246号と道玄坂との交差点手前でタクシーを降り、歩いて

道玄坂のホテル街に向かった。


まだ時間が早いこともあり、選べる程にどのホテルも空いていた。


外観が新しいホテルを選び、部屋に入る。


私がシャワーを浴びようとすると、女性はそれを遮って正面から私に

抱きつき、行為を要求した。


前回はアルコールのせいで記憶が歪んでいたが、今回は、明確な

深い記憶として残った。

妖艶な女性は濃厚な行為を求め、私はそれに応え、女性は悦んだ。

改めて女性の大きな胸や長い足などをながめることで、そのスタイル

の良さに性的興奮が掻き立てられ、自分でも驚くほどに何度も繰り返

し女性を求め、女性は悦んだ。


私と女性との性的な相性は、かなり良かった。


この女性と繰り返すうちに、私は生まれて以来、2回目の性の目覚めを

感じることになる。

年齢的な要因もあるのかもしれないが、これまで標準以下であった性欲

は明らかに高まり、女性を直接的な性の対象として明確に認識する様に

なった。


この夜のことがきっかけで、私は女性のことを多く考える様になったが、

あくまでも性的な対象以上には気持が大きくならない様、感情のコントロ

ールを心掛けた。

期待通り、翌日の金曜日、その女性からのメールが届いた。

昼食を終えてデスクで昼寝している間にメールが届いていたらしい。
始めて見るそのアドレスは難解で、何を意味しているのか全く理解できなかった。

今晩会えないかという内容だった。

週末ということもあり、夕方に上司から飲みの誘いがあったが、先約があると断り、仕事は早々に切り上げて表参道へ向かった。
待ち合わせ場所のみずほ銀行前には、約束の時間の15分前に着いた。
昨日会ったばかりにも関わらず、私は女性の顔を明確には思い出せなかった。

約束の時間を3分程過ぎて、女性は地下鉄の出口から現れた。
何とか顔を確認できる程の距離で見る女性の顔を見て、出会った時に感じた、生理的な嫌悪感がよぎった。
だが、近づいて照れ臭そうに微笑んだその顔は、やはり美しく、嫌悪感の微塵もなかった。


これまでは、どちらかというと清楚なイメージの服装だったが、今日は身体のラインがコンシャスされ、胸が開いた黒いシャツとストレッチのパンツだった。並んで歩いていると、数人の男達が、その女性の胸元を盗み見ながらすれ違った。

10分程歩き、純和風な外観の小綺麗な居酒屋に入った。
魚を焼く大きな囲炉裏がある、落ち着いた店内の中央付近に案内され、向かい合って座った。

女性は豆腐や野菜ばかり注文し、あまり食べなかった。

時折、女性は胸の谷間が私に見える様に、上体を前に屈める仕草をしたり、トイレに立って戻ってくる時、私の隣で立ち止まり、身体を私に寄せて上から見下ろしながらにっこり笑ったりした。
女性の武器を使い、誘惑することを楽しんでいる様だ。
私は、その誘惑を茶化すことなく、私も楽しんだ。


1時間程経ち、料理を沢山残したまま、どちらかが言ったわけでもなく、お互いに店を出ることに合意していた。

アルコールは少ししか入っていないにも関わらず、お互い酔っていた。

電車に乗るのが億劫で、タクシーを泊めて道玄坂へ向かった。

驚くべき場面にも関わらず、私は冷静だった。
唐突過ぎる予期しない状況に反応できなかったのかもしれないが、頭のどこかで、この状況を予測していたのかもしれない。

あえて驚いた表情をつくった。

「あれ?あの店に?・・・。」
「はい。あの店に。・・・。ひょっとして、今から・・?」

反射的に、「はい。」と答えた。



その女性は、あの出来事以来、時間があればあの店に通っていたと言い、私が来るのを待っていたと言った。
今日も来ないだろうと、帰るところだったらしい。

「少しだけ、どこかでお話できませんか?私もあまり時間が無いので、少しだけ。」


ここまで来る途中にファミリーレストランがあったことを思い出し、二人で戻った。

店に入り、コーヒーを飲みながら話をした。

あの出来事の後の状況を、女性が話した。
旦那さんには、カラオケに行っていたと嘘をついたものの、もともと、あまり束縛が無い夫婦らしく、少し、からかわれただけだったらしい。
旦那さんには彼女がいて、自分にも親しい男性がいると言った。
ただ、お互いの事を一番大切に想い、一緒にいるらしい。
でも、その生活に少し疑問を感じ始めていて、私と出会い、現状から逃げたい気持ちも芽生え、あれ以来、私を求めていたらしい。
そんな自分に疲れていたとも言った。


正直、その頃の私では、理解しづらい話だった。
私が思い描く夫婦の姿ではなかったし、単純に、その頃の私は、貞操観念が低い女性を嫌っていた。
旦那さんがいて、親しい男性もいて。
恐らく、ある一定の基準さえクリアした男性であれば、この女性は簡単に身体を許すのだろう。

だが、その女性は、関係を持ったのはアルコールのせいもあるが、また会いたいと思ったのは、相手が私だったからだと言い、滅多に無いことだと言った。


何故か、その時の私は、その言葉を信じる努力をしていた。

そして、私ももう一度会うことを望んでいたと言った。

女性の疲れた表情は和らぎ、女性はコーヒーカップを弄びながら下を向いて微笑んだ。

やはり、その女性は美しい顔立ちをしていた。



1時間ほど経ち、女性が帰らなければいけないと言ったため、私から電話番号とメールアドレスを渡し、二人で店を後にした。


この日から、私はその女性の事を考える様になっていった。