小説「壁」第七話 | 森本オレオの落書き帳

森本オレオの落書き帳

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ゆきえと最初に会ったのもあのカフェだった。

僕は本屋で働いていて、その理由も本が好きだからという単純なもので、休日はよく本を読むのだ。

その日もよく晴れていて、光で街が白く見えるほどだった。

カーテン越しのワントーン落ちたやわらかい光を浴びながら読書というのも捨てがたかったのだが、どうせならうまいコーヒーを飲みたかったので本を持って外に出た。

その辺をぶらぶら歩きながらコーヒーを飲めそうな店を探していて、最初に目についたのがそのカフェだった。

その店は昼でも夜を連想させた。

窓が小さいので店内は圧倒的に日陰が多く、光が射しているところは窓くらいしかなかった。

店自体が他の店よりも五十センチほど奥にあり、屋根にも光を遮る工夫がされているようだった。

店内には客が程よい密度で収められており、ケーキやパンなどが収められているガラスケースの奥に、ゆきえともう一人の女の子が立っていた。

二人はお客さんの邪魔にならないような小さな声で仲良く話しているようだった。

ここなら読書に集中できそうだなと思い店に入った。

外壁も内壁も群青色で、家具はチョコレート色で統一されていた。

僕は窓際の角の席に座った。

そこからは中から外の景色は見えるが、外からは客の顔は見えないようになっていた。

小さめの正方形のテーブルの上には、二十角くらいはありそうな多角形のランプがぶら下がっていた。

そのランプは薄暗い店内で唯一存在感のあるものだった。

森の中でぽつんと明るく灯る家の明かりみたいだった。

なかなかいい店だなと思った。

店の名前は読書カフェだったが、僕は勝手に群青カフェと呼んでいた。

注文はゆきえじゃないほうの女の子が取りに来た。

僕はカフェオレを頼んだ。

それから数秒窓の外を眺め、本を開いた。

空がランプと同じ色になってきた頃、洗濯物のことを思い出して店を出た。

洗濯物をたたんでいると、注文を取りに来た女の子ではなく、なぜかふとゆきえの顔が頭に浮かんだ。

それがゆきえとの最初の接点だった。

それからは時間ができると群青カフェに通うようになった。

昼でも夜みたいで読書に適しているからと自分では思っていたのだが、もしかすると僕はゆきえに会いたかったのかもしれない。