いつもと違う感覚でシロウは目覚めた。
布団も寝ている場所もなんら変化のない朝の筈、だった。
しかしその中で唯一、違ったのは彼の手を包む温かみだった。
「ユウコ」
シロウの隣には左手を握り締めて眠るユウコがいた。
彼女はベッドの隣に座り込み、一枚の毛布を掛けていた。
秋の朝、寒々しいなかで一枚では寒いのだろう。彼女は少し身を縮めていた。
「寒い、よな。」
自分を暖めていた毛布をシロウはユウコにかけた。
すると彼女はゆっくりと目を覚ました。
「あ、シロウ、起きたの?」
「泊まっていったのか?」
「うん、ケンイチもいる。」
シロウが奥に目をやるといつしか見た光景、大の字に広がって寝るケンイチを見た。
そして何時もの如く、どこか他の言語にでもなりそうなイビキをかいていた。
「ぶれらぁぁあれしゅりゅりゅぅぅうぅ。」
「まったく、ウルサイったら無いわよ。」
ユウコの返事には眠気を感じた。
そして、未だ握り締められているその手も余計な熱を持っていた。
「先に寝たと思ったらずっとあれだもの、もう寝不足よ。」
「まだ寝ていてもいい。学校まであと一時間以上あるから。」
「うん、」
返事をする間にもユウコは段々と目を閉じていった。
完全に寝入った彼女をほほえましくも思いながらシロウは立ち上がろうとした。
しかしシロウの行動は未だ力強く握られているユウコによって阻まれた。
「ちょっちょっと。ユウコ?」
「スー、スー。」
幸せそうに眠るユウコを邪見に扱えずにシロウは困惑した。
しかし繋がれた手の暖かさが困惑した気持ちを溶かし、むしろこのまま繋がっていたい。そんな気がした。
「寝かしといてあげてぇ、寝るの遅かったシィ。」
突然の声にビクつくシロウが振り向くとケンイチが肘をついてニタニタとイやらしい笑みを浮かべていた。
「ホントにユウコちゃんはしおらしいよなぁ。お前が悪夢を見ないようにって手を握っていたんだぞぉ?」
「いつから起きてた?」
「さぁ?いつからでしょうぅ。」
足をバタバタと動かしているケンイチにシロウは思いっきり苦い顔をした。
シロウが苦い顔をしていることに更に笑うケンイチは体を起こした。
「んでぇ?どうだったぁ?」
「何が?」
「ユウコちゃんが手を握った効力はあったのかなぁ?」
「あ、いや。」
「・・・また見たのか?」
「う、うん。」
ケンイチは今まで見たことのない真面目な顔をしていた。
その急激な変化に戸惑うシロウに彼は淡々と聞いてきた。
「それで夢はどうだった?」
「えっと、バンパイアの種がどうとかなんとか。」
「種?」
「バンパイアになれるかどうかって、」
「・・・そうか、」
そういうとケンイチは静かになってしまった。
シロウが声をかけようかどうか迷ったが彼はゆっくりと横になって真面目な雰囲気で真面目な言葉をかけた。
「それでどう思う?」
「何を?」
「その美女が言った事、ホントだと思うか?」
「・・・僕は本当だと思う。」
「そうか、」
「どうしてそんな事を?」
シロウの言うとケンイチは焦点の合ってないような、まるで彼に対してではなく他の誰かに言うように言葉を漏らした。
「バンパイアが存在するかどうかってよりも、お前が信じているかいないか、それが気になっただけだ。」
「ケンイチ?」
「学校始まったら起こしてねぇ?」
最期にいつもの彼にもどったケンイチをシロウはこれ以上追求することが出来なかった。