シロウは溜息をついた。彼の周りは対照的に明るくきゃぴきゃぴと騒いでいた。
時は昼休み、学校の生徒が授業中に溜まった鬱憤を一気に吐き出す中で彼だけは机に頭を垂れていた。
そんな彼を気遣ったのは自分と彼のお弁当を持ったユウコだった。

「どうかしたの?」
「少し寝不足で。」

シロウはそのあともあの夢を何度も何度も見ていた、その度に目を醒ましては奇妙な感覚を味わった。
夢を見た回数が二桁になった時、既に夜は明けていた。
リプレイされるその夢は始まりから終わりまで一片の差異もなく同じであることに彼は薄気味悪さを感じた。

「それにしてもバンパイアはないな。」
「は?バンパイア?」

何を言うかと疑惑の目を向けるユウコにシロウは説明しようかと一旦は思うものの言えば彼女の顔は今よりも更に歪ませるだろう。

「なんでもない、」
「そう?でも無理しないでね?はい、お弁当。」
「うん、ありがとう。」
「そうだぞお、ユウコちゃんを困らせるなよぉ。シロウお坊ちゃん、」

いつの間にかシロウの後ろにケンイチが立っていた。
そしてシロウが持っていたユウコからのお弁当をつまみ食いした。

「ちょっと、」
「えぇやん?ちょっとだけだしぃ。」
「もう、シロウの物なのに。」
「いいよ、こんなには食べれないから。」

そうなの、とユウコは少しだけ残念そうな表情を浮かべた。

「それでぇ、何の話ぃ?」
「いや、あの。」
「バンパイアがどうのこうの言っていたわよね?」

ユウコが言うとケンイチもまた不思議そうな表情を浮かべた。

「どういう事ぉ?」
「さぁアタシも少ししか聞いてないから、」

目を合わせていたユウコとケンイチが同時にシロウへと目標を変えた。

「どういう事なの?」
「教えてくりゃんせ?」

二人の顔が同じ意地悪な表情をしているように見えた。

ハッとシロウは目覚めた。

彼は自分がどこにいるか、いつなのか。わからずに困惑していた。

何の変哲も無い自分の部屋をみて、時計を見て彼は安堵した。

午前四時三十分。学校にはまだまだ時間が有り余っている。

それにしても、と彼は考えた。


「んぁあんぁあぁ、」


その思考は床に大の字になって寝ているケンイチの奇妙なイビキに邪魔された。

さて、ケンイチがここにいる理由。

それは彼が帰るのを駄々をこねて、ここに無理やり泊まったのである。

ユウコはずっと文句を言っていたものの、終電を迎えてしまった為に承諾しなければならなかった。


「みゅぅるるぅうぅぅ。」


やはり奇妙なイビキをあげるケンイチを無視してシロウは再び横になった。

そして思い出すのは先ほどの夢。

いや、夢だったのだろうか。夢にしてもリアルすぎる。


「あっ、あれは。」


そこで彼は気付いた。


「あれは記憶、か。」


幼い頃に全く同じ経験をした記憶がある。

小学校の時に友人も去った公園で奇妙な女性にあった。

その女性の顔の詳細は覚えていない。ただ子供ながらに綺麗な人であると思った。

しかし詳細までは覚えていなかったが、


「それにしてもバンパイアって、」

「ばやぁ、びゃぁあびゃぁ、ふみうぅぅぅ、」


いつか独自の言語になりそうなイビキに悪態をつきながらシロウは夢に舞い戻った。

夕方の公園で少年が一人で寂しそうにブランコに乗っていた。

遊ぶわけでもなく、ただ乗っていた。

その表情に子供らしい輝きはなく、目を潤ませて今にも泣きそうだった。


「あら、どうかしたの?」


声をかけられて、少年が顔を上げた。

なぜか顔がおぼろげではあるが絶世の美女がいた。

公園とは縁遠い深紅のドレスを着た金髪の女性がいた。

少年を美しさか、もしくは他の何かに圧倒する女性がいた。

