やがてひとつの疑問が頭に浮かんだ。
クローゼットになぜスコップがあったんだろう。
ここは現実の世界だ。
僕は夢の中でしかスコップに触れていない。
ここは夢の中なんだろうか。
いや、そんなはずはない。
しかしここは現実ではないと証明できるものも、人もいない。
僕の体は自然と動いていた。
気がつくと僕はさっきまでいた壁の前に立っていた。
壁にはさっき僕がつけたスコップの跡があった。
そして僕は動けなくなった。
僕は全身を嫌な予感という名のロープでぐるぐる巻きにされた気分だった。
もしかすると原因は簡単なものだったのかもしれない。
事の始まりはこの壁だ。
夢に神社や街が出てきたが、たぶんそんなものは関係ないのだ。
匂いのする壁。
女からも同じ匂いがする。
女は僕にスコップをどうしても持ってこさせようとした。
僕は穴を掘っていた。
女は必ず壁の中に消えていった。
そして、さっきの骨の手。
匂い。壁。女。
スコップ。掘る。骨。
僕は確信した。
女はここにいる。
僕はスコップを壁に突き刺し、壁を掘った。
きっと女は出てくる。
そして僕は必ずゆきえを取り返す。
僕は必死で掘り続けた。
そしてやっと見つけた。
僕の目の前には骨だけになったあの女――かどうかはまだ分からないが――が現れた。
その後すぐに僕は引っ越した。
骨の身元はやはりあの女だった。
大家さんによると、あの女は僕の前に住んでいた夫婦の、旦那さんの浮気相手だったらしく、それを知った奥さんが逆上して浮気相手を殺し、壁に埋めたということだった。
大家さんは公表すると住人が減るので黙っていたらしい。
僕はゆきえに手紙を書いた。
内容は引っ越したということと、解決したということだ。
返事はすぐに返ってきた。
手紙によると、どうやら彼女のところにもあの女が来ていたらしく、恐怖から手紙の返事を書くことも、電話をかけることもできなかったらしい。
僕はすぐ彼女に電話をかけ、今夜会う約束をした。
彼女の声は明るく、本当に嬉しそうに返事をした。
僕はあの苺の香りがしそうな爽やかな笑顔を思い浮かべた。
-fin-