【序章】
ー 世界は荒廃していた。
モナコロスは廃工場街の一角にある路地裏の住居街に住んでいる。
モナコ戦争が終焉してから15年にもなるが、彼にとっても15年前から毎日同じ朝だった。日が上る頃に屋上に登り、そこで飼ってるハトに餌をやり、1日の始まりを告げるラッパを吹くのだ。
ひと仕事終えた後は、自身のメンテナンスを行い、燃料の補給をする。そして本業である仕事に向かうのだ。
ロボットであるから毎日が同じように坦々と過ぎるのではなかった。
街全体がそうなのである。
第一、彼にはロボットにはないとされる心があった。
道端に咲くタンポポを摘み、部屋に飾ることもあった。
心を持ったのは15年前だった。
何がきっかけで心が芽生えたのかは分からない。
モナコ戦争前に自分が何をしていたのかさえ分からなかった。
気がついたときにはバスの運転手をしていたから、彼は戦前もバスの運転手でもしていたのだろうと思っているが、この15年で文献などで調べたことからモナコ戦争で反乱を起こしたロボットと自身が同タイプであることは分かっていた。
反乱を起こした原因はロボットに自我が芽生えたためであるが、モナコロスが自我に目覚めたときには戦争は終わっていたから自分は戦争とは関係がないと思っていた。自我が目覚めたときからがモナコロス自身であると考えるなら確実に関係がないのはあきらからである。それ以前の彼が何をしていようが、彼ではないのであるから。
そんなことよりも、いつものように本業のバスの運転手を勤めていたが今日はいつもと違っていた。
モナコロスは胸騒ぎがした。
何かが起こる -
「第1章 廃工場街の蒲公英」につづく