世界フィギュアスケート選手権2023が無事閉幕しました。
レポを書くにあたりタイトルを考えていたのですけど、私の印象を一言で表せば「百花繚乱」が最もふさわしいと思いつきました。
過去にないほど非常にレベルの高い大会で、スケーターも個性豊かで甲乙つけがたい魅力がありましたし、会場もカラフルでセンス良く彩られ、表彰式やキスクラは桜をイメージした演出でそれはそれは華やかでした。
まさに春にふさわしい大会で、そういえば新幹線の車窓からもたくさんお花見ができましたよ。
ですが、毎度ながらそんなお祭り気分を楽しむ余裕はなく居ても立っても居られない状態。
これ終われば、あとはもう平穏無事に過ごせるんだから・・・と自分に言い聞かせ、現地でお会いしたD友さんたちとも「ただ転ばないでいてくれたらそれでいいの、安心してリピートできるプログラムでさえあれば」なんて言いあっていたのです。
でもいざ終わってみればまだ興奮冷めやらず思い出すたび昨日の高揚感と激しい動悸が私を悩ませて、
幸せだけど苦しくて
日常は戻ってきそうにありません。
まるで美酒をあおりすぎて二日酔いしたみたい。昨日は日帰りでしたし、駅からは車で帰ってきたので実際のところは一滴も飲んでないんですけどね。でもこの酔いはまだ醒めそうもないし当面の間、私を歓喜の状態に浸し続けてくれそうです。
哉中ちゃん、大ちゃんお疲れさまでした。最高の感動をありがとう!!
RD11位、FD10位、総合では11位。
目標としてた10位にすら届かないのに何をそんな能天気なことをなんてよく知らない人には思われるかもしれないけれど・・・
長くアイスダンスをご覧になってきた方々はこの順位がいかに到達しがたいものかをよくご存じのはず。これまで多くの日本人カップルがフリー進出の厚い壁に阻まれ、国際大会で表彰台に上ったのも四大陸選手権のかなだいが初めてです。
訂正:ISU主催の国際大会ではかなクリが銅メダル獲得。小松原組もCSでメダル獲得済みでした。
かなだいがアイスダンスカップル結成してからわずか3年。しかも初年度はコロナ禍でフロリダでの練習もほとんどままならず、結局国際大会にも出場できなかったので、実際のキャリアは2021-2023の2シーズンのみということになります。
町田君がシングルからアイスダンスへの転向は違う言語を習得するようなものと例えていらっしゃいましたけど、例えば今から外国語の勉強を始め、数年でネイティブたちと同等に渡りあうどころか弁論で圧倒できる実力を身に着けると想像してみたら、その困難さがわかると思います。
いかに優れた記憶力を持っていても、単語や言い回しをすべて頭に叩き込めば自在に話せるようになるわけではありませんしね。
かなだいが結成したことに対する危惧は少なからずありました。
アイスダンスは二人の同調性や、地道な練習に耐える忍耐力が必要で、決して甘いものじゃないって、経験者が言いたくなるのもわかります。
実際この3シーズンはアイスダンスの難しさをその身をもって我々ファンに知らしめてくれたようなものでした。
ジャンプが無いから転倒しないのが当たり前のように思っていたのは大間違いでした。世界の壁は厚いと思い知らされました。
もともとカップル競技に対する意識も伝統も指導体制も欧米とは雲泥の差で、かなだいだって決して全面的な支援を受けてきたわけではありません。
アイスダンスを盛り上げるべく関係者の皆さんはこのチャンスに便乗し、かならずや良い方向に導いてくれると信じてたのですが、なかなかそうは問屋が卸さず、結局この3年で多くのカップルが解散の道を選ぶことになりましたが、いくら意欲があっても諸事情から続けることすらままならないってのが現実なんですね。
WBC優勝後、大谷選手が米国のレジェンドお二人に招かれてインタビューを受けた際、
「前から聞きたかったんだけど、あなたは一体どこの惑星の生まれですか?」
と冗談まじりに尋ねられ、
「僕は岩手県花巻市に生まれました。とてもローカルで周りに対戦できる野球チームがほとんどないようなところだったんですが、そんなところで生まれ育った僕がこういう所まで来られた。だからこれから野球を始める子供たちにもどんな場所で生まれたとしてもやれば出来るんだと思ってほしい」
