私がそこを歩いていると、脇に井戸があった。
井戸なんて気味が悪いので、すぐ立ち去ろうとしたのだが、心とは反対に足はそちらへ向かっていた。
私は恐る恐る中を覗いてみた。
しかし暗いばかりで、何とも判断しようがなかった。
それならば石を落としてみようと思い、地面を見下ろしたが、それらしき塊はなかった。
どうしたものかと思ったが、私は目の前に綱がぶら下がっていることに気づいた。
きっと中の桶と繋がっているのだろう。
私は以前より、これに興味があった。
この綱をたくし上げてみたいと思っていたのだ。
私は少し躊躇ったが、綱を引いてみた。
すると、ずしっと重みを感じた。
やはり水が溜まっているのだろうか。
私は更に綱を引いた。
これはなかなかに重い。
ずしっ、ずしっと、引き上げるごとに重さが手にのしかかった。
もうそろそろだろうか。
私は子供に戻ったような心境で綱を引き続けるが、思ったより深さがあるらしく、桶はなかなか姿を見せてはくれなかった。
私もそう若くはない。
腰に負担がかかる前に、なんとか姿を現してもらいたいところだ。
ずっし、ずっし。
ずうっし、ずうっし。
ずうううっし、ずうううっし。
徐々に綱を引く速度が衰えてきた。
私は声にこそ出さなかったが、懇願していた。
頼みます、私もそう若くはない。
この白髪混じりの頭を見れば分かるだろう。
その声が届いたのか、それはやっと顔を出した。
しかし、それは思い描いていたものではなく、本当に顔と呼ばれるものだった。
私は恐怖して、綱から手を離した。
落下するそれは、低くうめき、闇に飲まれていった。
〈完〉