
「仕方ない…」
警察に届けるのも、放課後に回そう。
今日は雨が降りそうだ。
 
……
 
放課後になり、いきなり雨が降ってきた。
クラスでは天の神に向かって大ブーイングが起きた。
そんなことをしても意味のないことを知っているはずなのに……
「爛崎ー 傘を貸してくれー」
「一ノ瀬…… お前は俺が濡れてでも濡れたくないのか…」
「俺が濡れなければそれでいい(笑)」
(笑)は一ノ瀬がふざけていっていたからつけた。
「絶対貸さねぇ(笑)」
「なら相合い傘でいいや(笑)」
「俺今日は警察署に行くから」
そう言って俺は一ノ瀬と別れた。
 
今考えれば、何でこんな頻繁に警察署に行くんだろう
落とし物くらいなら交番でいいはずなのに……
学校の近くに警察署があるからか?
 
そんなことを考えてたら警察署に着いた。
そこでポスターを見た……
「!?……これ…」
俺は知っていた。 このヘッドホンの持ち主は…
「あ!! 居た!!」
後ろから甲高い声が聞こえたと思ったら、女がすぐ近くにいた。
やはりあいつだった……
「加奈ちゃん待ってよー」
後ろからその子のマネージャーが来た。
この一見じゃじゃ馬が時のアイドル、星野 加奈(だった気がする)らしい……
「あなたのせいで調子狂っちゃったじゃない! どうしてくれるのよ!!」
出会い頭で逆ギレとは、じゃじゃ馬じゃなくて暴れ馬かもしれない。
しかし… 俺はなんて言おう……
「あぁ、ごめん……」
「ごめんじゃすまないよ! まだスペアがあったから良かったものの…… 無かったらどうする気だったのよ」
逆ギレもここまで来ると呆れて物も言えないな。
「はぁ… お前はまず、ぶつかったことについて謝んないんだな」
「あれは急いでいたからいいの!!」
あぁ…自己中も混じってるんじゃ重傷だな……
「あのぅ…… 加奈ちゃん。今日はもうオフなんだから、じっくり何処かで話したら?」
「何でこいつとじっくり話すのよ!!」
「加奈ちゃん… あれを見て……」
「あ… 分かったわ…」
なんか分からないやりとりで、俺たちは何処かに移動した。
 
たぶん着いたのは隠れ家レストランだろう……
「さっきは失礼いたしました。  私はマネージャーの糸川です」
席に着くと、いきなり挨拶をされて戸惑った。
「いえ、別に急ぎとかないんで…  何があったんですか?」
「あれはパパラッチ  目障りな連中よ」
パパラッチがいたのか……  分かんなかった。
「所で? あんたヘッドホンは持っているんでしょうね?」
「あぁ、これだろ?」
俺はバックからヘッドホンを出す。
「持っていなかったらぶん殴ろうとしたのに… 残念ね」
そう言いながらも、ヘッドホンを取って耳に付けた。
「さっきは怖いこといってごめんね?  私、ヘッドホンがないと人格変わっちゃうんだ……
気にしないでね。 あと、ヘッドホンありがと」
……
一瞬心を奪われそうになったが、やはりあのじゃじゃ馬が思い出される。
「はぁ… どっちが本性なんだか…」
「こんな性格なんで、大変なんですよ…… 今回はありがとうございました」
そう言ってマネージャーが席を立とうとしたとき
 
「ちょっと待ってください……  お礼ぐらいしてくれてもいいんじゃないんですか?」
俺はヘッドホンをつけて会話をし始めた。
俺もヘッドホンをつけると性格が変わる。
というより、基本チャットやるときいつもヘッドホンをしているから勝手に変わる。
「君もなのか……」
「えぇ、腹違いの弟として芸能界を見せてもらえますか?  もちろん、邪魔はしません。 手伝いもします」
「どうしていきなり…」
「見てみたいんですよ。 芸能界を……」
本当は違う。  ただ逃げたかった。
現実から、そしてチャットから……