シロウたちのクラスの「たこ焼き屋」は大繁盛とは言いがたいものの、それなりにお客を入れていた。かぐわしい香りも数時間も嗅ぎ続ければ、それは悪臭に匹敵するほど厄介な臭いになった。
そして彼らの教室はその臭いで充満していた。

「あれ?ケンイチは何処に行ったの?」
「わからない。何時の間にか消えていて。」
「ホント、掴めない奴ね。」

悪臭を避けるためにシロウとユウコの両名は教室を出た。
そして彼らは自然と共に騒がしい廊下を歩いていた。
その後ろに一人の影がついてきている事に気付かずに。

「シロウ、何か食べたいものある?」
「えっとぉ。あれかな?」

ユウコがシロウの指差した店を見ると途端に人を魅了する笑顔を浮かべた。
彼は「たこ焼き屋」よりも人が賑わう三年の「クレープ屋」を指差したのだった。

「相変わらず甘党ね。」
「へへ、」
「デェート中、シッツレイしまぁす。」
「きゃぁ!」
「うあぁ!」

のほほんとしていたシロウとユウコはケンイチに抱きつかれたことで二人して大声を挙げた。

「ケンイチ、今まで何処に?」
「いやぁ、ちょっと一人で散策していたんだけどぉ。目の前にお二人さんがねぇ仲睦まじく歩いていたもんでぇ。少し観察を兼ねて尾行を少々ぅ。」
「尾行なんかしてないでよ!」
「ははは、」

ケンイチの意味不明な行動に疲れた笑い声を出すシロウと顔を朱色に染めて文句を言うユウコだった。

「ん?ありゃぁ?シロウの坊ちゃんよぉ、顔色よろしいなぁ?」
「あ、うん。よく眠れたから。」
「今日も悪夢は見なかったんだって。」
「ふぇ、そりゃぁよかったなぁ。俺の悪夢の避け方はあってたろ?」

正確には今日は、だがユウコは昨日も夢を見なかったと信じていた。
しかし今日だけはシロウは例の夢を見る事無く眠りについていた。むしろ何時もの浮遊感の無い寝起きに違和を感じたことに危機感を覚えていた。

「やっぱり手を握ってもらうってのは効果があるだねぇ?」
「そうみたいね。ちょっと癪だけど。」
「・・・。」
「キシシぃ、」
「何笑ってるのよ?」
「べっつにぃ。なんでぇもぉ。」
「・・・。」

ユウコは今日も昨日と同じ様にシロウの手を握って眠りについた。
その効果を信じている彼女は兎も角、ケンイチの嘘に気付いているシロウもそれを訂正すること無かった。
下心など無い、といえば嘘になるが彼女に手を握られているとシロウは安心して眠ることが出来たのだった。
その意味を込めてシロウはいった。

「ありがとう。ユウコのおかげで悪夢を見なくなったよ。」
「っ、・・・、ど、どういたしまして。」
「プククク、」
「だから何笑ってるのよ。」
「べ、べっつにぃ。プククク。」

あまりにも純情すぎるシロウとユウコのやり取りをみてケンイチは噴出すのを止められなかった。

「どうせ店は今日までだしぃ?楽しもうなぁ。」
「うん、」
「もちろん、そのつもりよ。」

ケンイチが大きく一歩を踏み出すのに連れてシロウとユウコもそれに続いた。
最早、夜といっていい程の暗闇が学校を包んでいた。
ハタ中学校からでる生徒は一様に疲れを隠しきれずに肩を落としていた、その光景はさながら戦場帰りの戦士のようだった。
こういう時に家が近い者は得である。

「何これぇ、」
「明日の食材。」
「シロウとアタシの家が一番近いからって食材を任されたのよ。」
「冷蔵庫ビッシリィ、オドロキィ!」

しかし家が近いという事はつまらない用事を頼まれるという事でもある。
シロウの家は現在、明日使う衣装やら材料やらで溢れ返っている。
そして逆に冷蔵庫を覗き見るケンイチはクラスの中でも一番に家が遠い。
電車を乗り継いで三十分もかかる、それは彼の家が町外れの郊外かであるらで一番近い中学校がこのハタ中学校だった。
そしてシロウの家に泊まっていくのを前提に彼はやって来た。

「さてさてぇ、今日の夕飯は何かにゃぁ?」

さすがにユウコもケンイチの状況に同情し、シロウの家に泊まっていく事を許可した。

「コンビニ弁当でしょ、今日は勘弁してよ。」
「頂きます、と」
「まぁ、食えるだけましかぁ。」
「さて、一応は準備できたかしら。」

シロウとケンイチは一斉に弁当を食べ始めた。ユウコはこの部屋にご飯の準備ではなく、文化祭の準備の一環としてここに居る。
さすがの彼女も今日の準備に追われ疲労感たっぷりで、何時ものテキパキした行動も何処かたどたどしい。

