キルコとマルは、出発点に戻るべく船に乗った。
マルがキルコに告白したことがきっかけだった。キルコは、これまでの経緯を語り始めた。
竹早桐子、春希の孤児の姉弟は、浅草にいた。春希が”人食い” に食われたところを桐子に助けられたらしい。なぜか「医者」が、春希の脳を桐子の体に移植した、と春希の脳を持ったキルコは信じている。
「医者」も、親しかったロビンこと稲崎露敏も消えていた。キルコは、「医者」やロビンを探すために、「旅のガードします」という看板を掲げて生活している内に、マルたちの依頼を受けた。
キルコは、竹早春希は、ロビンを兄のように慕い、心酔していた。
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(春希 ケンカする時は相手から目をそらしてもいいんだ)
(相手の目をニラむなんてのは威嚇(いかく)だけで事なきを得ようってチキンがや
る事だ 目をそらして相手の服のえりを見な)
(どんな形してるかな? シミや汚れがついてないかな? ゆっくり呼吸しなが
ら1歩下がって敵の靴も見るんだ ……俺のとどっちがいい靴かな? )
(それから地面の色 足の裏で立ってる感触を確かめろ)
(ケンカは相手しか見えなくなってる奴が負ける)
>(15頁 下線は、原文では傍点)
船が、巨大な魚にたくさんの手が生えた”人食い”に襲われた。苦戦する中、キルコは思わぬ形で決着をつけた。
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キルコ(とどめを頼む)
マル (キル光線なしで倒すなんて……)
キルコ(こういう時は敵しか見えなくなってるとだめなんだ 落ちついてひとつで
も多く周りの情報を得たほうが勝つ)
(僕はそうやって生きて来たんだ)
>(119-120頁)
キルコもマルも、無法地帯を生きている。戦いに明け暮れている。そんな世界を生き抜く知恵を、ロビンが教えてくれていたことをキルコは実感している。
今、ここ、に無いものを学ぶシステムを教育という。無法地帯、暴力社会にいると、欠落するものは、教育である。教育のない社会では、傍らにいるのが誰であるかによって、往々にして、その人の運命が決められていく。
コロニーでの生活は、ほとんどが教育の場である学校生活として描かれている。
ただ、その教育の内容が、多くの問題を孕むものであることは、トキオとククが、盗み見た化け物じみた姿を”赤ちゃん”と認識してしまいそうなことでもわかる。
コロニーの管理者たちは、子どもたちに性的知識を与えていなかった。だが、シロとミミヒメ、トキオとコナ、ナナキとイワというカップルができつつあることが明示されている。キルコの性が曖昧であることも含めて、性は、この話の中で大きな意味を持つものになりそうである。
これまでミミヒメとトキオに、「外の外」について示唆する形で接触してきた者がいた。また、何者かが、シロにミミヒメからのメールを送り付けてきた。それには、ミミヒメのシャワー画像が添付されていたが、いつの間にか消えていた。キルコたちと子どもたち以外の第三者がいるのである。
コロニーはどこにあるのかわからない。どんな形で、どんな規模であるのかもわからない。
何のために存在するのかがわからない。
何より、この世界が、何故この形(コロニー+それ以外?)で存在することになったかがわからない。
コナが想像で書いた絵とキルコたちを襲った”人食い”の外見がそっくりであることも含めて、”人食い”あるいは”ヒルコ”と人間の関係はどうなっているのか。
謎は深まるばかり、である。
*石黒 正数 著 『天国大魔境 2 』 アフタヌーンKC 2019/3/22