細い路地を幾つか曲がる。
点在する民家は古ぼけて人が住んでいる気配もない。
山と谷が連なる村落の最奥、開けた場所に景観優れた山渓を背後に、静観な佇まいの家が一軒建っている。
十分な広さの庭に、まっ黒の車と、小さな畑。
水楢の木にハンモックをかけ、小川にかかる橋にはしっかりと手すりが取り付けられている。古びた土地でもよく整地され人が住むに良い気を漂わせている。
さすが俺の兄さんは、“良い気”を称賛して、長旅で固まった四肢を伸ばす。
2つのバゲージと、土産、取り寄せた蓬◯屋の豚まんの袋をトランクルームから取り出し、若邪に手渡すと、兄さんをエスコートして、玄関へと進む。。。。。

風に舞い降りる、、、、、いや勢いよく飛び出るかつての四名景が一人。
兄さんの腕に不完全なその姿を遠慮なく受け入れさせる。
生成りの麻の衣がふうわりと宙に広がり、俺の兄さんは落とすまいと必死に腕を広げる。
「太子殿下ーーーーー!!」
「チンシュエン殿‼」
途中まで支えていた男は、その場で動かず、
俺はといえば、兄さんの微笑ましい姿を確実に焼き付けるべく数匹の死霊蝶を飛ばした。
「遅かったね! 縮地千里使わなかったのはどうして?」
「一瞬で老風に会うより、時間をかけて会いに行く喜びは三郎が提案してくれたんだと思いますよ」
そっかー そうなのですと、二人は再会を喜ぶ。
車から荷物を取り出し、賀玄を先頭に、玄関へと歩く。
小さな葉牡丹がプランターに並ぶ木戸の片隅、セールスお断りのシールが張られた郵便箱、傘立てには2本の傘、賀玄の車は高級でも、贅を凝らした住まいには見えないが、かつて知ったる建築物は見る者が見れば、何億かかけてリフォームされた造物だと解る。段差の少ない、造りは勿論チンシュエンのための心遣いだ。
「賀玄は夫ファーストですね、兄さん」
「ウンウン 本当に。私達と同じ?くらい素敵な夫婦みたいだね!」
嬉しそうに話す兄さんとそうでしょーと喜ぶシュエン。相変わらず無口な賀玄からはほとんど鬼の気を感じ取れない。
どちらかと言うと、遠い昔 地師明儀として過ごした時代の雰囲気だ。
この男もまた 兄さんの偉業に端を発した結果だ。収まるようになっていたということだ。
「飯が冷える、青玄 客間を案内しろ」
うんと元気よく返事をし、俺達を案内する。
足が触れる床材はSPCというこだわり、腰壁に張り巡らせた手すりはどの部屋までも続き、安全に余念がないようだ。それでも青玄はピョンと跳ねながら、楽しそうに前を歩く。
「ここが、老謝と城主のお部屋ね。好きに使って。ああ そうこれは僕たちのウェディングフォト。綺麗でしょ? ウェディングドレスも着たいって言ったら、シュエン哥が俺も着るって言ってこうなったんだ‼ ハハハッ 二人とも綺麗でお気に入りなんだあ。」
部屋の箪笥の上に所狭しと飾られた二人の写真に、俺は目もくれず、兄さんが初めて婚礼衣装を着て俺の目の前に現れた時の事を思い出す。俺ならもっと上等な衣装を用意してあげられた。だが兄さんは本当に美しかった。800年夢にまで見た俺だけの神様は時を経ても変わることなく美しい。
「三郎 後で私達の写真も二人に見てもらおう。うん、、、青玄 本当に幸せそうで良かった。」
神の祝福が舞い降りたように、部屋が光り輝く。こざっぱりと髪をまとめた一人のかつての天人は、少し顔を赤らめてうんと呟いた。
⚅のにに続く。