「杏梨?」
何かに気づいた雪哉が近づいてきた。
「鼻が真っ赤だ それに涙の後も・・・」
「え・・・」
取り繕うと思った時には遅かった。
雪哉に抱きしめられていた。
「ゆきちゃん!」
抱きしめられて嫌な感じはなかった。
他の男の人にこんな事をされたらパニックに陥ってしまうだろう。
「貴美香さんの声を聞いて寂しくなっちゃった?」
「・・・うん」
シャワーを浴びてきたばかりの石鹸の爽やかな香りがまとう身体に抱きしめられたまま杏梨はそのままじっとしていた。
嫌な感じは受けはしなかったがやはり抱きしめられている感覚に、パニックには陥らないが立っているだけで精一杯だった。
「何でも言って欲しい 杏梨の力になりたいんだ」
「・・・うん 大丈夫だよ 久しぶりにママの声を聞いたからウルッてきちゃったの」
無意識に雪哉に寄りかかっていた。
杏梨を支える手に力が入った。
その途端、身体が凍りつき全身が震えた。
ゆきちゃんに分からないようにすぐに離れなきゃ。
震えている事がばれれば心配をかけてしまう。
ゆきちゃんの胸に付けていた顔を起こすとわたしは静かに離れた。
「あ、ありがとう もう大丈夫だから」
杏梨は今の状態を悟られない様に部屋を出て行った。
杏梨が突然よそよそしくなったのは分かった。
俺のせいだ。
目を赤くした杏梨が可愛くて抱きしめてしまった。
寄りかかってくれた杏梨を抱く手につい力が入った。
いつになったら君は逃げなくなるのだろうか・・・。
雪哉はいつまでも待つつもりだった。
杏梨の恐怖が消えるまで兄として見守るつもりだ。
だが、一緒に住むようになって杏梨を自分のものにしたいという欲望は日に日に増している。
自分の気持ちを抑えなければいけない。
このままでは君を傷つけてしまう・・・。
続く