『天国大魔境 1 』 『天国大魔境 2 』

 

マルが男で、キルコは女(ただし、脳は男)である。しかし、普通は当たり前の事実、男と女、が、マルとキルコの関係では、非常に不安定である。

熊に狙われたキルコとマルは、壊れた自動車専用道のむき出しの橋脚の上まで何とか逃げた。だが、ドジなことに、キルコは光線銃の電池を下に落とし、苦し紛れにマルに言う。「取ってきたらオッパイ触らせてやる」と。一見コミカルなセリフを真に受けたマルは、神速で実行した。この事実が後々大騒動を引き起こすことになる。

橋脚は高さが並ではなく、キルコには普通に飛び降りることができない。そこで、次のような作戦を立てた。
熊が橋脚から離れるのを待ち、マル、キルコの順に飛び降りる。キルコは、柱に足をつけて少しでも勢いを殺す。マルはキルコを下で受け止めたら、全力で逃げる。キルコは、最後の4発目で熊を射殺する。
そして計画通りに戦いが始まる。
<マル (お姉ちゃんは?  4発目がでなかったら? )
 キルコ(そん時は君が逃げ切るくらいには抵抗してやるさ)と思う
  [ ボブッ ] 熊を射殺
 キルコ(ふ――っ)
    (あ⁉ なんできみ逃げてないんだ)
 マル (本当に俺がひとりで逃げると思ってたのなら心外だし  作戦ミスだな)>(90-92頁)
最後はなかなかいい雰囲気なのだ。

宿に戻ったマルは、キルコに言う。
<(何か約束を  忘れてないか おねえちゃん)
 (俺は  命がけだったんだぞ)
 (オッパイ触らせろよ)      >(98頁)
ということでドタバタが始まる。そこにホテルの女主人トトリが加わる。そして、ドタバタが進んでいくと思っていると、人間と”人食い”が何らかの形で関係があるのではないか、という重い問題が浮かび上がってくる。

作者は、コミカルな場面とシリアスな場面を、絶妙な形で結びつける。お話を楽しんでいたはずなのに、いつしか一筋縄ではいかない問題を考えている自分に気づくことになる。

キルコとマルが活躍する部分には、要所要所に、クスリとする場面、コミカルな部分がある。要は人間の多面性が描かれている。だが、コロニーあるいは施設の子どもたちの場面には、そのような場面はほとんどない。

そのような施設内で、タラオの火葬等、多くの事件が起こり、事態は進展していく。
園長が言うのだ。
 <何です これは……⁉>(66頁)
施設の中のことは知り尽くしているのではないかと思われる人の言葉である。施設の秩序を越えた事態が起こっていることを、施設の職員たちも明白に知ることになったのだ。

この作品の完結を切に願う。

*石黒 正数 著 『天国大魔境 3 』 アフタヌーンKC 2019/10/23