安善駅 から真っ直ぐ東へ伸びている道に沿って、突き当りまで移動してきた。
突き当りには工場の門、そしてそこから南に、踏切を跨いでまだ道が真っ直ぐ続いている。
私は南に向かう。
線路を右側に従えながら歩み進む。
大川支線は、安善を過ぎてからは単線となるようだ。
道の左右には大小の工場が並ぶ。
しかし日曜の昼間という事もあり、たまにトラックが行き交う以外はひっそりとしている。
猫が数匹、道端で戯れている姿まで見られた。
安善から、20分程歩いてきただろうか?
運河を跨ぐ橋を渡りきったところで、小さなホームが見えてきた。
私は自ずと足早になる。
ひと気の全くいない小さな駅に、ようやく到着した。
「大川(おおかわ)駅」
鶴見線の、3つ存在する終着駅の1つとなる。
単式ホーム1面1線という最低限の構造を持つ終着駅。
ホームに隣接する線路の他に側線を持っている。
貨物用に使用されていたと思われるが、草が生え放題の状態で、長らくその側線は使用されていないらしい。
ホームから100メートル程先に、車止めが設置されているのが見える。
簡易Suica改札機と使用済み切符の回収箱が置かれただけの改札を抜け、駅舎を眺めてみる。
これが終着駅かと思うような、至って小さく、そして鄙びた感じの駅である。
しかしその木造の駅舎は、見れば見るほど、どことなく哀愁が漂ってくる。
鶴見線の中では1番風情の感じられる駅ではないだろうか?
駅前には、日清製分をはじめ、昭和電工、三菱化工機などの工場が建ち並ぶ。
巨大な工場に四方を囲まれたようなこの小駅は、かえって周りの風景から浮き出でた印象をもたらしている。
駅を去る前に、この駅の時刻表を見てみる。
こんなに空白の多い駅時刻表は今まで見たことがない。
この駅最大の特徴を、この時刻表が語っていると言っても過言では無いだろう。
旅客列車は朝晩のみの運行であり、完全に駅周辺の工場の従業員用のダイヤが組まれている。
土日祝日に至っては、朝2本、夕方1本しか列車が来ないというありさま。
先日訪れた吾妻線の終着駅、大前 の1日5本というのにも驚いたが、この駅はそれ以上にダイヤが薄い。
次の電車は18時1分。
今から4時間も待たなければこの駅に電車は来ない。
もちろん私は、今来た道を再び徒歩で折り返すのであった。
最後に駅名の由来だが、日本初の製紙技師としていくつもの製紙会社を興し、「製紙王」と呼ばれた大川平三郎にちなんでいるとの事だ。
蛇足だが大川平三郎は、「日本資本主義の父」と言われた渋沢栄一の甥にあたる。
海芝浦駅 とはまた違った感動を与えられた駅であった。
次は絶対、電車でこの駅を訪れたい。