驚くべき場面にも関わらず、私は冷静だった。
唐突過ぎる予期しない状況に反応できなかったのかもしれないが、頭のどこかで、この状況を予測していたのかもしれない。
あえて驚いた表情をつくった。
「あれ?あの店に?・・・。」
「はい。あの店に。・・・。ひょっとして、今から・・?」
反射的に、「はい。」と答えた。
その女性は、あの出来事以来、時間があればあの店に通っていたと言い、私が来るのを待っていたと言った。
今日も来ないだろうと、帰るところだったらしい。
「少しだけ、どこかでお話できませんか?私もあまり時間が無いので、少しだけ。」
ここまで来る途中にファミリーレストランがあったことを思い出し、二人で戻った。
店に入り、コーヒーを飲みながら話をした。
あの出来事の後の状況を、女性が話した。
旦那さんには、カラオケに行っていたと嘘をついたものの、もともと、あまり束縛が無い夫婦らしく、少し、からかわれただけだったらしい。
旦那さんには彼女がいて、自分にも親しい男性がいると言った。
ただ、お互いの事を一番大切に想い、一緒にいるらしい。
でも、その生活に少し疑問を感じ始めていて、私と出会い、現状から逃げたい気持ちも芽生え、あれ以来、私を求めていたらしい。
そんな自分に疲れていたとも言った。
正直、その頃の私では、理解しづらい話だった。
私が思い描く夫婦の姿ではなかったし、単純に、その頃の私は、貞操観念が低い女性を嫌っていた。
旦那さんがいて、親しい男性もいて。
恐らく、ある一定の基準さえクリアした男性であれば、この女性は簡単に身体を許すのだろう。
だが、その女性は、関係を持ったのはアルコールのせいもあるが、また会いたいと思ったのは、相手が私だったからだと言い、滅多に無いことだと言った。
何故か、その時の私は、その言葉を信じる努力をしていた。
そして、私ももう一度会うことを望んでいたと言った。
女性の疲れた表情は和らぎ、女性はコーヒーカップを弄びながら下を向いて微笑んだ。
やはり、その女性は美しい顔立ちをしていた。
1時間ほど経ち、女性が帰らなければいけないと言ったため、私から電話番号とメールアドレスを渡し、二人で店を後にした。
この日から、私はその女性の事を考える様になっていった。