おもてなしの経営学/中島聡 | もん・りいぶる21(21世紀のレビュー三昧)

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2008年 アスキー・メディアワークス(アスキー新書)


この著者名でアップルを褒める本が出るとは意外だったが、読んでみて納得。
なるほど元マイクロソフトという肩書きをあまり先入観に強く持つとろくなことはない。

実際に今の中島氏の立場はとてもニュートラルで、プログラマであり経営者でありMBAコースの現役学生である今の立場を踏まえてとても自由闊達な論議を示してくれている。

アップル社が作る優れたプロダクツ、そしてソフトウエアの背景にある思想を「おもてなし」とし、日本のその分野の最先鋭というか世界の最先鋭であるはずのソニーがどうしてアップルに負けるのかがとてもよくわかる。
そしてもうひとつ、なぜマイクロソフトが必死になって米ヤフーを買収しようとしたのかについても、グーグルに打ち勝つという大命題を抱いたマイクロソフトとしては当然の行為であったということもわかる仕組みになっている。
さらにいえば、この世の醜悪なものの集大成といえるマイクロソフトの製品のデザインや製品思想のベースに「とにかく勝つだけ」というビル・ゲイツの思想がそのまま反映されているというところまでその懐深くで働いてきた著者の言葉を通してよく理解できた。

コンパクトな新書サイズの書籍ではあるが、「企業ドメイン」と「経営理念」という大きな視点から見定めたときに、一時の隆盛は誇れてもその後の展開でいかに生きていくかを見定める才に欠かせないヒューマンウエアについてとても示唆に富んだ本だった。

面白い商品を出し続けることがどうしてソニーにできなくなったのか。
その裏側には、ミドル層の脆弱化があるが、それ以上に発想の固定化があるようだ。
「ねばならない」からの逸脱がギーグとスーツの間で円滑に議論されるテーマになれば、失敗を恐れずに面白いシーズを生み出すことも可能だが、そこにギクシャクとした関係があれば、なかなか新しい発想で技術が生まれることはなくなっていく。
そのあたりはトップ経営者とも親交を持つ著者ならではの視点で分析されていてとても面白い。

アップルは一方で社名から「コンピュータ」を外してより自由度を高めているのだから、そもそも音響機器会社だったソニーが現社名に変えたときのようなドラスティックな変化がアップル社内に起きていることだろう。
トップの思想はそうした際に最もよく社内に伝達される。

企業のあるべき姿は気軽に論じるべきではないという風潮が昔からあるが、実はこの混迷した時代に、自由闊達にあるべき姿という青臭い話に熱弁を振るいあうことも、必要なのではあるまいか。

アスキーのそしてマイクロソフトのもっとも自由闊達で面白かった時代を知る筆者の言葉を読むにつけ、そうした思いが強くなった。