というようなことをおっしゃってたのがとても印象的でした。
大ちゃんもまたウィンタースポーツが盛んな場所で生まれたわけではありません。
実際のところフィギュアスケートって氷がなくちゃ始まらないし、金銭面を含め環境が整わなければ上達は無理。
最初はただただ遊びの延長だったそうですが大輔さんが志すのもまさに大谷選手と同じなんですよ。
彼が必要以上に謙遜家なのも、自分を下げてまでおかげさまを強調するのも、この「やろうと思えば誰もができる」という点を強調したいが故だと私は解釈してますし、サンピアをはじめ彼が各地のスケートリンク存続のため奮闘するのも同じ精神からだと思います。
氷爆福岡公演が実現したのもその一環ですもんね。
高橋大輔さんが生まれ育った環境とか、素質とか、年齢とか、自ら限界を定めないことで生まれる可能性を体現しつづけ、それによって得た幸せを惜しみなくシェアしてくださることに、少なからず励まされてる選手は大勢いると思います。
アイスダンスへの情熱と賢明でまっすぐな努力が報われ、思うような演技を日本のワールドで披露できた。それはすごい快挙なんです。
もうそれだけで、何か壮大なドラマをみたような、現実にこんなことあるんだなという感動に包まれて、
いやいやそんな言葉じゃ到底足りませんね。
昨日の今日ですがまだ夢を見てるような気持なのです。
2013年の全日本、演技前に同じたまアリのスクリーンに映し出されたのは5階まで埋め尽くされた満場の観客席を見上げる真っ赤な目をした大ちゃんの顔でした。
ああ、終わりだ。彼はこれが最後になると覚悟してる
そう悟った私はこの世の終わりが後数分で訪れるような壮絶な覚悟で、一瞬たりとも見逃すまいと息を止めてビートルズメドレーを見てました。あとから映像を見て知ったのですが、2013年と同じくフリーの前、大ちゃんは天井まで埋め尽くした観客を見上げていたのですね。
インタビューによるとリンクインするまでは足ががくがくするほど緊張してたとか。
私だって演技が始まる前はもう心臓が持ちそうになくて、いっそ演技が終わるまで耳を塞いで目を閉じていようかと思ったくらいだったんですけど(-_-;)
でも会場の皆さんが私の心とシンクロしてるのかってくらいに、ものすごーく温かく見守ってくださってるのが400レベルまで伝わってきましてね。
それに大ちゃんもかなちゃんもインスタでこの大会を心から楽しんでる様子もアップしてくれてたし、選手生命ぎりぎりの2013年の壮絶な状況とは違い、失うものは何もないし
とにかく今見ずにして何のためにここまで来たんだ!
と自分を鼓舞しつつ、がんばれーって叫んでおきましたよ。まああれは半分私自身に向けてだったんですけどね。
全カップルで一番短い演技時間でした。いやどう考えても体感1分ちょっとでしたから、いまだになんか騙されたような気がします。
直前の練習でも大ちゃん、かなちゃんが周回するのに合わせてまるでウェーブのように「がんばー」っていう声が響いていたんですけど、演技中も一つ一つのエレメンツが決まるたびに歓声があがり、それがまた演技の邪魔にならない絶妙なタイミングと音量でしてね。あれは絶対に良い後押しになったと思います。
いやそうですよね、だって大ちゃんもう37歳ですもん。ファンのキャリアだって相当なもので、それこそレジェンドクラスですもの、まさに応援のプロフェッショナル揃いでしたわ。本当に心強かった。おかげさまで私も一人じゃないって安心感が増しました。
まあそうはいってもこれまでの大会、ことごとく何かやらかしてくれたお二人なんで、余裕の心境には程遠かったんですけど、
それもこれも演技が始まる前までのこと。
天井席からもはっきりとわかる二人の滑りの上質感、エレガンスかつエモーショナル!技術的にも格段に安定感を増していて、そこには揺るぎない自信とお互いの信頼があり、二人で一つの存在に成りきっている。
「Finally!」
終わって哉中ちゃんはなんどもそうつぶやいていたそうですけど、
本当にやっとついに!!
