ユージニア/恩田陸 | もん・りいぶる21(21世紀のレビュー三昧)

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雑食性のレビュー好きが、独断と偏見でレビューをぶちかまします。

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森羅万象系ブログを目指して日々精進です。

2008年 角川書店(角川文庫)


恩田陸の描く世界は、一種の箱庭のような世界で、この世にはありえない小世界をあたかもどこにでもある町の一角のように表すから、ついサンダル履きで踏み込んでしまうのだが、庭に敷き詰められている玉砂利ひとつ取ってみても、普段踏みしめている砂利とは滑らかさが違って、背筋までゾクッとくるような描写で「恩田ワールド」に踏み込んでしまったのだと思い知らされる。

設定は普通に少し「異界」を交えてあるだけだが、実際の中はまさに異界そのもの。
その異界の中で繰り広げられる事件も、刑法犯罪というよりは「異界の掟破り」といった様相になる。
だから、推理小説仕立ての本書も、どこか異界の推理小説として読めてしまい、サスペンスやスリルといった要素からどうしても距離を置いてしまうことになる。

本書でいえば、「いるのかいないのか」明確でない犯人像がそれだ。
そして時効の壁をせせら笑う犯人に推理の手が伸びるほどに、この大量薬殺事件の不思議さに読み手は引き込まれるということになるのだろう。

読み進むにつれて現実世界とはどうやっても交わらないパラレルな位置にある恩田ワールドのなかにも、さらにパラレルに物語が進行していることがわかってきて、それを無理やりに交わらせてしまおうという力技に圧倒されることになる。

「真実」とは、と問われる本書。

ミステリーとして分類されているけれど、やはり幻想小説として個人的には括りたい気分だ。