「ユウコ、大丈夫?」
「あぁ、気にしないでいいわ。」
「お茶入れるよ。」
「ありがと、」
「うちもぉおねがぁい。」
「はいはい、」

シロウが三人分のお茶を台所から持ってくるとユウコとケンイチの二人は疲労色濃く座っていた。

「はい、お茶」
「あ、ありがとう。」
「サンキューねぇ。」
「あと二日だから踏ん張ろう。」
「まだ始まってもない文化祭だけどな。」

ケンイチが言うとそれに呼応してシロウとユウコは大きく溜息をついた。
その溜息には明後日の劇「白雪姫」の問題も含まれていた。

「クラスの奴ら、人事だと思って適当なことを言いやがって、」
「むしろキスシーンを看板に宣伝しているみたいだね。」
「所でお二人さんよぉ、ファーストキスは済ませているけぇ?」

空気が硬直した。
シロウは顔に血を巡らし、ユウコは手に持っていた湯呑みを落とした。

「熱っ、」
「あぁ!今拭くもの持ってくるから!」
「互いに未経験どすかぁ。」
シロウが台所に消えて、一人になったユウコは紅色に染まった。

「おいおいぃ、そんな純情二人組がキスなんで出きんのけぇ?」
「るっさい、やってやるわよ。やって見せるわよ!」
「ユウコ、これで拭いて、」

あまりに煽り過ぎて発火点を越えたユウコは開き直った。
シロウも落ち着いたようだが今だ顔は赤み帯びている。

「皆はやれって言うけど、やっぱりガムテープか何かを使おうと思うんだけど。」
「それは、」
「ユウコも始めてのキスぐらいは大切にしたいよね?」
「別に、・・・アタシは」
「あかんよぉ、そんな事しても幕は下ろさないからねぇ。」

ユウコが何か言う前にケンイチがちょっかいを出したことにより、シロウは彼女の意見を聞くことが出来なかった。
大切な一言を

日が昇れば、文化祭が始まる。
アクセスカウントがエラーと言うことで落ち込むツバメです。
ぬか喜びで恥ずかしい。

唐突ですが、私は反社会精神の持ち主です。
反社会精神といえばヤンキーやら犯罪者のように社会に適した行動をとれない人達の事をいうものですが
すこし粗雑な言葉を用いますと。

「上等だ、コノヤロー」

もちろん、社会の不特定な人達を守るのも大切ですか。
社会やら世間の為に生きるよりも自分自身や家族、友達、恋人の為に生きる方が尊い気がします。

私はそう思います。
ハタ中学校の文化祭は多忙である。

明日に差し迫る文化祭は二日間の日程を組んでいる。
土曜日はお祭りのようにクラスごとで店を出して、日曜日はシロウ達の演劇「白雪姫」を含めた生徒達の出し物を披露する事になっている。

「・・・、疲れた。」
「まだまだぁ、後半日もあるだぞぉ。」
「一年のときも思ったけど、この忙しさは尋常じゃないわね。」

多忙である理由、それはこの二段階構造にあった。
通常なら店か出し物かの二択を迫られるが、この中学校はその両方を選択した珍しい学校である。
その代償として生徒達は異様なまでの忙しさを味わうことになる。

「授業が無いのは非常に嬉しいにゃけどぉ、こりゃぁまじでやばいなぁ。」
「はぁ、まだ午後に最終リハーサルも残っているのよねぇ。」
「・・・。」
「黙るにゃぁ、シロウ坊ちゃん。」

前日の金曜日は授業もなく、シロウ達は丸一日を文化祭の準備に費やしている。
シロウのクラスは「たこ焼き屋」と「白雪姫」の準備をしているものの、午前の準備だけで皆一様に疲れた顔をしていた。

「まったく、内の学校も何を考えているのよ。」
「何も考えてないだろぉ、ここの教師は馬鹿ばっかだから、」
「もう、帰りたい。」

弱音を吐くのも仕方が無いことである。
放課後は最後まで居残って準備に励み、なおかつ前日は嵐のように物事が進むのだから。

「そういえば、シロウ。あの夢はどうだった?」
「え、」
「ケンイチがね、悪夢を避けるには他の人に手を握ってもらうのが一番だって言ったのよ。」

ユウコが自信満々に言う背後でケンイチがクツクツと笑いを抑えていた。
騙されていることに気付かない彼女に何か言うのも気が引け、それに手を繋いでいた感覚は大切にしたい気がした。

「どうだった?」
「あ、うん。夢は見なかったよ。」
「そう、よかった。」

満面の笑みを浮かべるユウコと嘘をついて戸惑うシロウの姿を見たケンイチは。
とうとう笑いを抑えきれずに教室を走り出て行った、そのあと騒がしい廊下に更に大きい笑い声が響いた。
その様を不思議そうに彼女は首を傾けた。

「どうかしたのかしら?」
「いや、気にしなくていいよ。」

このままにしておこう、シロウはそう考えた。
この問題よりもこれからの準備のほうが大変だ、と理解していたからだった。

レポート終わりのツバメです。


最近、硫化水素での自殺が多発しているようですね。

洗剤の中に入っている化合物を利用しての自殺なんて、化学の人間からしては遺憾です。


はっきり言いましょう。

「迷惑な人間が迷惑な死に方をすれば、それが一番迷惑に決まっている。」

そうだと思いませんか?

だから迷惑な人間は迷惑なので死なないでください。


まぁ、こんな話を夜に父親としたわけですが。

なんともまぁ、格好をつけたものですね。