ショートストーリー「親子丼のない店」 | 森本オレオの落書き帳

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■親子丼のない店


「なんだこの親子丼は!しょっぱいじゃないか!」

その店で親子丼を注文すると、必ずそんな怒鳴り声が聞こえてきました。

そんなはずはないと思いながらも、店主は親子丼を食べてみました。

すると本当にしょっぱいのです。

店主もこの道は長いので調味料の配合を間違えるわけはないのですが、万が一の可能性もあるので今度は計量スプーンで計って作ってみました。

すると、またしてもしょっぱいのです。

「なんでやねん!」
店主はバリバリの江戸っ子ですが、思わず関西弁でつっこんでしまいました。

よほど興奮していたのか、その後も関西弁が直ることはなく、
「もうええわ!」
と親子丼を店のメニューから外してしまいました。

それに対する客の反応は特にありませんでした。

がっかりする者がいるわけでもなく、復活を願う者がいるわけでもありませんでした。

皆、親子丼がしょっぱいことを知っていたので、
「やっとなくなったのか」
と思っていました。

店主は親子丼の代わりに、いとこ丼を新メニューに加えました。

これなら大丈夫だろうと店主は思っていました。

しかし味が濃いと評判は今一つでした。

店主はまた確かめてみました。

やはり味は濃く、調味料を計って作っても同じでした。

「なんでやねん!」
店主はつっこみのキレがよくなっていました。

今度はいとこ丼をメニューから外し、はとこ丼をメニューに追加しました。

「今度は頼むで」
店主の心の声はすっかり関西弁になっていました。

しかし、はとこ丼は味が薄いと評判はよくありませんでした。

店主は確かめてみましたが、やはり「もうええわ!」という結果になりました。

「やめさせてもらうわ!」
店主は関西弁を完璧にマスターしました。

店主ははとこ丼をメニューから外し、新しいメニューは追加しませんでした。

客は口には出しませんでしたが、
「いとこ丼あたりで、そうしたほうがよかったんじゃないか」
と思っていました。


そして、ある日のことです。

店に一人の男が入ってきました。

店主はいつものように、
「いらっしゃ~い」
と桂三枝口調で言いました。

男は親子丼を注文しました。

店主は親子丼は置いてないと言いました。

すると男は、
「親子丼なんて、とり肉煮て、卵でとじちまえばできるだろうが。いいからさっさと持ってきてくれよ」
と言いました。

店主は怒って、
「何を言う!早見優!」
と言い返しました。

すると男は、
「なにこの店、まじダリィ。まじダルビッシュ」
と言い残し、店を出ていきました。

しばらく親子丼のことは忘れていた店主ですが、それを切っ掛けに親子丼が気になり始めました。

「親子丼のことはもう忘れたほうがええ」
と頭では分かっていても、どうしても親子丼のことを考えてしまいます。

しかし店主はこうも思いました。

原因が分からないからモヤモヤしてるんだ。
だったら解決してしまおう。

店主は、店にあるとり肉と卵をあるだけかき集め、親子丼を作りまくりました。

しかし何度やってもしょっぱいのです。

むしろ前よりも味が濃くなっていました。

店主は参ってしまいました。

「トゥナイトはオールナイトやな」
と店主は思いました。

そして、ふと思いました。

目を見張らせていたのは調味料だけで、材料はノーマークじゃないか、と。

店主は材料に目をやりました。

すると、とり肉と卵から足が生え、調理台を歩き回っているのです。

そして何やら声も聞こえます。

とり肉からは、
「1、2、son!」

卵からは、
「お父ther!」

という声が聞こえてきました。

そしてお互いを見つけたのか、抱き合ってワンワン泣き始めました。

店主はようやく気づきました。

この涙の塩分が味を濃くしているのだと。

原因が分かった安堵と眠気から、店主は意識を失いました。

そして菜箸を頭の上でクロスさせ、床に倒れ込みました。

倒れた拍子に鍋やボールが壊れました。

そのときの店主の顔は、満足そうに微笑んでいるようにも見えました。

そうして"親子丼な夜"は幕を閉じました。


その後も、店に親子丼が復活することはありませんでした。

しかし親子丼を出せない分、その穴埋めをするように、他のメニューに力を注ぎました。

料理はさらにおいしくなり、雑誌にも取り上げられました。

そのお陰で客が増え、ますます店は繁盛しています。

「まいどおおきに」
親子丼のない店は、今日もお客さんで溢れています。


-完-