私にもはっきりとオペラ座の赤い緞帳が開いていくのが見えましたよ。
2012年全日本の道化師、テレビ越しでも見えたあの光景が、今また私の心に広がっていく。
ああこれが見たかったんだ。これを見たくてずっとずっと大ちゃんを追いかけているんだと
演技中からもう全身の震えが止まりませんでした。
最後のコレオリフト
大げさじゃなくってリンクの真ん中で何か一つの奇跡が生まれるのを会場全体で見守っているかのような、
あの感じは、私がかつて味わったことのないような歓びの瞬間でした。
大ちゃんが靭帯断裂の大けがから復帰した2009年GPSカナダ大会でのフリー「道」
を実況してたユーロの解説者が演技から受けた感銘をこんなふうに表現していました。
「このまま優勝するのは間違いなさそうだが、たとえ順位が30位だったとしても最高の演技だったことに変わりはない。」
今大会全体を通してこの言葉の意味を改めて噛みしめています。かなだいだけじゃなく、私が見た全選手が最高でした。
世界選手権に至るまでの努力がいかほどのものであったかをスケーターそれぞれが全力で示してくれていて、それに対して、満場の観客が最大限の拍手をもって迎え、祈り、励まし、讃える、
全選手に対する純粋で清らかな賛美に包まれていると、まるで聖堂の中にいるような気さえしていました。
そしてその空気の先駆けになったのはなんといっても村元哉中・高橋大輔組のオペラ座。多分あそこでバナーを掲げたほとんどの人が、私と同じ光景を見たんだと思います。
やっと幕が開いた。オペラ座の世界に何もかも忘れて没入することができた。
それはそれは美しいうっとりするような至福のひと時。
会場のスクリーンに演技直後の大ちゃんの顔が映し出されました
2013年と同じく泣いていました。
それ見たらもうこっちも泣くしかないじゃないですか。おかげで肝心なシーンをだいぶ見逃してしまいましたけどね。
(歌子先生をとうとう泣かせましたね、大ちゃん)
ああ、フィギュアスケートって良いなって
会場のみんながそう思ったんだと思います。
だからその後はすっかり観客の皆さん超ハイテンションになっちゃって、どの選手にもこれでもか!ってくらいに降り注ぐ割れんばかりの歓声と拍手がすごいことすごいこと。あんなの初めて見ましたよ。
特にジェイソンとか、エイモズとか今期で引退を表明してるキーガンに対する応援の熱量が半端なかったんですけど、いやほんと会場にいらしてるのは根っからのスケートファンだってあれでわかりましたね。
K7D1のバナーは言わずもがなでしたけど、友野君の真っ赤な応援バナーが開かれたときはそりゃあ壮観でしたよ。
こんなに推されたらそりゃ選手の皆さんだって感無量ですよね。泣いて当り前ですわ。むしろ泣かせるために示し合わせてやってんじゃないかってくらいでした。そしてあの見事揃った手拍子は、やっぱ新横で培った年季の入ったそれに違いありませんでした。
若い女性もたくさん観戦に来ていたし、てっきりメインは昌磨君のファンかと思ってたけどそうだったら二連覇がかかる試合であんなに前の選手たちを全力応援するはずもなく、事実、次から次へと皆さんどんだけバナー用意してるん?ってびっくりするくらいでしたからね。以前とはすっかり客層が変わりましたよ。この人たちいったい今までどこにいたの?って思うくらいでしたけど、この3年間は遠征できず見たくても来られない方が大勢いたんですもんね。じっとこの時を待っていたんですね。変わったわけじゃなくって、”おかえりなさい”なのでした。
ああ、本当にこんな素敵な時間を花のようなスケーターと、素敵なスケートファンたちと共有できたのはまるで夢のようで、
私をここに連れてきてくださった大輔さんとそして何よりアイスダンスに誘ってくださった哉中ちゃんにどれほど感謝してもしたりません。
優勝した選手の皆さんには最大限のリスペクトを。今大会に出場してくれたすべてのスケーターにも感謝します。
そして日頃よりフィギュアスケートを愛し、支えてくださるファンの皆さんこそが今大会の最大の功労者なのだと、これはマスコミ関係者の胸にこそ刻んでほしいと思いました。この光景は決して当たり前じゃないってことを。
日本にとっては過去最高の成績をあげた今大会でしたが、実際に会場に足を運ぶファンが望むのは決しておぜん立てされた結果ではないし、選手それぞれが自分の課題を克服し、成長しようと努力する姿なんだと、そこはわかっていてほしいのです。