言葉を失っている少年に金髪の美女が口だけで笑った。


「坊やは迷子?それとも一人ぼっちなのかしら?」

「一人、」

「そうなの、どうして一人ぼっちなの?」

「皆、帰っちゃった。」

「あら、ならどうして坊やは帰らないの?」

「なんでだろう。」


少年は隣のブランコへと移動している美女を決して目を逸らさずに見つめていた。


「分からないんだ?」

「うん、」

「坊や、お名前は?」

「シロウ。」

「シロウ、いい名前ね。」


美女が少年の名前を口にすると、どこか少年は恥ずかしいような。うれしいような気持ちになっていた。


「お姉ちゃんは?」

「アタシはね」


聞いた瞬間に、少年は奇妙な感覚に襲われた。

少年は美女の単語を目と耳で一生懸命に追った。


「バンパイア、」


夢は必ず覚める。

ユウコが再び男二人の前に現れた時、

彼女は一人分の食事を用意して現れた。


「さっすがぁ、ユウコちゃんだ。いい嫁さんになれるぞぉ。」

「食べるな、これはシロウの分なの。」

「冷蔵庫の余りものでよく作れたな。」


呟くシロウの前には温かいご飯と味噌汁、さらに肉じゃがと中々豊富な品揃えを誇っていた。

しかしケンイチの目の前には既に冷めたお茶がポツンと置かれていた。


「ぬうぅ、扱いに差を感じるぅ。」

「シロウは劇の練習がんばったから良いの、努力した者はキチンと評価する、これがアタシのモットー。」

「ケチ。」

「なっ!!劇の練習抜け出して、一人ここでサボっている男に恵んであげるほどアタシは優しくないのよ!」

「だからケチといったんだ、やぁーいケチ!」

「あんたねぇ!!」

「・・・ん、うまい。」


ギャアギャアと叫び散らす二人を無視してシロウは目の前にあるご飯に食べていた。

幸せそうな表情を浮かべるシロウと、ケンイチとユウコの争いが対極的に深まっていった。


十分後、彼は両手を合わせて姿勢正しくお辞儀をした。


「ふぅ、ご馳走様。美味しかったよ。」

「どういたしまして、あぁ、疲れた。」


シロウは最期に一服、お茶を飲み干した。

彼の目の前にはもう口喧嘩に疲れ果て、体中から力を抜いているユウコとケンイチの両名がいた。


「食っちまったかよぉ、腹減ったのに、」

「自業自得でしょ。」

「まだ言うかぁ、」

「これ、食うか?」


シロウが指差したのは彼が買い、まだ手をつけていないお握りだった。

それを確認するまでもなくケンイチは神速で奪い去ると一気に食べ始めた。

だがその動きはものの数秒で止まり、ゆっくりとシロウに顔を向けた。

その顔色は何故か先ほどの元気な肌色に青色を落としたような色をしていた。


「これ、具は何だぁ?」

「本日発売の苺のジャムオニギリ」

「ぐあはぁ、」

「汚い!吐き出さないでよ。」

「こんなもの食えるか!」

「うん、興味買っただけだからあげるよ。」

「いるかぁ!!」


喧しい夜は過ぎていく。

レポート終わりのツバメです。

あと二つ、もう少しだけがんばるか、


今、テレビの番組を見て思ったのですが。

それほど悪を追求してどうするのでしょうかね?

さも、自分自身が正義の鉄槌を下す天使様のように語る番組に食傷気味です。

私はそういった番組を見ているとむしろ責められている悪側の味方になってしまいます。

多分これは反骨精神の危険思想なのでしょう。


しかし彼らがいう正義が正しくとも。私は気に食わないです。



「世界の正義が人を殺した日」はもう来てしまったのでしょうか?


それともまだ迎えていないのでしょうか?


皆さんはどちらだと思いますか?