エンジン工学的に振動が少ないとかマシンが軽いという話とは別の話をしよう。
katoさんのコメントにあるように、High Powerになるほどビッグバンエンジンの方がライダーに好まれることが多いようだ。
まったくいらん突っ込みをするから・・・・書くの大変じゃんかぁ~(笑)
その理由としてあげられるのが、トラクション・フィーリング
トラクションを感じ取りやすく、コントロール性に優れるというコメントとなることが多いようだ。
オフ車でも同様のコメントを聞く。
その昔のパリダカ全盛時代。
ヤマハは単気筒のテネレの他に直列4気筒エンジンを積んだパリダカ用のモンスターマシンを作った。
しかし、雑誌などで読んだのは、4気筒エンジンはトルクが薄くトラクションに乏しいため、地面を掻くばかりで前に進まないと言うものだった。
要するにオンロードだろうがオフだろうが、一発一発の爆発力が強かったり、不等間隔爆発だったりする方がトラクションが良く、かつ、コントロールし易いと言うことらしい。
この事を説明するためによく使われるのが
タイヤの能力円
である。
タイヤのグリップ力について考えてみよう。
単純化するためにある一定の面積で地面と接するタイヤがあるとする。
このタイヤを押したときには地面との摩擦力にうち勝つまではタイヤは動かない。
また、どの方向に力を加えたとしてもその最大摩擦力は一定である。
つまり、タイヤのグリップ力をベクトルの大きさで表したときに、そのベクトルの大きさは常に一定であり、かつ、どの方向へも同じ大きさとなる。
ベクトルの先端が描く軌跡をつなぐと、原点を中心にした円が描ける。
これをタイヤの能力円というのだ。
たとえば、車の場合はハンドル=タイヤに舵角を入れて進行方向との間に角度を持たせることでコーナリングフォースを得る。
すなわち進行方向とタイヤの回転方向に「スリップアングル」をつけることでタイヤの進行方向を変えるためのグリップ力を得るのだ。
しかし、このときに発生することのできる摩擦力の最大値は方向を問わず一定である。
もし、ブレーキングしながらハンドルを切ってスリップアングルをつけた場合に得られる摩擦力もそのベクトルの大きさは、ただハンドルを切っただけの時と同じである。
しかし、車の進行方向に対してブレーキという形で摩擦力成分を使っている以上、ベクトルの向きは異なり、車の向きを変えるためにつかえる摩擦力(=ベクトルの分力)は、少なくなってしまうのだ。
当然、アクセルを踏んで加速しながらハンドルを切っても同じ事が起きる。
つまり、フルブレーキングやフル加速では、タイヤのグリップ力を100%、前後方向の力として使い、ハンドルを切っただけの時は、車を回頭させるために100%つかえる。
ブレーキングしながら、あるいは加速しながらハンドルを切った場合にはベクトルの最大値は同じでその角度分だけの分力のグリップ力をそれぞれが使えると言うことだ。
回りくどい言い方をしたが、単純なモデルに於いては、
より大きなコーナリングフォースを得るためには加減速はしないでハンドルを切った方が車は良く曲がると言うことだ。
もちろん、あくまでも単純化したモデルの場合の話である。
実際の車の場合には加減速による垂直方向の加重変化も起きるし、タイヤのサイドウォールの変形もある。
2輪に至ってはバンクして曲がるという特性上、上述のコーナリングフォースだけでは説明が付かず、キャンバースラスト力も考慮しなければならないし、バンクすることによる接地面積の変化も無視できない。
・・・・とまあ、堅苦しいことを書いたが、話をビッグバンに戻そう。
たとえばバイクが直立状態でタイヤのグリップ力をすべて加速に使いたい場合。すなわちフル加速状態を想像して欲しい。
馬力やトルクが同じエンジンだったら、それが単コロだろうが、V4だろうが、ましてやビッグバンやスクリーマーなんてのは関係ないはずだ。発生させた力の分だけタイヤが仕事をするだけだ。
しかし、実際にはエンジンには爆発力による回転方向のムラがある。
クランクシャフトは爆発力を得た瞬間に加速し、次の爆発まではその慣性マスによる惰性で廻るだけだ。
すなわち、クランクシャフトというのは「丸く廻るものではない」と言うこと。
常にぎくしゃくしながら廻っているのだ。
カタログに載っているトルクや馬力はこのギクシャクを平滑化した場合の数値だ。
だから、同じ400ccでも単気筒ではどっかんどっかんと鼓動を感じるし、直4ならモーターのようにスムーズに回る感覚を感じ取れるはずだ。
これはすなわち、タイヤに伝わる力も同じ事だ。
平均化すれば同じ大きさの力でタイヤを回していても、単気筒は瞬間的にものすごく大きな力でタイヤを回し、あとは惰性で回るだけ。
どっかぁ~ん、どっかぁ~ん
ってかんじ。
直4は短い間隔で
どん、どん、どん、どん、どん・・・・・・
となる。
このときにどっかんのひと山が大きいほど、瞬間的に大きくタイヤの能力円を超える力を与えてしまい、スリップすることになる。
その点、より小さな力で均等にタイヤを回す、等間隔・多気筒の方が能力円の限界を超えることは少ないようにも思える。
しかし、ライダーがより速い加速を求めてどんどんアクセルを開けると、より強い力でタイヤを回すことになり、ついには能力円の限界を超えることになる。
このとき、等間隔マルチエンジンでは、爆発間隔が一定かつ短く、しかも同じ大きさのため、ずるっと来たあとは一気に滑ってしまうのだ。
(静μ>動μ)
その点、不等間隔爆発の場合、一発ずるっと来ても次の爆発までに「間」があるため、惰性で廻る間に能力円の限度内に戻ってくる。
したがって、限界が掴みやすく、コントロールしやすい。
以上が、ビッグバンがコントロール性に優れると言われる内容をタイヤの能力円で説明したものだ。
多気筒になればなるほど差は少ないのかも知れないが、先のパリダカマシンのように単コロと直4を想像してもらえると、感覚的に理解しやすいのではないだろうか?
こういう話に興味があるならタイヤにかんする本を読んでみて欲しい。
たとえば、こんな本
これらを読めば、ボクがそれほどいい加減なことを言っているわけでは無いことがわかるはずだ。
もっとも受け売りなので、それ以上の説明はできないけどね。
以上、本日の講義終了。
いつものように疑問、異論、反論は一切受け付けない。
起立。礼。着席。