4輪のF1では未だに決着が付いていない、最終戦における燃料温度規制違反の問題。
燃料の温度を、外気温に対してマイナス10℃以下に下げてはいけないと言うことだが、BMWとどこだかが違反していたとのこと。
この行方によってはルイス・ハミルトンの順位が繰り上がり、F1チャンピオンになれるかも知れない。
ま、F1の件は知ったこっちゃ無いのだが、MotoGPでも似たような話が持ち上がっているらしい。
燃料温度の規制が来年からMotoGPでも始まるらしいのだ。
詳細は不明だが、すでに日本の4メーカーは既に基本合意しているのだが、ドゥカティが規制そのもの?に対して執拗に反対しているらしい。
逆説的に言えば、ドゥカティは燃料冷却を実施しており、それによってあの驚異的なパワーを生み出していたと言うことになるのかも知れない。
この点についてメカおたく的見地から考察を加えてみたい。
ヤマハにしてもホンダにしても、今シーズン開幕後に、雑誌やネットで聞こえてきた噂では、単に馬力を出すだけならドゥカティと遜色ないレベルにあるが、レースディスタンスを走りきれるセッティングにした場合は、燃料をそこまで濃くすることが出来なかったと言うことだった。
だから、シーズン中には(半ば、冗談ともやっかみともつかないが)「ドゥカティはどこかにサブタンクを積んでいる」なんて言う噂が飛び交っていたのだ。
馬力を出すには単純に言えば、如何に燃料をたくさん燃やすかにかかっている。
ターボのように力ずくで押し込むのもひとつの手段だ。
今回の場合は燃料を冷却することによって、燃料の体積あたりの重量が増え、結果として馬力が出ると言われるとなんなくわかったような気になってしまう。
しかし、それはたくさんのガソリンを詰め込んでいるのと同じことである。
タンク容量に上限がある以上、それでは予選は良くても、レース距離を走りきることは出来ない。
つぎに考えられるのは、燃料冷却によって、シリンダ内に吸入された混合気自体の温度が下がり、ノッキング限界が上がるのではないかと言うこと。
一般にノック限界が上がれば、それだけ最適な点火時期まで進角させることが出来、結果として良好な燃焼が得られるため、無駄に捨てるエネルギーが減ると言うことだ。
エンジンというのは供給した燃料の持つエネルギーを100%使い切っているわけでは無い。
冷却損失や摩擦損失、排気損失・・・たくさんある。
よりよい燃焼状態を得ることで燃料の持つエネルギーをより多く取り出すことが出来る。したがってパワーは出るし、燃費も良くなる・・・・・
・・・・・どれも理屈の上では、あり得なくも無さそうだが、現実的な効果はもっと単純なところにありそうだ。
途中でピットインして給油するF1はともかく、スタートしたときに積んでいるガソリンでレースを走りきるMotoGPにおいて、注目すべきは、液体の体積膨張率である。
ものの本によると、気温20℃におけるガソリンの体積膨張率は、
1.350×10^-3
である。
21Lのガソリンがあるとしよう。
これを外気20℃の時に、10℃まで温度を下げたら、その体積変化量は、
21x1.35x10^-3x10=0.284
すなわち、20℃では21Lの体積だったガソリンが20.716Lに変わると言うことだ。
回りくどい書き方をしたが、要するに今年のレギュレーションであるタンク容量21Lに対して、ガソリンを10℃冷やしてから入れてやれば、余分に0.3リットル弱のガソリンを詰め込むことが出来ると言うことだ。
0.3Lと言うと21Lに対する割合としては1割強となる。
これは大きい。よそのチームの1割り増しの燃料を使って良いとなれば、ぐっと楽になるだろう。
これがドゥカティが出力重視の燃料セッティングでもレースディスタンスを走りきれる秘密だったのかも知れない。
F1における燃料温度規制の目的も馬力云々と言うこともあるかも知れないが、基本は同じ理由だとおもう。
今までのレギュレーションを詳しく知らないのだが、少なくとも’07のMotoGPには、この規制がなかったはずだ。
だとしたら、ドゥカティのブレインを賞賛したい。
理屈自体は別段目新しいことではないが、今までどこのチームも本気でやっていなかったことをやったのだから。
しかもレギュレーションには違反せずに・・・である。
その昔、鈴鹿8耐でもスタート前のグリッドに着いたマシンの燃料タンクにドライアイスの入ったカバーを掛けていたのを見たことがあるが、少なくともガソリンをたくさん入れるという効果はなかったはずだ。
もしかしたら、混合気の温度が下がって充填効率が上がって馬力が出る(・・・かもしれない)というレベルだ。
むしろ、跨った瞬間にライダーが涼しくて気持ちいいという効果の方が大きかったかも知れない。(笑)